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【戦国こぼれ話】「軍師官兵衛」でも有名になった黒田官兵衛。黒田家の出身地は播磨か近江か

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
黒田官兵衛像。黒田家の出自は、播磨と近江の2説がある。(提供:アフロ)

 ジャニーズの「V6」が今年11月1日で解散するとのこと。なかでも「軍師官兵衛」で主役の黒田官兵衛を演じた岡田准一さんは、今後も活躍が注目される。ところで、黒田家の出身地は播磨と近江が有力視されているが、どちらが正しいのだろうか。

■ルーツは佐々木氏か

 黒田という名字は、日本人としてはごくありふれたものである。では、官兵衛が名字とする黒田氏は、いかなる由縁を持つのであろうか。黒田氏の出自に関しては『寛政重修諸家譜』や『黒田家譜』に記されているので、そうした史料をもとにして考えることにしよう。

 黒田氏の先祖は佐々木源氏の支族であり、宗清(宗満とも)の代に至って、近江国伊香郡黒田村(滋賀県長浜市木之本町黒田)に住したと伝える。

 黒田の地に赴くと、今も黒田判官邸跡が残っており、「黒田氏旧縁之地」という石碑がある。その傍らには「黒田判官代 源宗清」の墓石があるので、黒田氏が佐々木源氏の末裔だったことは、古くから指摘されている。

 これがごくオーソドックスな黒田氏の家系である。黒田氏が近江佐々木源氏の出自だったという説について、もう少し考えてみたい。

■佐々木黒田氏の存在

 室町幕府の奉公衆の名簿『永享以来御番帳』には、佐々木黒田備前守高光の名前が書かれている。高光の名前は、『建内記』永享2年(1430)7月25日条などにもあらわれるので実在の人物だ。

 康正2年(1456)7月には、殿中に伺候した面々の一人として、黒田伊豆守信秀が登場する(『益田家文書』)。つまり、黒田氏は佐々木氏の支族であり、幕府に仕える奉公衆であった。将軍の直臣なので、相当な地位にあったといえる。

 このほかに『親長卿記』文明18年(1486)7月29日条に黒田左馬助貞長の名が見えるなど、佐々木黒田氏が実在したのは明らかである。しかし、先述した宗清やその六世の孫・高政(孝高の曽祖父)は史料にあらわれないことに注意すべきである。

 『黒田家譜』によると、永正8年(1511)の船岡山合戦で足利義稙・細川高国と細川澄元・三好之長が交戦状態に入ると、高政は義稙に従った。しかし、軍令に背いたことを義稙に咎められ、佐々木氏の仲介によって罪を逃れたといわれている。ただ、この話も裏付けとなる史料がない。

■福岡へ移住する

 のちに高政は近江国を出奔し、備前国福岡(瀬戸内市長船町福岡)に逃れた。福岡を選んだ理由は、同族の加地氏・飽浦氏が備前南部に勢力を保持していたからであるといわれ、この説は根強く支持されている。

 ところが、黒田氏の福岡移住説には疑問がある。その理由は、戦国期に至って、加地氏・飽浦氏が備前南部に勢力を保持していた根拠がないからだ。それは、同地に黒田氏関係の一次史料を欠いている点と合わせて考えるべきである。

 したがって、黒田氏を佐々木黒田氏の末裔とする説には、素直に首肯し難い面があるのも事実である。福岡移住説も同様である。

■播磨の出自か

 最近、黒田氏の出自説として注目されるものに、黒田庄(兵庫県西脇市黒田庄町)を黒田氏の出自とする説がある。その根拠となるのは、『荘厳寺本 黒田家略系図』や『播磨古事』という系図や編纂物である。

 ごく簡単に言えば、これらの史料は黒田氏が赤松円光を先祖とし、黒田庄を本拠にしたと記述している。しかも内容はかなり具体的である。播磨の名族といえば、守護を務めた赤松氏なので、地元では徐々に浸透しつつある説である。ただし、この説にも難があるといわざるを得ない。

 第一に、裏付けとすべき一次史料には、『荘厳寺本 黒田家略系図』などにあらわれる黒田氏歴代が一切登場しないことである。

 第二に、赤松氏の支族を網羅した『赤松諸家大系図』には、黒田氏の記載がない。つまり、『荘厳寺本 黒田家略系図』などは、黒田氏の祖先を赤松氏につなげようとして創作した意図が感じられる。

 おそらく黒田氏は、播磨国の一土豪であったと考えられる(兵庫県姫路市あたりの可能性が高い)。何らかの契機に御着城(兵庫県姫路市)主の小寺氏と結びつき、その配下に収まったのであろう。そして、自らの貴種性をアピールするため、佐々木黒田氏や赤松氏の支族と称するようになったと考えるのが妥当ではないか。

 黒田氏が戦国期になって、急に新しい土地で台頭したとは考えにくく、もともと播磨にしっかりと根を下ろしていたと考えるのが無難であろう。今後、関係する有力な史料の出現を待ちたい。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書など多数。

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