東京五輪で撒かれた種はもう芽吹いている スケートボード「育成年代」を支える仕組みとは
スケートボード業界の今
「東京五輪で撒かれた種はもう芽吹いてるんだ!」
これはFLAKE CUPというスケートボードコンテストを取材して感じた率直な感想である。なぜならここが小学生以下という年齢制限がある大会では国内最大であり、新たなスター候補生が生まれる場所でもあるからだ。
今や社会現象となった東京五輪後の大フィーバーもすっかり落ち着きを見せ、世間ではスケートボードはもう終わったと捉えている方もいるかもしれない。しかし業界はまた新たなフェーズへと突入し、着々と未来へ向けて歩みを進めているのだ。
五輪後にエントリー数が急増
その中で数字として最も成果が表れているのがFLAKE CUPといって差し支えないだろう。
というのも、以前から増加傾向にあったものの、五輪後は加速度的にスケートパークとキッズ対象のスクールの数が増えたことで、そこに通う生徒たちがこぞって出場するようになったのだ。
そこにはFLAKE CUPが「スケートボードを始めた子供が最初に出場を目指す場」だといいきれるほど、エントリー数の急増が顕著となっている。
関東大会に限って見てみると、五輪前の2020年10月は93名だったのに対し、直後の2021年12月は倍以上の196名に増加。この時点で4ヶ月前の五輪を見て始めたキッズのエントリーもあったというのだから驚きだ。
そして今年はさらに増え、5月の鵠沼大会は253名、10月の春日部大会は268名と大幅に増加。五輪前の3倍弱にまで数字が伸びているのである。
では急成長を見せるFLAKE CUPとはいったいどんなコンテストなのだろうか!?
ここでは日本のスケートボードの育成年代に着眼点を当てると同時に、FLAKE CUPの存在意義や立ち位置について見ていくことで、その中身に迫っていきたい。
そもそもFLAKEとは!?
まず初めにFLAKEのことを端的に説明すると、一般的に競技を管轄する協会などの団体組織ではなく、ひとつのキッズアパレルブランドにすぎない。なおかつ競技種目も五輪に採用されているストリートやパークではなく、サイズの小さいハーフパイプを意味するミニランプと呼ばれるジャンルとなっている。
この事実だけを並べると、たったひとつのブランドの主催大会が、なぜこれだけの盛り上がりを見せているのか不思議に思う方もいるだろう。だがFLAKE CUPには、今の世界における日本の強さの根源と言える秘密が詰まっていると言えば、否が応でも気になってしまうのではないだろうか。
ブランド設立後にコンテストが誕生
では成り立ちからお話しすると、ルーツは60~80年代ロックなどのサブカルチャーを取り入れた子供服ブランド、ヒステリックミニにある。そこでノベルティーとしてスケートボードを作ったことがきっかけで、せっかくなら選手に実際に乗ってもらおうと、当時は小学生だった今年の北京冬季五輪スノーボードハーフパイプの金メダリスト、平野歩夢ら少数精鋭のアスリートのサポートをスタート。
そこでDVDの製作やイベントの開催を通してシーンの盛り上がりを感じたことで、よりストリート色の濃いキッズブランドを作ろうと2007年に正式に産声をあげている。
しかしこの時点ではまだFLAKE CUPは始まっておらず、立ち上げ当初はバーチカルという、スノーボードでいうハーフパイプのような種目のコンテストの冠スポンサーとして、シーンをサポートしていたに過ぎなかった。
ただそこに子供も参加できるようにと、バーチカルからサイズを小さくしたミニランプも加え、キッズ限定のコンテストを織り交ぜたことが大きな転機となり、後にFLAKE CUPとして独立。今日に至るまで規模は拡大し続けており、今やその地位は揺るぎないものとなっている。
コンテスト独立が成功した要因
そこで気になるのが、ここまでの成功を掴むことができた要因だろう。
それは小学生以下という年齢制限と、種目をミニランプという特定のセクション(障害物)に限定し、双方を組み合わせたことが大きい。
年齢制限に関しては、FLAKEブランドのアパレルの対象年齢が小学生という事もあり、そこに合わせたもので、最初から意図的にジュニアの全国大会を設立しようというよりは、自然な流れで定められたものになる。だがそこにプラスして、競技種目をミニランプとしたのが大きかった。
これも元を辿れば、前述のようにバーチカルの大会のサブコンテンツ的な要素として織り交ぜたものではあるのだが、それは「身体が出来上がる前の幼少期に大きなセクションをこなすことは難しい」ことが理由となっている。
そしてこの理論はストリートにも同じことが言える。ストリートではオーリーというボードと一緒にジャンプするトリックが不可欠であるため、身体が小さく脚力がない子供というだけで、必然的にできる範囲が定められてしまい、いくら練習しても物理的に不可能なシチュエーションが多くなってしまうのだ。
それに対しミニランプは幼少期でも乗りこなすことができるジャンルでありながら、滑走面が湾曲しているため、初心者の子供がボードに乗り慣れる感覚を養うには最適なセクションとなっている。
さらにFLAKE CUPで使用されている高さ120cmのミニランプは、程よいサイズ感で成長期のキッズスケーターがボードコントロールを学ぶのには最適な大きさとも考えられているため、育成年代の選手にとっては自身の成長に繋がる格好の舞台となっているのだ。
また、ビジネス的観点で見てもメリットは大きい。
ひとつのセクションだけでコンテストが成り立つため、省スペースな上に設営や解体も容易であることだ。これは言い換えれば開催場所の選択肢が大幅に増えることを意味している。
大型ショッピングモールなど、多くの人で賑わう場所で開催できるメリットは、一般の方の観覧や良好なアクセスの実現はもちろんのこと、スポンサーの面でもプラスに働くことだろう。
将来の競技種目選定に向けた足掛かりとして
併せてこの年代は、上記のような理由から将来自身が戦う競技種目が定まっていないことも多いのだが、その決定にも少なからず影響を及ぼしている。
現に東京五輪男子ストリートの金メダリスト、堀米雄斗は小学生まではバーチカルを主戦場とし、育成年代で徹底的に基礎を叩き込んでから、中学よりストリートへと舞台を移しているし、彼以外にも白井空良、青木勇貴斗、西村碧莉、四十住さくら、開心那といった、今となっては別の種目で戦う選手たちも、小学生の頃は同じFLAKE CUPの舞台で活躍していた事実がある。
もちろん種目決定は本人の好き嫌いによるところも大きいが、成長期に基礎が学べるFLAKE CUPは、どんな選手においても重要であることがご理解いただけるのではないだろうか。
またFLAKE CUPはエントリーに最低年齢の条件は設けていないことも特筆すべき点だ。現在は就学前の幼児のエントリーも増えており、上位に入ってくる選手も出てきているとのこと。
こうしたさらなる低年齢化の流れと五輪の影響も相まって、現在はスケートボードを始めてからの成長の道筋として、FLAKE CUP ~ AJSA(日本スケートボード協会)アマチュア戦 ~ プロ 〜 世界 というルートが自ずと出来上がるまでになった。
これは以前執筆した『次代の堀米雄斗誕生のレールも確立済み? 日本のスケートボードの強みはコンテストの仕組みにあった』にも詳しく書かせていただいているので、併せて読んでいただけると、より深くご理解いただけると思う。
以上のようなことが、今の「世界における日本の強さの根源のひとつ」と言えるのではないだろうか。
その証拠に過去FLAKE CUPでチャンピオンに輝いた選手の多くは、現在もプロスケーターとして活躍しており、五輪はもとより国内外多くのコンテストで結果を残している。もちろん今シーズンもFLAKE CUP出身選手の多くが、プロ昇格を決めている。
幼少期から作れる貴重なスケートボードコミュニティ
ただ、それでもプロで活躍できる人数はほんの一握り。それ以上に参加者の親御さんが出て良かったと口にするのは、「コミュニティ形成」の場にもなるということだ。
この年代から全国各地のキッズスケーターと繋がりや交流を持つことは、今後の成長においても非常に重要なことで、そこから多くの刺激を得ることができ、スキル面はもちろん、人間としても大きく成長できるひとつのきっかけになることは間違いない。
それは以前FLAKE CUPで活躍し、キッズから大人へと成長した選手も同様のことを述べている。
そこで人や地域をつなぐハブとしての役割の強化も、今後のテーマとして検討しているとのこと。今年の6月にスポーツ庁が、来年度から部活動を地域へ移行する改革に取り組むことを発表したのも多分に影響しているだろう。
今後は中学生になったスケートボーダーの全てが楽しめるもの、つまり部活やさまざまな理由で趣味としてスケートボードを楽しむ人達も出場できるようなFLAKE CUPの開催なども視野に入れていきたいそうだ。
一方で競技性が強くなりすぎた現在のシーンに対しても、FLAKEはストリートブランドであるという立ち位置から、カルチャーとしてのスケートボードも同時に伝えられればと、運営サイドは話している。
より幅広い層をカバーできるコンテストへ向けて
その一環として、まずは今週末の11月26日にFLAKEとしては初のストリートとパークスタイルのコンテストが開催される。そうして歩みを進め続けることで、FLAKEが五輪を目指すような成長期のアスリートのみならず、趣味として楽しむライフスタイルスケートボーダーもカバーするようになれば、将来の日本における”スケートボード文化の形成”に、非常に重要な役割を果たすことになるのではないだろうか。
そうして迎えるまた新たなフェーズが、スケートボード、さらに言えば日本社会にとっても、ポジティブなものになることを願ってやまない。
撮影:吉田佳央