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豪州議員 コロナ検疫所をホロコーストのゲットーに例えて炎上「両方とも大きな壁で囲まれてる」首相も非難

佐藤仁学術研究員・著述家
ワルシャワのゲットー1941年(写真:Shutterstock/アフロ)

オーストラリアのクイーンズランド州の議員のジョージ・クリステンセン氏がオンラインの番組に出演して「新型コロナウィルスの検疫所の施設がまるでホロコーストのようだ」とコメントしてネットでも大炎上していた。クリステンセン氏はアメリカ人の陰謀論者とともに出演。検疫所の施設が感染拡大の防止のために隔離されていることが、ナチスドイツによって隔離されたユダヤ人のゲットーや強制収容所を想起させるホロコーストに例えて「両方とも大きなフェンスや壁で囲まれている」と笑いながら語っていたことで炎上している。

オーストラリアのモリソン首相もクリステンセン議員が新型コロナウィルスの検疫所をホロコーストに例えたことを強く非難して「ホロコーストに例えるとは忌まわしことです。犠牲者と残された家族の気持ちを考えたら許されるべきことではありません。もっと敬意をもって接するべきです」と語っていた。

ホロコーストに例えられやすい新型コロナ政策

欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたり、ワクチン接種を強要されたりといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」、「政府による強制的なロックダウンやマスク着用、ワクチン接種の強要=ナチスドイツの全体主義」というイメージを持つ人が多い。

欧米ではワクチン接種を希望している人も多いが、政府からワクチン接種を強制されることに反対している人も多い。そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用、ワクチン接種の義務化をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。

大きな壁で囲われていたユダヤ人のゲットー

ナチス・ドイツ時代に約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害されたホロコースト。その多くがポーランドに住むユダヤ人で、ワルシャワだけで当時30万人以上のユダヤ人が住んでいた。ナチスに占領されたポーランドでは各地にユダヤ人を集めたゲットーが建設された。『戦場のピアニスト』や『シンドラーのリスト』などホロコーストを扱った映画ではゲットーのシーンがよく出てくる。アウシュビッツなどの絶滅収容所に移送される前にゲットーに収容されていた。

ユダヤ人をゲットーに閉じ込めることによって、ユダヤ人をポーランド社会から際立たせ、困惑させ、孤立させることが目的だった。オーストラリアの議員が指摘して炎上していたようにゲットーや強制収容所では「大きく高いフェンスや壁」で囲われて、中にいるユダヤ寺院が脱出できないようになっていた。脱出が発覚すると即座に処刑されていた。ゲットーへ移住を強いられたり、避難する人たちは食べ物も衣服もベッドなどの必需品もなく、ゲットーでも仕事にありつける機会もほとんどなく死んでいった。ゲットーでの生活があまりにも過酷で、不衛生で多くのユダヤ人が発疹チフスや飢え、寒さでワルシャワゲットーが存続していた2年半の間に約10万人が死亡した。

アウシュビッツ絶滅収容所のフェンス
アウシュビッツ絶滅収容所のフェンス写真:ロイター/アフロ

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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