米国イェシーバー大学、イスラエルのヤド・ヴァシェムと連携してホロコースト教育プログラム提供へ
ホロコースト教育向け教員養成と「デジタル化されたホロコースト記憶」の使い道
米国のユダヤ教の正統派の大学であるイェシーバー大学はイスラエルにあるホロコースト犠牲者を追悼したヤド・ヴァシェムという博物館と提携して、ホロコースト教育を推進していく覚書を発表していた。
第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・ヴァシェムという博物館がある。
戦後75年以上が経過してホロコーストの生存者の多くが他界してしまったことから、ホロコーストの歴史と記憶が過去のものになってしまっていることや世界規模で広がる反ユダヤ主義に対抗するためにアメリカのイェシーバー大学とイスラエルのヤド・ヴァシェムが連携してホロコースト教育に向けたプログラムを提供していく。
イェシーバー大学にはホロコースト・ジェノサイド研究センターがあり、大学院のカリキュラムも提供している。そのホロコースト・ジェノサイド研究センターでホロコースト教育を行う中学校や高校の教員などを対象にしたプログラム。オンラインでイスラエルのヤド・ヴァシェムの職員がホロコーストについて講義を行う。ヤド・ヴァシェムの大量のホロコーストに関するアーカイブやデータベースを活用してヤド・ヴァシェムのバーチャルツアーを行いながらホロコースト教育に必要な知識を習得する。
ヤド・ヴァシェムでは約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。このデータベース構築もホロコーストの記憶のデジタル化の取り組みの1つである。
ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。
ホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。ヤド・ヴァシェムにある480万人のデータベースのうち、写真もありパーソナルヒストリーもある犠牲者は少ない。
イスラエルのヤド・ヴァシェムによるアメリカのイェシーバー大学との連携でのホロコースト教育プログラムの提供も、ホロコーストの記憶のデジタル化の活用の一環である。現在、ヤド・ヴァシェムだけでなく世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。デジタル化だけは技術が進歩して進んできている。だが、デジタル化されたホロコースト時代の記憶や歴史に関するコンテンツを使用する機会は少ない。研究者や歴史学者など以外でホロコーストや当時のユダヤ人の生活を調査する人はほとんどいない。デジタル化されたツールやコンテンツを通してホロコースト時代の記憶や経験に関するアーカイブやデータベースは整い始めているが、使用してもらう場所と機会があまりない。そのためこのような各国の大学などとの連携が重要になってきている。
▼ヤド・ヴァシェムが公開しているホロコースト前のユダヤ人の生活の動画