「人民を射殺したことに罪悪感」北朝鮮の特殊部隊員が語る後悔の念
北朝鮮は2020年8月、「爆風軍団」として知られる朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の特殊部隊、第11軍団を国境警備要員として中国との国境沿いの地域に派遣した。
かねてからこれら地域では、密輸、脱北、国外情報の流入、国内情報の流出などが絶えず発生し、いくら取り締まっても一時的な効果しかなかった。それもそのはず。地域住民と国境警備隊、安全部(警察)、保衛部(秘密警察)がグルになり、これら違法行為から利益を得ていたからだ。
新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに国境を封鎖した北朝鮮は、その悪循環を断ち切るために、地域にしがらみのない爆風軍団を派遣したというわけだ。それから3年。彼らはどのように暮らしているのだろうか。韓国デイリーNK編集部は、北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)に駐屯する国境警備隊員A氏と、爆風軍団の兵士B氏とのインタビューを通じ、中朝国境沿い地域の現状を探った。
ー 国境封鎖が長期化しているが生活や配給に問題は?
国境警備隊隊員A氏(以下A):国境封鎖前にも、後方部(補給担当部署)の食糧、配給物資だけでは生活できず、残りの半分は部隊が自主的に外貨稼ぎや密輸を行って自力更生していた。国境が封鎖され、年を追うごとにさらに生活を切り詰めよと言われている。昨年、白飯を食べられたのは6回だけだった。普段は1日3食のうち、2食は麺という日が最も多かった。
爆風軍団兵士B氏(以下B):爆風軍団には物資を滞りなく供給するから、絶対に人民(民間人)の生命と財産には手を出すな、まばゆい明かりが灯る中国に幻惑されず作戦に臨めと命じられている。
実際、最初の年には指揮部のある徳川(トクチョン)から国境沿いの地域まで物資を運んできてくれたが、昨年は指揮部が「輸送手段が足りない。国境警備隊の世話になれ」と言って、捨て子のような扱いをされた。それで腹をすかせた多くの兵士が川を密かに越えて中国に入り、(食べ物を手に入れて)戻ったりしていた。
ー 国境警備隊と爆風軍団は国境封鎖作戦で長期間合同作戦をしている?
A:昨年9月からは(閉じられていた密輸のルートが)少し開かれた。国境沿いの地域の人民たちは、面識がなく、意気揚々とした爆風軍団の兵士がやって来たことに恐怖感を感じていた。しかし、爆風軍団の兵士たちも、この地域に来て長くなり、国境警備隊やこの地域の人々がなぜ密輸や貿易でしか生きていけないのかわかったようで、以前ほどひどいことはしない。
配給が徐々に劣悪になって、自分たちの状況を徐々に理解しつつあるようだ。助け合って眼をつぶる所はつぶって生きようとしている。国境警備は表向き厳重だが、実のところかなり緩くなっている。
B:派遣された当初は国境警備隊としょっちゅうぶつかっていた。国境警備隊が捕まえられなかった人を、われわれが狙撃して(遺体を)川に放置したら、国境警備隊から野蛮人だと後ろ指を指された。
しかし、昨年からはわれわれが直接中国に入って、貿易業者に会って品物をやり取りする形にして、地域住民に怪我をさせるようなことはなくなった。国境警備をしながら、あれこれやった。国境封鎖の最初の年と翌年には、国境に近づく者を射殺するのに血眼になっていたが、昨年にはわれわれも苦しくなり、中国と行き来するようになって、国境に近づいた人民を狙撃し射殺したことに罪悪感を感じるようになった。
(参考記事:北朝鮮国民が目を背ける「見せしめ射殺体」の衝撃の現場)
ー 昨年、特に苦しかったことは?
A:国境警備隊は、国境沿いの地域住民の密輸を手助けして金儲けして生きていくのが伝統となっている。国境が封鎖され密輸を手助けできない状況が続き、われわれも苦しかった。元々、国境警備隊は(他の北朝鮮軍の部隊とは異なり)栄養失調がない部隊で有名で、幹部も自分の子どもを軍隊に行かせるなら国境警備隊にすると言うほどだが、昨年は中隊の90人中、12人が栄養失調にかかり、帰宅させたり保養所に送った。
B:食糧問題だ。昨年初めて、道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)にその状況を知らせ、支援品として受け取ったトウモロコシを食べて耐え忍んだ。指揮部が配給をしてくれていた初期とは異なり、昨年は国境警備隊の後方部に依頼して物資を受け取った。
爆風軍団の配給規定量は、一般の部隊とは異なる。一般の部隊の下戦士(二等兵)は、1日の給食量が700グラムだが、われわれは1キロだ。しかし、規定量を得られないので、訓練で身につけた技術を現実(密輸)に用いらざるを得ない。
ー 新年の望みは?
A:昨年は国境封鎖作戦期間中、最も苦しかった。それでも(自分は)栄養失調にかからずに生き延びた。新年の望みは、密輸が再びできるようになって、軍も民間もコロナ前のように、助け合って仲良く生きていくことだ。
B:昨年は国境警備隊と地域住民の暮らしの現実をより深く知ることになった1年だった。今年の願いは、1日も早く撤収して、元の部隊に復帰することだ。
編集部注:爆風軍団は、当局が国境線沿いに建設を進めているコンクリート壁(コンクリートの柱に3300ボルトの電流が流れる高圧電線を張ったもの)が完成すれば撤収することになっていたが、工事が進んでも撤収はさほど進んでいないようだ。