「嬉しいというよりも、とにかく勝たないと」柴崎岳が語る2年ぶりの日本代表。
「あれからもう2年か・・・。自分では1年くらいの感覚だった。そんなに経ったんだなと」
その日もマドリードは晴れていて、夏の終わりの薄い雲がスタジアムの上にぽっかりと浮かんでいた。
紅白戦が終わり、しっかりと日に焼けた柴崎岳が姿を現わす。
久々の日本代表招集、柴崎は2年という月日に驚いたような表情を見せた。
無理もないだろう。代表を外れている期間、特にこの1年の間、彼は激動の日々を過ごしていたからだ。
鹿島アントラーズでのJリーグ優勝に、世界に名を知らしめたクラブワールドカップ、レアルマドリー戦での活躍があった。年があけ、ラスパルマス移籍の可能性が浮上しては消滅し、行き先はテネリフェとなった。劇的な環境の変化を肌で感じながら戦い、チームは1部昇格プレーオフ決勝まで進むも、わずか1点の差で敗退。そして翌月、奇しくも決勝の相手ヘタフェへの移籍が決まった。
スペインでの現実を生きていた
他のことを考えるにはあまりにも濃厚な日々を柴崎は過ごしていた。
「特にスペインに行ってからは、代表について考えている余裕がなかった。代表は縁があれば呼ばれる場所。ここでの現実を生きていたし、自分がいない場所のことは想像してなかった。もちろん、代表の結果は追ってはいたけど。今回、久しぶりに代表に合流して、どういう感覚になるのかなと」
久々の代表戦はいきなりの大一番だ。
8月31日のオーストラリア戦、日本は勝てばロシアワールドカップ出場権を手にし、負ければ窮地に立たされる。今週末にセビージャとのリーグ戦を戦い、翌朝飛行機に乗り、日本到着は試合の2日前。さあ久々の代表だと、ゆっくり適応している時間はない。柴崎は言う。
「選ばれて嬉しいという感情よりも、とにかく大事な試合だから勝たないといけないという気持ちです。ホームだから有利には違いないから、今までやっていたことを自信を持ってやるだけ。代表に行って何かを変えるわけでもないし、自分ができることを集中してやりたい」
やれることをやる。淡々と、あくまでもクールに。内面やスタンスは昔から変わらない。
変化があるとすれば、最後の代表での試合からおよそ2年が経ち、彼自身が置かれた環境が大きく変わったということだ。
「スペインに来て分かったことがたくさんあった。世界、特にワールドカップで外国人選手相手に戦うとなると、こういう環境に慣れていないと結果を出せる可能性は低いのかな、と。もちろんJリーグも大事だけど、選手がもっと海外に出てそこで活躍する選手が20〜30人出てくる状況にならないといけないと思う。自分自身、このまま日本でやっていても、実際に世界の舞台に立った時に力を発揮できるのかという疑問もあった。それを変えたくて海外に出てきたわけだけど、よかったなと思います」
海外の厳しさ。覆った思い
日本を離れて感じたのが、過去に欧州へ渡った先人たちのことだ。
柴崎の前に多くの日本人選手が海を渡り、欧州でプレーしてきた。成功した選手もいれば、そうなれなかった選手もいる。彼らも経験したであろう厳しい環境を、身をもって知ることができた。
「日本でやっている時には気づかなかった。でも実際に来てみて、海外でやっている選手はみんなすごいなと。誰もが厳しい環境に身を置いてプレーしている。こっちに来てそれがわかった。日本にいた頃は、“日本にいる自分たちもやれる”という変なプライドや誇りもあったけど、それが覆った感がある。やっぱり違うんだなと」
今回の代表チームも海外組もいれば、国内組もいる。しばらく代表を離れていたとはいえ、連携に不安はない。選出された選手も、「ほとんどみんな知っているから問題ない」という。
頭にあるのは、ワールドカップをたぐり寄せるために、全員で一丸となるべきということだ。
「勝つためにプレーするだけです。いつもやっている以上のプレーはできないし、特別なことをするつもりも全然ない。選ばれた人間が、ワールドカップに行くんだという強い気持ちを見せるべき。先発、ベンチメンバー、ベンチ外も含めて一丸とならないと。みんなでひとつの方向に、チームやメディアも向かっていくべきだと思う」
25歳で見えた伸びしろ
前週、リーガ開幕戦で1部デビューを果たした。
アスレティック・ビルバオという格上相手に奮闘し、調子もいい。スペインに来てからプレーの幅も広がった。テネリフェではボランチに両サイドまでこなし、へタフェではセカンドストライカーとしてもプレーする。様々なポジションを経験する中で、手応えを感じることもある。
「今になって、すごく伸びしろというか、自分自身もっと成長できるなと思った。いろんなポジションに挑戦させてもらっているから、できないことも見えてくる。25歳だけど、自分に対して可能性が見えてきたなと」
海を越え、苦境をも乗り越え、気がつけば戻っていた日本代表という場所。
新たな可能性を秘めた2年後の柴崎岳は、懐かしいユニフォームを着て、最後の180分間に挑もうとしている。