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稀代のサウンドメーカーを称え、偲ぶ、“最も美しく豪華な音楽会”「服部克久メモリアルコンサート」開催

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供/BS-TBS

“一夜限りの奇跡!最も美しく豪華な音楽会”『Concert for Katsuhisa Hattori サウンドメーカー服部克久の世界』

昨年83歳でその生涯を閉じた、作・編曲家服部克久さんを追悼するメモリアルコンサート『Concert for Katsuhisa Hattori サウンドメーカー服部克久の世界』が、11月16・17日東京・新国立劇場で行われた。その模様が12月17日(金)BS-TBSで放送される(21:00~22:54)。

日本を代表するアーティストが集結し、70人を超えるスペシャルオーケストラが奏でる服部サウンドに乗せ、思いを込め歌ったこのコンサートは、番組のキャッチフレーズ通りまさに“一夜限りの奇跡!最も美しく豪華な音楽会”だった。このコンサートを振り返ってみたい。

このコンサートの音楽監督・指揮を務めたのは、服部さんの長男・服部隆之氏。コンサート前に隆之さんにインタビューした際「全曲親父のスコア通りに演奏することで、服部克久の音楽を“純粋”に楽しんでいただけたら幸いです」と語っていたように、歌もインストゥルメンタル曲も、全て克久さんのアレンジ通りに70人を超える音楽畑スぺシャルオーケストラが“再現”した。

テレビ創成期から番組のテーマソングや、数々のヒット曲のアレンジを手がけ、その数は7万曲以上といわれている。クラシックとポップスの架け橋になった服部サウンド、服部メロディには、どこかに必ずグッとくる切ないフレーズが組み込まれている。改めてそれを感じたコンサートだった。

服部克久さんと縁の深いアーティストが次々と登場し、思い出深い「一曲」を披露

谷村新司
谷村新司

五木ひろし
五木ひろし

松山千春
松山千春

克久さんと縁の深いアーティストが次々と登場し、思い出深い「一曲」を披露した。谷村新司は「服部先生への思いは語りつくせない」と「昂」(1980年)を披露。重厚なサウンドに乗せ、谷村の熱い歌が会場に響き渡る。五木ひろしは初のアメリカでのコンサート「ラスベガスオンステージ」で克久さんの指揮で歌った「待っている女 ~Las Vegas Ver.~」(1976年)を披露。松山千春は「この業界で俺が先生と呼ぶのは服部先生だけ。一緒に仕事をさせていただいて光栄でした」と語り、万感の思いを込め克久さんがアレンジした「電話」(1983年)を涙を堪えながら歌っていた。デビュー55周年の森山良子のデビュー曲「この広い野原いっぱい」も克久さんのアレンジだ。森山は変わらないクリアで美しい高音で歌い上げた。

森山良子
森山良子

克久さんは編曲だけではなく、作曲家としても様々なアーティストに楽曲を提供し、どの曲にも“美しさ”という“服部印”が必ず刻印されている。八代亜紀は歌手生活20周年の時に「紅白歌合戦」でも歌った、服部克久作曲、隆之編曲の「花(ブーケ)束」を、マリーンは自身が作詞したボサノバ調の「想い出のビギン」を、大橋純子も自身が作詞した「過去りし夏 ~Try Again~」を、そして2日間コーラスでも大活躍したサーカス&2VOICEは「夜明けのマンハッタン‘99」をそれぞれ披露した。

さだまさし、服部隆之、東山紀之
さだまさし、服部隆之、東山紀之

東山紀之は克久さんが白鳥八郎名義でフォーリーブスに提供した「君にこの歌を」(1969年)を、ジャニーズJr.のコーラスをバックに力強く歌った。アニメ「トムソーヤの冒険」(1980年/フジテレビ系)のオープニングテーマ「誰よりも遠くへ」は、屋比久知奈と杉並児童合唱団が、色褪せない明るく切ないメロディを元気に披露してくれた。

中尾ミエ
中尾ミエ

その圧巻のステージで客席からひと際大きな拍手が贈られたのが、「ただそれだけ」を歌った中尾ミエだ。1967年、ブラジル・リオデジャネイロで行われた歌謡祭に克久さんともに参加した時に歌った作品で、そこで見事に入賞を果たし、その時にもらったトロフィーを手に登場。76歳という年齢を全く感じさせないパワフルでエネルギッシュな歌で魅了した。岩崎宏美は、克久さんがハイ・ファイ・セットのためにアレンジした荒井由実「卒業写真」を歌った。ホーンが印象的なイントロ、ストリングスの美しさが際立つ間奏、そしてアウトロのホーンと、上品かつドラマティックなアレンジと切々と歌う岩崎の歌が相まって、大きな感動が生まれる。

鈴木雅之
鈴木雅之

鈴木雅之は、ソロデビュー30周年記念アルバム『dolce』に収録されている、谷村新司作詞・作曲、服部克久編曲という豪華布陣が手がけた「哀のマリアージュ」(2016年)を披露。『80歳からの新たなスタート 服部克久 傘寿の音楽会』(2017年)にも出演した佐藤竹善は、克久さんが信頼を置くシンガーの一人だ。この日歌った「サニー・サンデイ・モーニング‘09」は、服部克久50周年記念アルバム『服部克久』にも収録されている、克久さんお気に入りの一曲だ。

「先生、またね」(さだまさし)

さだまさし
さだまさし

服部家とは親戚も同然の深い付き合いが続いているさだまさしは、誰よりも克久さんの死を悲しんでいるはずだ。その悲しみを胸に、さよならではなく「先生、またね」と「黄昏迄」(1981年)を歌い始める。ピアノとハープの美しい音が絡むイントロから切なさが広がっていく。静かな海の情景が鮮やかに浮かぶ。嚙みしめるように歌うさだの歌と、スクリーンには涙を流しながら指揮をする隆之氏が映し出され、それをステージ上から見守るように微笑む克久さんの写真、客席に感動の波が広がっていく。

「一瞬で人の心を“沸騰”させなければいけない」テレビ番組のテーマソングを数多く手がける

「一瞬で人の心を“沸騰”させなければいけない」という、司会の安住紳一郎アナの言葉の通り、克久さんが手がけた数々のテレビ番組のテーマソングには、そんな“使命”があった。その中で最も有名で、聴いた瞬間に誰もが心を躍らせたのが『ザ・ベストテンのテーマ』なのではないだろうか。言葉はなくてもメロディアスで力強いインストゥルメンタルは、聴き手の心の奥深くまで入ってくる。

それは克久さんの代表曲のひとつ「自由の大地」もそうだ。ドキュメンタリー番組『新世界紀行』(1983~92年/TBS系)のテーマソングとしてあまりにも有名なこの曲は、イントロではオーボエが哀愁を誘い、 どこまでも美しいストリングスが織り重なり、後半の転調からは、雄大な自然の風景が浮かんでくるような壮大なサウンドが展開される、胸に迫ってくる一曲だ。「卒業」は、四季をテーマに制作された『音楽畑5』(1988年)に収録されている、“3月”をイメージした楽曲で、克久さんがパリ音楽高等学院に留学していた時代に思いを馳せ、書いた。克久さんのセルフライナーを読んでいると、楽曲が景色と共により立体的に浮かびあがってくる。

服部百音
服部百音

最後の『ル・ローヌ(河)~3 Generation Version~』は、本来は克久さんがピアノを弾くシーンだが、隆之氏が弾き、克久さんの孫娘の服部百音がヴァイオリンで参加。哀しげな旋律から次第にダイナミックな旋律へとなるこの曲。表情のあるヴァイオリンの繊細な音色とピアノの音色が交差し、ひとつの物語になっていく。

この曲について克久さんはセルフライナーでこう記している。「ローヌ氷河から滴り落ちたひと雫が、小川になり大きな流れとなり最後は海に注ぐ様を、人間の一生になぞらえたこの曲、今回は親子三代(服部克久、息子:服部隆之、孫娘:服部百音)で演奏してみました。三人三様の人生。私はもうとっくに海に注ぎ終わっていますが2人はまだこれから。幸あれ!、と祈ります」――全ての演奏が終わると出演者、客席全員でステージ上の克久さんに向け、割れんばかりの拍手が贈られた。

豊潤な、克久さんの“音楽畑”にはいつも音楽の実がたわわに実っている――このコンサートを観てそう感じた。昭和、平成、令和と3つの時代を彩り、リスナーの心を潤してくれた、稀代のメロディーメーカー・服部克久さんの音楽は、これからも聴き継がれ、その偉業の数々は語り継がれていく。

※服部隆之氏の「隆」は、「生」の上に横棒が入る旧字体が正しい表記です。

BS-TBS『特別コンサート サウンドメーカー・服部克久の世界』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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