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エリート2世信者の目を覚まさせたものは?児童に物売り活動をさせる実態も明らかに!自身も養子縁組に直面

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

30代女性(仮名・吉田さん)の両親は、1980年代の合同結婚式を受けた旧統一教会の信者です。その子供である彼女は、祝福2世と呼ばれて、教団内では「神の子」として育てられます。エリートともいえる2世であった彼女は、幼い頃から教義を学ばされて教団を信じてきましたが、20代になって離れます。彼女の目を覚まさせたものは何だったのでしょうか。ご自身も教団による養子縁組の実態に直面しています。

家には壺などの霊感グッズが多数

「母は文鮮明教祖の指示で海外宣教に行き、父は夜遅くまで教団の関連会社で働き、小さい頃はいつも親が近くにいないために、心が不安定な日々を送りました。友達が親と一緒にいるのを見て、羨ましさから泣き出すこともよくありました」と吉田さんは話します。

家には、壺などの教団関連のグッズも多くあったといいます。

「両親は献金ばかりするので、家にはお金はなく、洋服は親戚にもらったおさがりを着させられ、好きなものも買ってもらえませんでした」

母親は海外宣教にいくためにもお金がかかったためでしょう。

「母は消費者金融などからお金を借りていました。ついには、お金を返せなくなり、自己破産しています」

彼女の家は、宗教2世によくみられる経済的ネグレクトの状況であったことがわかります。

Jr.STFにおける、児童への物売り活動の実態

毎週の礼拝や、週ごとに行われる敬礼式には家族みんなで参加します。そうしたなかで、彼女は統一教会の教えを信じ込んでいくようになります。

「小さい頃から、夏休みには長期の修練会にも行っていました。Jr.STF(ジュニア・エスティーエフ)にも選ばれました」

これは「Junior Special Task Force」の略で、知力、体力の試験を受けて、選ばれるものです。中高生の2世のなかでも、信者の模範となるような存在にさせるための信者エリートとしての育成プログラムです。

「修練会では、高校生の頃、Jr.STFのスタッフと一緒に万物復帰も行いました」

「万物復帰」とは家々を回って、物を売ってお金を集める活動のことです。この活動は教義からくる内容で、この世の物(万物)はすべてサタンに奪われた物なので、その万物をすべて神のもとに取り戻さなければならないとされています。

筆者はこれを聞いて驚きました。

児童福祉法において、18歳未満の者は児童とされていますが、Jr.STFのスタッフに帯同してもらっているとはいえ、児童である高校生に、神の名のもとでの物売りの活動を行わせていたからです。

万物復帰の活動は心に大きな傷を残すこともある

筆者も入信や献身(出家)した当初、教団のトレーニングや修練会で、珍味、ハンカチなどの物売りの活動をしました。訪問先で怒鳴られたり、追い返されることは当たり前で、時に心無い言葉を浴びせられて心に大きなダメージを受けることがあります。

しかしそれをアベル(神様に近い立場の上司)に報告すると「万物復帰を通じて、文鮮明先生が血と汗と涙を流して神のみ旨のために歩んだ苦労の心情を味わうことができる」といわれて、めげずに次の家の訪問をするように指示されます。しかしあまりの恐怖心から次の一歩が踏み出せず、涙を流す人もいました。成人であれば、立ち直ることもできるかもしれませんが、もし児童がこの経験をすれば、どれほど心に深い傷を残すことになるでしょうか。

しかも得られたお金は本人のもとにはいかず、教団関係者に渡すようになっていると聞いています。

信者らは街頭でアンケートなどの伝道をした時に怒鳴られたり、突き飛ばされたりするとアベルからは「それはよかった。再臨メシヤ(文教祖)が迫害を受けた心情(気持ち)がわかっただろう。それで一歩、神の子となるための道に近づいた。どんどん文句を言われて否定されて、迫害されてこい!」といわれます。

成人でさえ、こうした体験を続けて受けて心が折れてしまう人はたくさんいます。ましてや、相手から否定され、罵られることで、児童の心の成長にどれほど大きな影響を与えることでしょうか。とても心配しています。

CARPに入寮、しかし

彼女は信者エリートとしての道を歩み、大学生になるとCARPの施設に入寮します。CARPとは、以前は原理研究会と呼ばれていたもので、大学内に存在する旧統一教会の学生サークルです。

しかし程なくして彼女はCARPをやめて家に戻ります。

「メンバーのやることについていけませんでした」

昔から原理研究会の行う伝道と経済活動(偽ボランティアなどでお金を集める活動)は、訪問先の人の事情を一切考えず、ただ神様のことを考えて進むような激しい活動をするとして有名でしたから、ついていけなくなるのも、頷けます。

「しかも、夕方から戸別訪問しての伝道、学内での声掛け。そして、夏休みなどの期間には、修練会に参加して、お茶などを訪問で売りました。特に伝道活動において『統一教会』を隠して、ただ『〇〇サークルです』といって、だますような誘い込むやり方をしていましたが、これには疑問を感じていました」と吉田さんは話します。

彼女の心は、しだいに教団から離れます。

「神の子とはいわれていましたが、祈っても一度も神の声も聞こえたこともありません。いつも心のなかで、本当に神様はいるのだろうか。霊界はあるのだろうか?と思っていました。もしここでの教えが全部、嘘だったらどうしようという、不安がいつもありました。でも、それは口に出せませんでしたね。結局、私はおちこぼれだったから、逆に教団をやめるきっかけになったのかもしれませんが」と苦笑します。

つき抜けたから見えてくるものがある

彼女は自らを“おちこぼれ”と謙遜しますが、そうではないと思います。

彼女は教義による激しい活動を目のあたりにしながらも、それ対して逃げずにしっかりと向き合ったことが、教団を離れる大きなきっかけになったと考えています。だらだらと信仰を続けるよりも、いったんつき抜けてやってみることで教団の矛盾や疑問に気づけることは多いものです。

筆者自身も2年間の勤労青年という、一般の会社で働きながら、教会に通う生活をした後、身も心も教団に捧げて活動する献身(出家)という活動をしました。そこでの生活は睡眠時間が3~4時間と短く、人権など、まるでない世界でしたが、この経験があったからこそ、脱会の際に教団の活動のおかしさや矛盾に気づけた部分は大きかったと思います。彼女もそうだと思います。

多くの祝福2世は神の子と言われて、教団から守られた生活をしていて、過去に1世信者がどんな常軌を逸したような活動をして、どれほどの多くの人に被害を与えてきたのかを知りません。しかし彼女の場合、CARPでの活動はまさに1世信者がやってきたのと同じような世界を展開しているので、身をもってそのことを体験することができた。それゆえに、家族のなかで一人だけ、教団から離れることができたのだと思います。

アニメを見て離教を決意する

彼女の心に決定的なことがあったといいます。それはあるアニメを見た時のことです。

「地下鉄サリン事件のような、カルト思想で多くの人を殺した事件を起こした犯人らの子供たちが主人公のアニメです。世間から恐ろしい犯罪者として見られる親と、実際に自分たちが見てきた優しかった親とのギャップに苦しみます。しかも、子供たちは何らの罪も犯していないのに世間から奇異の目で見られて、多くの批判にさらされる。そうした苦しみのなかで同じような親を持つ2世たちが、互いに支え合い生き抜こうとする物語です。決してハッピーエンドとはいえない終わり方でしたが、宗教2世として苦悩、苦悶している、今の自分の置かれている状況と似ていると思いました」

きっぱりと教団と袂を分かつきっかけになったと話します。

兄弟が養子に出されて

「実は…」と彼女は最後に重い口を開きます。

「今、教団による養子縁組の問題が取り上げられていますが、私の下の子も養子に出されていました」

その子は今も信者なのかを尋ねると「それは、わかりませんが、自分だけが養子に出されたこともあり、どうやら心を病んでしまったようです」と答えます。

身近に住む信者の家庭同士で養子縁組をさせることが多く、彼女自身も養子に出された弟と礼拝などでは顔を合わせることがあったといいます。

「特に養子のことに対して口にすることはありませんでしたが、実は姉と弟。向こうも知っているようでした。それは会ったときの『なんで自分だけ』というような辛そうな表情から読み取れました。教義によって親同士の都合だけで、モノのようにして養子に出されたことを知ることで、どれほど本人の心を傷つけてしまうでしょうか」

吉田さんは強い口調で養子縁組を積極的に進める教団の姿勢に疑問を呈します。

これまで、神の名のもとに霊感商法や、高額献金などを通じてお金集めがなされてきたが、同じ様に神の名のもとに養子縁組が行われていたことが、2世らの告白から明らかになっています。さらに今回、児童である2世にも、神の名のもとに物売りをさせていた実態も浮かび上がってきました。

彼女自身は今も学生時代の奨学金の返済を続けて、経済的に厳しい生活を続けていますが、それでも、今も苦しむ2世たちのことを思いやります。

「信者である親と同居しながら、悩む2世は多いと思います。自分の思う心に正直になって、統一教会の思想や神様、霊界の言葉に振り回されることなく、自分で決めた道を自分の足で歩んでほしい。声をあげられない2世に対して、児童、成人問わず、自立支援の仕組みをつくり、多くの人にこの問題を支援している人たちをサポートしてほしい」と訴えます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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