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【第84回アイスホッケー全日本選手権】明日から長野を舞台にアイスホッケー日本一を決める戦いが始まる!

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
二大会連続MVPに輝いた長野市出身の上野拓紀(Photo: Mr.M)

アイスホッケーの全日本選手権が、明日から始まります。

1930年(昭和5年)に日光(栃木県)で、第1回大会が行われたのを皮切りに、出場チーム数や会場、開催方式などを変えながら(ほぼ毎年)行われてきたこの大会は、「アイスホッケー日本一を決める戦い!」

4季前から出場チーム数と開催時期が見直され、今大会には下記の8チームが参加。明日から18日までの三日間にわたって、一発勝負のトーナメントでチャンピオンを決します。

【アジアリーグ加盟チーム】

日本製紙クレインズ王子イーグルス東北フリーブレイズ栃木日光アイスバックス

【関東大学リーグ優勝、準優勝チーム】

中央大学明治大学

【関西学生リーグ優勝チーム】

関西大学

【日本アイスホッケー連盟会長杯前年度優勝チーム】

釧路厚生社アイスホッケークラブ

★大会の詳細と組み合わせは、日本アイスホッケー連盟のオフィシャルサイトを、ご覧ください。

▼12季ぶりに長野で開催

大会の歴史を振り返ると、7季前には日本代表のキャプテン 鈴木貴人氏(現東洋大学監督)ら、経験豊富な選手が揃うアイスバックスが、中央大学に 5-1 のスコアで完敗を喫したことも・・・。

とは言え、外国人選手も在籍しチーム力の差は明らかなため、日本一へ向けて注目されるのは、やはりアジアリーグに加盟する4チームになるでしょう。

もう一つ注目されるのは、今大会の試合会場。

1998年の長野オリンピックで、男女のアイスホッケー決勝戦が開催されたビッグハットが舞台となります。

長野オリンピックのメイン会場となったビッグハット(Photo:Jiro Kato)
長野オリンピックのメイン会場となったビッグハット(Photo:Jiro Kato)

全日本選手権が長野で開催されるのは、実に12季ぶりとなるだけに、大会の開幕を目前に控え、「長野」に縁がある3人のキーパーソンを紹介しましょう。

▼長野で生まれたスピードスター

今大会で最大の注目選手は、何と言っても、日本製紙クレインズのFW上野拓紀(ひろき・30歳)!

日本製紙クレインズFW上野拓紀(Photo: Ice Hockey Stream.NET)
日本製紙クレインズFW上野拓紀(Photo: Ice Hockey Stream.NET)

長野で生まれた上野は、ジュニアチームの長野ウイングスでプレーをしたあと、高いレベルでのプレー環境を求めて北海道へ移り、インターハイ優勝の実績を誇る武修館高校へ。さらに早稲田大学へ進学してからも、群を抜くスピードを武器に活躍。

同世代の中でも指折りの選手とあって、SEIBUプリンスラビッツの一員になることが内定していましたが、くしくも上野が大学を卒業した春に、プリンスラビッツは解散。そのため韓国へ渡って、High1(ハイワン)と契約を結び、アジアリーグでデビューを飾りました。

言葉も通じない異国の地ながら、1年目からポイントゲッターとして存在をアピールした上野は、3年目にアイスバックスへ移籍。さらに昨季からはクレインズの一員となり、アジアリーグ記録の「1試合5得点」をマークするなど大暴れ。かねてから得点力不足が課題と言われ続けている日本代表のポイントゲッターとして、大きな期待が集まる選手です。

長野県アイスホッケー連盟は、地元出身の上野が日本のチームに在籍するようになってから、「長野でホームゲームを開催して欲しい」との要請を続けたとのこと。しかし、「ホームゲームの興行権の価格が、連盟で支払える金額ではなかった」ため、実現に至らずにいました。しかし、クレインズに移籍した昨季は、対戦相手のイーグルスも含めて協力が得られ、金銭面の大きな負担を担わずにビッグハットでアジアリーグの公式戦を開催。

冷え込む2月の平日に行われたナイトゲームにもかかわらず、スタンドには2000人を超す観客が詰め掛け、試合には敗れたものの、上野がゴールを決めると、大きな歓声が沸きあがりました。

両チームともプレーオフ進出を決めたあとの試合だった昨季とは違って、今大会はアイスホッケー日本一を決める真剣勝負。

一昨季、昨季と、いずれもMVPに輝いている全日本選手権で、上野は自慢のスピードを披露して長野のファンを沸かすとともに、王子製紙の鈴木宣夫氏(現関西大学コーチ)以来、23季ぶりとなる三大会連続MVPを狙います!

▼長野で輝いてきた男

12季前に長野で開かれた全日本選手権で優勝し、MVPを受賞したのが、イーグルスの桜井邦彦監督(44歳)

王子イーグルス桜井邦彦監督(Photo:Jiro Kato)
王子イーグルス桜井邦彦監督(Photo:Jiro Kato)

まだ王子製紙のチーム名で戦っていた当時は、全日本選手権で2年間。日本リーグとアジアリーグに至っては、実に10年間も優勝から遠ざかっていただけに、負傷中の川平誠氏に代わって、キャプテンマークをつけてプレーをしていた桜井は、決勝戦で先制ゴールを含め2ゴール1アシストをマーク。リンク上でガッツポーズを見せるなどして、チームをけん引しました。

そんな桜井のキャリアを振り返ると、全日本選手権に限らず、とかく長野には縁があるようです。

1998年の冬季オリンピック開催が決まり、“長野世代” の若手を中心に日本代表メンバーが選ばれると、すぐさまキャプテンに指名され、さらに本番のオリンピックでは、キャプテンこそ8歳年上の坂井寿如氏(としゆき・元コクド)に譲ったものの、A(キャプテン代行)マークをつけ、若手のリーダー格として献身的なプレーに終始。22年ぶりの白星を、日本にもたらせた陰の立役者となりました。

「長野にはいいイメージがありますね」

今季のアジアリーグの試合前に雑談をしていた時、こんな言葉を口にしていましたが、選手として日本一の栄冠に輝いた桜井は、長野のファンの前で、今度は監督として日本一を目指します。

イーグルスの先輩にあたる高橋啓二氏に続いて、17季ぶりの「選手でMVP」と「監督で優勝」という二つの栄誉を、手にすることはできるでしょうか?

▼長野が人生の転機に

12季前の長野での全日本選手権が、人生の大きな転機になった選手もいます。

その選手とは、東北フリーブレイズのFW篠原亨太(こうた=32歳)です。

東北フリーブレイズFW篠原亨太(Photo:Jiro Kato)
東北フリーブレイズFW篠原亨太(Photo:Jiro Kato)

日本リーグでDFとして活躍し、引退後は所属チームの監督も歴任した秀則氏を父に持つ篠原は、釧路工業高校時代から注目を集めた選手。

しかし、サイズに恵まれなかったのが影響してか、正式なオファーは届かず、「トップレベルのリーグでプレーしたい」という夢を断念し、高校卒業後は地元の社会人クラブチームや、インラインホッケーのチームでプレーを続けていました。

そんな篠原に転機が訪れたのは、高校を卒業して3年目のこと。全日本選手権に出場するチームから、補強選手に指名されたのです。

12季前に長野で(一部の試合は軽井沢町でも)行われた全日本選手権は、大会のオープン化を目的に、日本リーグのチームをはじめ、社会人のクラブチームや地域選抜チームに、大学、高校など、合計29チームが参加。

シードされていないチームは最大6試合も戦う組み合わせの上、平日の朝から試合が行われ、社会人チームの中にはメンバーが揃わないことも想定されたため、都市対抗野球と同様の補強選手(=予選で敗れた同地区のチームの選手を、大会期間中のみ登録できる)制度が導入されていました。

篠原は、同じ地区のライバルチームである釧路厚生社から声を掛けられ、補強選手として全日本選手権に出場。

準々決勝まで勝ち上がり、アイスバックスと対戦し完敗を喫したものの、試合後のドレッシングルームで「高いレベルでホッケーがしたい!」との欲望が再燃。シーズン終了後に、アイスバックスのトライアウトを受けると、見事に合格したのです。

同期生たちより3年遅れて、アジアリーグでデビューを飾った篠原は、その後、High1を経て、4季前からフリーブレイズの一員に。

フェイスオフ(=プレーが始まる度にレフェリーやラインズマンが落とすパックを、スティックで奪い合うこと)の強さや、ペナルティキリング(=反則退場者が出てプレーできる人数が、相手チームより少ない状況)での働きをはじめ、貴重な戦力となっています。

長野が人生の転機となった篠原は、長野で美酒に酔うことができるのか? 身長169cmの篠原に託される役割は、とても大きなものになりそうです。

アイスホッケー日本一を決める「第84回・全日本選手権」の戦いの幕が、明日切って落とされます。

会場となるビックハットは、国内で屈指のアリーナである上、週末の二日間は、筆者がルール説明や選手の紹介などの場内アナウンスを行う予定ですので、初心者の方でも “氷上の格闘技” の魅力を、味わっていただけるはず。

新幹線を利用すれば、首都圏エリアの方でも、週末を利用して試合観戦に訪れることも可能ですので、ぜひ「アイスホッケー日本一決定戦」を、 お楽しみください。

尚、会場へのアクセスについては、こちらを。

また、観戦チケットについては、こちら(ともに長野県アイスホッケー連盟の公式サイト内へのリンク)を、それぞれご参照ください。

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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