広島戦の最終盤キレッキレのドリブルを披露した東京の19歳は三笘薫を追い越すことができるか
開幕して2節を終了したJリーグ。贔屓チームを持つファンがその勝ち負けに一喜一憂する一方、特に応援するクラブを持たない第三者的な愛好者はどこに目を凝らすべきか。欧州クラブに近々買われていきそうな選手、次の代表入りを狙う有望株探しは、中でも大きな観戦動機になる。
第2節、さっそく筆者の目にビビッと来たのは、FC東京がサンフレッチェ広島に引き分けたホーム戦で、後半37分に投入された東京の左ウイングだ。出場時間8分プラス6分強(追加タイム)。わずか14分間ながらそれは濃密な時間だった。
この一戦。48対52ぐらいの比率で試合を優勢に進めたのは広島だが、1-1の同点で迎えた終盤、主審のPK判定がVARの結果、ペナルティエリア外の反則に覆ったことで、試合後、損した気分でいるのはFC東京だろう。
後半41分、広島DF荒木隼人の反則を誘ったのが、その俵積田晃太だった。ファーストタッチで東慶悟の縦パスを受けるとそのままドリブルを開始。対峙する広島DF荒木と1対1に及んだ。4度細かなタッチで仕掛けると、5度目のタッチでボールを大きく持ちだし半歩、荒木を抜き去った。ゴールラインまでおよそ10m。すると6度目のタッチで俵積田は荒木の進路を塞ぐように、ゴール方向に鋭く切れ込んだ。
俵積田が倒れ込んだ場所はエリア内だが、荒木の足が掛かった場所はエリアのわずか手前(外)であることがスロー再生を見ると明らかになる。だがそれ以上に鮮明に映し出されたのは、キレッキレのドリブルだった。コース取り、スピードとも申し分なかった。動きは実に滑らかで、対峙する荒木の逆も突けていた。
相手の逆を突いて縦に出るフェイントを十八番にするドリブラーと言えば三笘薫を想起する。1試合に少なくとも1本は絵になる、まさに芸術的なアクションを披露する。
内に切れ込むのではなく縦に勝負するところがミソである。“ミトマジック”が決まった瞬間、場のムードを打ち破る、弾けるような華やかさに包まれる。味方を勇気づけ、相手を萎縮させる、まさに場を劇的に一変させる破壊力がある。
それを三笘は力感なく軽々と演じる。日本代表で左ウイングを狙おうとすれば、このプレーを超えることが大前提になる。
その三笘に俵積田は近い将来、比肩する存在になるのではないかと筆者は見る。三笘は言ってみれば中盤的なセンスを兼ね備えた技巧派だ。相手の逆を取り、動きがズレた瞬間、プレーは実際以上に速く映る。目の錯覚を巧みに利用したスピード感とでも言おうか。
他方、俵積田は根っから速い。搭載しているエンジンの排気量で三笘に勝っているという印象だ。まさに高速ドリブル。滑り出し、加速とも滑らかで、トップスピードに乗りやすい。
スピード豊かな選手はしかし従来、ボール操作が粗雑だと言われた。現在の日本代表を見ても分かる通り、高速系の選手は細やかなドリブルワークを併せ持つわけではない。俵積田が貴重に見える理由だ。速いのに相手の逆を取ることができる。突破に安定感を抱かせる理由だ。
それ以降も俵積田は後半45分、追加タイムに入った46分、47分と3度立て続けに可能性を感じさせる仕掛けのアクションを披露。JリーグにおいてはAランクと呼びたくなるドリブルワークで、最終盤を迎えたFC東京の攻撃陣を支えた。
現在19歳。Jリーグデビューは昨季で、27試合に出場。先発は12試合を数えた。この日は遠藤渓太に先発を譲ったが、C大阪との開幕戦には先発を飾っていた。この先、出場試合数を増やしていきそうである。
Jリーグデビューは三笘の方が4年遅い。大卒の三笘は22歳だった。そこから1シーズン半、川崎フロンターレに所属。欧州に羽ばたいたのは2021-22シーズン。さらにロイヤル・サンジロワーズ(ベルギー)を経て、ブライトンに渡ったのが翌2022-23シーズンだった。トントン拍子で出世したが、プレミアの上位クラブに辿り着いた年齢は25歳だった。
欧州でさらなる上位クラブを狙おうとした時、足枷になるのは27歳で来シーズンを迎える年齢だ。大学に通った4年間がいまさらながら惜しまれる。現在22歳ならば、まさにバラ色の世界が待ち受けていた。
俵積田がいつJリーグを卒業し、欧州組に転身することができるか定かではないが、早いに越したことはない。世界に通用するドリブルの持ち主だと見る。
先のアジアカップに臨んだ日本代表の中にJリーグ勢は26人中、前川黛也(神戸)、野澤大志ブランドン(東京)、毎熊晟矢(C大阪)、佐野海舟(鹿島)、細谷真大(柏)の5人だった。フィールドプレーヤーに限ると3人になるが、ここに俵積田の名前を加えたくなる。もちろん、飛び級でパリ五輪を目指すチーム(U-23日本代表)に加える手もある。
飛躍する可能性を秘めた19歳の左ウイング。俵積田が三笘に追いつき、追い越す日を待ちわびたいものである。