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未成年選手の海外移籍に潜む危うさ。久保君らバルサの未成年選手だけがノーだった理由

小宮良之スポーツライター・小説家
バルサの選手として大会に挑む久保建英(写真:アフロスポーツ)

FCバルセロナに在籍していた日本人少年、久保建英君(13才)の退団が先日、大きなニュースになった。所属するバルサに18歳未満の外国人選手獲得で登録違反があったとして、FIFAは移籍市場での活動を停止。久保君は1年以上も公式戦に出場できず、(18才になるまでプレーできないため)帰国せざるを得なくなった。

その久保君はバルサに籍を置いたまま、13才ながら飛び級で日本Uー15代表に選出され、新たな一歩を踏み出そうとしている。一つの道は閉ざされた格好だが、その経験が彼を強くするかもしれない。

しかし、海外サッカーに我が子を送り出そうと考える親は増えている。夢はあるが、絶望もある。危うい環境に飛び込ませるべきなのか---。

どうしてレアル・マドリーの日本人少年はOKで、バルサの久保君はノーだったのか。

そもそも、未成年の日本人サッカー選手が欧州移籍し、プレーするにはどんな条件があるのだろうか?

実力云々の前に、FIFAが定めたルールをクリアする必要がある。

<両親がサッカー以外の理由で移住した場合>

他にもいくつかクリアできる項目はあるものの、日本人はこのケースしか当てはまらないだろう。原則的に言えば、18歳未満の国際移籍は禁止されているからだ。

95年のボスマン判決において、契約が完全に終了した選手の所有権をクラブは主張できなくなり、欧州サッカー界では各クラブが選手の争奪戦を繰り広げるようになった。これで移籍が活発化。

「EU域内であれば、EU加盟国籍所有者の就労は制限されない」というEU労働規約がプロサッカー選手にも適用された。自然と選手の移籍金は高騰。各クラブはまだ若く、値段の安い選手に飛びつくことになった。

FIFAはこの青田買いを抑制するため、2007年にTransfer Matching System (TMS) という組織を立ち上げている。2009年には18歳未満の国際移籍を基本的に禁止する第19条を発行。未成年選手の移籍市場を監視するようになった。2009年には、ランスからチェルシーに移籍したガエル・カクタの移籍に不正があったとし、チェルシーに対して1年間の新規獲得選手禁止や罰金を申し渡している。しかし、このときはチェルシーがスポーツ仲裁裁判所(CAS)に不服を申し立て、改めて正当性が認められた。

結局のところ、第19条は思ったほどの成果を与えられていなかった。

なぜなら、クラブは選手の両親に何らかの仕事を斡旋する形(あるいは学業向上などもっともらしい理由)で、<両親がサッカー以外の理由で移住した場合>というルールをクリアしていたのである。第19条には、"未成年者の人身売買を摘発する"という正義が前提にあるので、"子供や両親が望んだ移籍を壊すべきではない"という矛盾があった。事実、多くのクラブに外国人の未成年選手が在籍しており、「どこのクラブもやっていること」という認識が改まらなかった。その結果、レアル・マドリーなどでも日本人少年が在籍している。

では、なぜバルサだけが標的にされたのか?

それはFIFAから2010年の時点で状態の改善を促されていたにもかかわらず、バルサがそれを完全に無視。傲岸不遜に複数の未成年選手を獲得し続けていたからだ、と言われる。事実、日本人の久保君も2011年に入団。"たとえ処分を受けても、CASに不服を申し立てたらどうにかなる"という驕慢さが徒となった。今回はCASもバルサの申し出を棄却してしまったのである(久保君ら9人もの未成年選手が影響を受けた)。

バルサとしては過去に、手塩にかけて育てたセスク・ファブレガスら若手選手を青田買いされ、被害を被っていた時期もある。その被害者感情も、今回の一件を悪化させてしまったのかもしれない。なにより、「バルサは育成選手を見捨てるようなことはしない。たとえプロ選手になれなくとも、何らかのケアはする。子供の人身売買に関わるような社会問題と一緒くたにされても困る」と高を括っていたのだ。

バルサ関係者からは反論も聞こえるが、ルールは厳然としてそこにある。この騒動がもたらすクラブへのダメージは大きく、トップチームが2016年1月まで補強をできない。これで移籍競争では確実に出遅れてしまうだろう。

一つ言えることは、これはどこのクラブでも起こっておかしくはない混乱だということだ。

<両親がサッカー以外の理由で移住した場合>

この条件を、正当に満たしているケースがはたしてどれだけあるのか?

未成年外国人選手の海外移籍に潜む危うさと言わざるを得ない。

最後に、デポルティボ・ラコルーニャで英雄的活躍を遂げた元スペイン代表MFフランの久保君評を付記しておこう。彼の息子は久保君と同じチームに所属している。

「タケ(久保君)の才能は間違いなかったね。チームの中心選手として、グループを引っ張っていた。非常に俊敏で、効率の高いプレーをする。テクニカルな選手で、見ていて楽しい気分になったよ。だから、今回の一件はとても残念だね」

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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