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ティム・クックCEOは技術革新が遅い? アップルの取締役会が懸念を表明と米メディアが報道

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

米アップルが9月10日に特別イベントを開き、そこで「アイフォーン(iPhone)」の新モデルを発表すると米ウォールストリート・ジャーナルの技術系情報サイト、オールシングスDが報じている。

いよいよ登場か、廉価版のiPhone

注目されているのは、アップルがこれまでの戦略を見直して、中価格帯のスマートフォン市場に本格参入するかどうかという点。

同社のこれまでの戦略は、1種類の高価格端末の開発に集中し、中・低価格帯端末の市場には1世代前や2世代前のアイフォーンを最新モデルよりも100ドルから200ドル安くして販売するというものだった。

しかし、同社の売上高に占めるアイフォーンの比率が高い状態を維持している中、世界のスマートフォン市場でアイフォーンのシェアは低下している。

中国やインドなどの新興国を中心に米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド(Android)」を搭載する低価格スマートフォンが続々登場しているほか、韓国サムスン電子などのライバルとの競争が激化している。

アイフォーンについてはかねて、本体の素材がプラスチックの廉価モデルが開発されていると報じられていたが、果たしてそうした新種のモデルが次の製品発表会で登場するのかが注目されているというわけだ。

また、オールシングスDの報道が正しいとすれば、9月10日には「アイフォーン5」の後継モデルが発表されることになる。

アップルは今年6月に開催した世界開発者会議で、モバイル端末の新OS「iOS 7」を発表した。同社では開発者会議で新OSを発表し、その後数カ月かけてそれをテストし、秋に発売する新端末に導入するというのがここ数年のパターンになっている。

オールシングスDによると、アップルはアイフォーン5の後継モデルに、2012年に買収した米オーセンテックの指紋認証技術を採用するという。米シーネットなどは、新モデルのホームボタンの素材は、高級腕時計などに使われるサファイアグラスだと伝えている。

その目的は、ボタンに傷がつきにくくすることと、若干盛り上がった形状のサファイアグラスで、センサーを内蔵する場所を確保することだという。

「イノベーションはジョブズ時代の速度で進んでいない」

アイフォーンの新モデルではこのほか、プロセッサーやカメラの性能が向上すると予測されている。また先の発表の通り、iOSのデザインが一新されたり、写真をイベントや年ごとに分類する便利な機能などが加わったりすることが明らかになっている。

だがそうした中、アップルはティム・クック最高経営責任者(CEO)時代になってから、技術革新の速度が鈍化してきたと指摘されている。

これを伝えたのは、米フォックスビジネスネットワークの、チャーリー・ガスパリーノ記者。同氏は信頼できる情報筋の話として、アップルの取締役会が同社のイノベーションの速度に懸念を抱き始めたと報告している。

アップルの取締役会にはクックCEO以外に7人の大物が名を連ねている。取締役会会長には、バイオテクノロジー企業ジェネンテックのアーサー・レビンソン会長、そして、アル・ゴア元米副大統領に、米ウォルト・ディズニーのロバート・アイガーCEO、アパレルメーカーJクルーのミラード・ドレクスラー会長兼CEO。

さらに、化粧品販売エイボン・プロダクツのアンドレア・ジュング取締役会上級顧問、会計ソフト・インテュイットのビル・キャンベル会長、航空宇宙・軍需大手ノースロップ・グラマンのロナルド・シュガー元会長だ。

ガスパリーノ記者は、このうちどの人物が懸念を示しているのかについては明らかにしていない。だがクックCEOが就任して以降、アップルでは故スティーブ・ジョブズ前CEO時代のような速度でイノベーションが進んでいないと指摘されているという。

アップルでは、いったん同社を追放されたジョブズ氏が復帰して以降、アイポッドやアイフォーン、アイパッドといった革新的な製品が市場投入された。だが、2010年4月のアイパッド初代機の発売を最後に新たな製品ラインアップは登場していない。

ガスパリーノ記者によると、現在のところ取締役会の懸念はクックCEOの地位を脅かすほどにまで達していない。しかし同氏に対する技術革新加速の圧力は高まっているという。

なおアップルが9月10日に開くとされるイベントでは、取締役会が望むような新製品は登場しないようだ。前述のオールシングスDは、かねて噂されている腕時計型インターネット端末や斬新なアイデアのテレビについて、「今のところ、すぐに製品が発売されるという兆候はない」と伝えている。

JBpress:2013年8月13日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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