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戴冠から8年。「R-1」チャンピオン・佐久間一行にのしかかる重圧

中西正男芸能記者
「R-1ぐらんぷり」優勝から8年。今の思いを語る佐久間一行

 「R-1ぐらんぷり2011」で優勝したピン芸人・佐久間一行さん(42)。ほんわかとした空気と、観客をハッとさせる斬新なネタで独自の存在感を見せていますが、今は淡水魚のタナゴ愛好家としても活動しています。今年6月には岡山・渋川マリン水族館の特任ディレクターに就任するほど本格的な趣味ともなっていますが、その裏にあった「R-1」チャンピオンとしての苦悩を明かしました。

放出の2019年

 もうすぐ2019年も終わりますけど、今年は“放出の年”だったと思います。

 これまで自分でやってきたいろいろなネタをYouTubeで配信したり。今までいろいろとネタを作ったんですけど、その出しどころというか、見ていただく場所がライブで止まっていた。あとはDVDか。

 もちろんライブまで来ていただくお客さんは本当にありがたいし、DVDを買っていただく方もありがたいです。ただ、来たことがない方、買ったことがない方には伝わらない。

 それが今はやろうと思えば、YouTubeなどですぐに配信して、より多くの人に届けられる時代になった。そして、それをやったのが今年だったなと思っています。

 テレビ番組とかだったら、すごくたくさんの人が、すごく考えてやっていることを、今は自分一人の行動と判断で出すこともできる。そこの差は考えないといけないなとも思いますけど、発信できるのは可能性を感じました。

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タナゴ釣りを再開

 自分の好きなものをより自由にできるようになったかなと。得意なものを伸ばして。前よりは肩の力が抜けた気がしています。その一つの表れがタナゴかもしれないですね。

 というのは、中学、高校の時は頻繁にタナゴ釣りをしていて、そこから高校卒業してNSCに入って、そこからはタナゴ釣りからは離れていたんですけど、5年ほど前に、イベントの企画で久々にタナゴ釣りをやったんです。やったら、やっぱり楽しいなとなって。特に、ここ最近は力を入れてやっている感じですね。

 大きな魚なら、釣って、その場で写真を撮って終わりというか、飼うことはなかなかできない。でも、タナゴは小さな魚だし、飼えるんですよね。釣るだけじゃなく、家に持って帰って水槽で飼うまでが楽しい。この一連の楽しみがあるのが何ともいえず良いもんだなと。

 あとね、本当に上品なんですよ。他の魚だと、何というか、触るとベタベタしたりするんですけど、タナゴはウロコの感じが違うというか、サラッとしてるんです。分かりにくいかもしれませんけど(笑)、肌触りがいいというか。

 そして、とにかくきれいなんです。本当にきれい。基本的にはどの種類もきれいなんですけど、僕は虹色に光るカネヒラという種類が一番好きでして。ただ、釣れるまではどの種類がくるか分からない。どんな大きさの、どんなきれいさのものが釣れるか。このワクワク感もタナゴ釣りの大きな魅力なんですよね。

 タナゴといえば一番のスポットは琵琶湖で、地元の茨城にはいない種類もたくさんいるんです。自分の誕生日にもタナゴ釣りに琵琶湖まで行くとか(笑)。大阪で仕事があった日には、確実に琵琶湖に寄ってますね。

チャンピオンの重圧

 今はタナゴ釣りでうまく気持ちの切り替えができてる感じもあるんですけど、芸人になってからはとにかく必死でした。タナゴ釣りどころじゃなく、バイトして、ネタを作って…。毎日必死でした。

 そして、2011年に「R-1」で優勝しました。もちろん、優勝してうれしかったんですけど、そこからは「R-1」というものが乗っかってきたんですよね。特にそこから2~3年は、肩の力が入ってました。

 「チャンピオンだから、しっかりやって当たり前」「チャンピオンなんだから、こんなことではダメ」とか、初めて“肩書”が入ると、こう見られるんだと…。そして、これから「R-1」を受ける人のためにも、背負わないといけないものもある。「ま、これでいいか」が許されないというか、どこまでも追い求めるというか。追い詰めるというか。そんな感じでしたね。

 ツイッターとかでメッセージ数も増えて、中でも、おそらく、普段は見てらっしゃらない人が悪い感じで送ってくるメッセージを見ると「あ、そう思われちゃうんだな」というのはありました。

 ただ、すごく矛盾しちゃうんですけど、そういうネガティブなメッセージが来る時って、すごく露出している時でもあるんですよね。そういう人の目にも届くくらい、自分が出ている証でもありますし。

 あまり出ていない時は、あえて見ようとする僕のことを好きな人しか見ていない。僕のことをよく知らない人も見てくれる状況はありがたいことでもあるし、本当に難しいというか。いろいろな感情がありましたね。正直な話。

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 あと、これはまた別の話になっちゃうかもしれないですけど、ツイッターのアイコンが、とあるアイドルさんのアイコンになっている人がいて。多分、そのアイドルのファンの男性だと思うんですけど、その人が僕に「お前、面白くない」とか攻撃的なことを言ってくる。となると、アイコンはそのアイドルなんで、あたかも、そのアイドルさんが言ってるみたいな見た目になってしまう。それは、そのアイドルが何ともかわいそうだなと(笑)。

 本当にその人を応援してるなら、その人の顔じゃなく、本当は自分の顔のアイコン、もしくは、無地のアイコンで言ってもらいたいと思いました。ただ、チャンピオンになって世に出るということは、そういうことも背負うということなのかと。細かいことですけど。

 好きな人が見てくださって応援してくれる。うれしいんですけど、それだけに甘えてしまっても良くないと思うし。そんな思いもあって、今年はより多くの人に、今まで見なかった人たちに、ネタを発信する場を作った。それはあったと思います。

100を目指す

 優勝してから、ありがたい話、いろいろな場に行かせてもらうことも増えました。ただ、そうなると、改めて自分の得意なところ、そうでないところが見えてくるんです。

 最初は“そうでないところ”を直したいとも思ったんですけど、でも、それこそ完璧な人はいない。だったら、苦手なことを何とか頑張るよりも、できることを伸ばした方がいいかなと思って。

 優勝したんだから、ネタはチャンピオンくらいすごい。他の要素もそこと同じくらい100に持って行かなくてもいい。強いところをもっと強くすればいい。そんな踏ん切りみたいなものがついた気はしますね。

 見てくださる方が100人いたら、100人に面白いと思ってもらう。これは本当に難しいし、もはや不可能な領域なのかもしれません。でも、できたら、少しでも100に近づけたい。いろいろ矛盾するかもしれませんけど、純粋にその思いがあるのもまた事実なんです。

 タナゴ釣りが仕事に繋がるかですか?これがね、なかなか食いつく人がいないです(笑)。吉本興業でも釣りの集まりみたいなのはあるんですけど、皆さん、ブラックバスとかを釣る集まりなんで。なんなら、タナゴを一番食べるのがブラックバスだったりもするので、タナゴ仲間はいなくて…。もし「アメトーーク!」(テレビ朝日)で“タナゴ大好き芸人”をやっていただいたとしても、出演者は僕一人だと思います(笑)。

 現時点で、家では室内で20匹くらいタナゴを飼ってるんですけど、今の悩みは夜の過ごし方ですね。というのは、どうしても、僕が不規則な仕事なので、帰ってくるのが日によって違うし、深夜に帰ることもある。

 自然の世界だったら夜6時とかには暗くなってるのに、いきなり夜中に部屋の明かりがついてタナゴにしたら「え、もう、朝なの!?」となることが続いてしまっているかなと。それがすごくかわいそうで。

 でも、こちらもネタを書いたりしないといけないし、6時に寝るわけにもいかないし。だから、タナゴだけの部屋を作った方がいいんじゃないかなとも思ったんですけど、となると、タナゴを見るためにその部屋までわざわざ行かないといけない。それじゃ、何のために買ってるんだと。そこのジレンマが一番の悩みです(笑)。

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(撮影・中西正男)

■佐久間一行(さくま・かずゆき)

1977年9月3日生まれ。茨城県出身。東京NSC東京校2期生。一人コント、フリップネタ、歌ネタ、小道具を使ったネタなど幅広いピンネタを持つ。「R-1ぐらんぷり2011」優勝。ザリガニや川魚のタナゴが好きで自宅でも飼育。その経験を活かし、今年6月には岡山・渋川マリン水族館の特任ディレクターに就任した。YouTubeチャンネル「佐久間一行チャンネル」でネタ動画やタナゴ釣りの動画もアップしている。12月27日には東京・ルミネtheよしもとで「佐久間一行年末恒例ライブ くるっと2019」を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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