大阪都構想・住民投票で反対多数!~教育の観点から分析する
大阪都構想に関する住民投票(正確には大阪市を廃止・5特別区に分割することについての是非)は、まれに見る大激戦となりましたが、結果は反対が多数となりました。
賛成69万4844 反対 70万5585
約1万票差と僅差ですが、これにより、大阪都構想はとん挫。
橋下徹市長は、かねてから、住民投票で敗北した場合、政界引退を公言しており、開票直後の記者会見でも任期満了による政界引退を明言しました。
本稿では、教育の観点を中心に、敗北理由を分析します。
その1:選挙戦術のまずさ~スパム電話のマイナス効果
日刊ゲンダイ5月12日記事によると、録音テープによる賛成を勧める電話を9・10日の2日間で累計約100万件に対してかけたとのこと。
電話で投票を促すのは選挙戦術としては昔からあります。
しかし、自動音声による電話は、かけられた方からすればいつ終わるかわからず、迷惑電話、いや、スパム電話そのもの。
2015年1月の佐賀県知事選でも、現職後継の候補がこのスパム電話を選挙戦術に採用しましたが、結果は敗北。
敗因の一つとされています。
運動員による電話ならまだしも、自動音声の電話だと受けた方はどう取るのか、考えられなかったのでしょうか。
その2:選挙戦術がばれていた
橋下徹市長は、2014年12月の総選挙で投票日前日に敗北宣言をしたことで話題となりました。
こうした中、維新が最終的に頼みにするのが橋下市長の演説能力だ。昨年12月の衆院選では、投票日前日の街頭演説で「自公に完敗した」と異例の発言をした。新聞やテレビでも報道され、話題を集めた。維新は事前の予想を覆し、府内で比例第1党を獲得した。
反対派には、その時の「トラウマ」もある。議員の間では、「最後は聴衆の前で涙ながらに訴えるのでは」「テレビカメラがたくさん集まる場面で、注目を集めることをやる」とささやかれている。
自民党大阪府連会長の竹本直一衆院議員は12日、府連の会議で「ありがたい数字が出ているが、決して安心できない」と引き締めを図った。同党市議団の柳本顕幹事長も同日、「事実上横一線の状況だ」と報道陣に述べ、自民支持層の薄い地域を中心に活動を強化する方針を明らかにした。
(毎日新聞2015年5月14日)
投票日前日の敗北宣言は橋下市長自身がこれは選挙戦術の一環であったことを明かしています。
選挙戦術は常に進化します。
橋下市長の選挙戦術が事前に明らかになり、投票前に反対派優勢であるにもかかわらず、自民党など反対派の運動は衰えませんでした。
その3:二重行政批判の対象が古すぎる
推進派は、二重行政批判の象徴として、りんくうタウンゲートタワー(大阪府)、テクノポートWTC(大阪市)などを出していました。
りんくうタウンゲートタワーは建設開始が1992年、テクノポートWTCは建設開始が1991年、それぞれ古い話です。
反対派が
「それは政策判断ミス」
と反論したときに、有効な再反論ができませんでした。
しかも、橋下徹市長は2008年から府知事・市長と大阪の行政に8年も関わっています。
二重行政批判は、
「では、8年の間に、何かできなかったのか」
との再批判につながります。
せめて、平松邦夫・前市長、太田房江・前知事の失政で、しかも二重行政批判の象徴となるものがあれば、また違った展開になったかもしれません。
その4:大阪府立大・大阪市立大の統合批判に対して残念すぎ
教育・大学という点では、大阪都構想ではっきり表れていたのが、大阪府立大・大阪市立大の統合でした。
大阪府立大、大阪市立大、ともに伝統校として、実績があります。
さらに、学費負担を避けたい受験生・世帯にとって、統合が実現すれば、チャンスがそれだけ減ることになります。
その批判に対して、私の知人が推進派の運動員に尋ねたところ、
「私立大が今はたくさんありますから」
と回答したそうです。
要は私立大に進学しろ、と言うことなのでしょうけど、これは批判・疑問に答えていません。
大阪府立大・大阪市立大の統合に批判・疑問を持つ一般市民は、学費負担が重くなることを懸念しています。
せめて、
「統合しますが、大阪都構想で奨学金制度をさらに充実させます」
などの回答があれば、まだ懐疑的な市民に対する回答になっています。
が、そうした話が一切なく、
「私立大が今はたくさんありますから」
では、回答になっていません。
それどころか、懐疑的な市民を反対させるのに十分だった、とも言えます。
その5:教育サービス低下の批判に対して答えになっていない
「きめ細かな行政サービスを」
との推進派の主張は、説得力があります。
ところが。
その前提条件として、
「大阪24区を5区に再編する」
これで、説得力を大きく失うことになります。
一般市民からすれば、
「24区だと粗いとするサービスが、なんで5区だときめ細かくなるの?」
と不思議に思うことになります。
さらにダメ押しが、反対派による財政・財源の主張です。
「大阪市の財源が大阪府全体に移り、大阪市の財源はさらに乏しくなる。しかも、これまで市全体で受けることのできた行政サービスが特別区限定でしか受けられない」
この批判に対して、推進派の再反論があまり説得力のあるものではありませんでした。
以上の5点によって、大阪都構想の住民投票は反対多数となりました。
ただし、ここまで大激戦になったのは、やはり、現状の大阪を良しとしない大阪市民も、多数いたからでしょう。
反対に投票した大阪市民も、現状維持を肯定した方ばかりではないはずです。
今後、大阪の教育行政がどうなっていくのか、注目したいと思います。