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【田代英治×倉重公太朗】「プロサラリーマン」第4回(高年齢者雇用のあり方)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

倉重: では、話題をちょっと転換して、その高年齢者雇用というものの在り方について考えてみたいと思いますけれども、先日もこの高年齢者雇用安定法について法改正予定の話が出てきて、65歳まで今は義務化のところを平成37年までに段階的に今は移行している最中ですが、その後に、また70歳までの努力義務化と。これは年金政策との関係も大いに影響しているわけですけれども、やっぱりそういう中で、例えば60歳定年をして、そして70まで続ける、これ、定年してから10年間はかなり長いですね。

 さらに、人生100年時代といわれて、60定年から考えてもあと40年あるわけです。そういう中で一体、高年齢者雇用の在り方というのは、どういうふうなのがいいのかというのは、田代さんの立場だと、どういうふうに見ていますか。

田代:今まで話したように、業務委託契約への転換の道があってもいいのではないかと思います。定年再雇用で給与が下がる中での働きよりももういっそのこと、ここで一つの踏ん切りをつけて委託契約に切り替えてもらって、定年までに培ったスキルや経験を基に業務をやったほうがいいんじゃないかなと考えています。

 会社側から見ると、今まで一律でかなり、6割ぐらいに下げるケースもあると思うんですけれども、そういうのを見直して、担当してもらう仕事に応じて、あるいは本人の技量とかスキルに応じて、給与を設定するというような制度にする。モチベーションを、もう少し持てるような制度とし、高齢者が生き生きと働くというのが良いのではないかと思います。そういう会社だったら、比較的長く働き続けられると思うので、こちらの選択肢もあるでしょう。でも、一律に給与が大幅に下がるような中で、モチベーションがもう全然上がらない中で10年働くのは、結構つらいと思いますので、そういう人で自分の腕に自信がある人は、この業務委託契約での独立というのも、選択肢として考えていければいいんじゃないかなと。

 会社が、そういう働き方を認めないということになるかもしれないけれども、会社になければ、それはやはり交渉したらいいと思うんです。私も独立するときに、そういう制度はなかったわけですけれども、思い切って会社に提案したわけです。会社にないから、もう辞める、諦めるんじゃなくて、こういうふうなことを考えているんだけれども、どうかということでオファーしてみてはどうでしょうか。

倉重:まずは、対話してみようということですね。

田代:対話してみればどうかなと思います。

倉重:高年齢者雇用という意味では、おっしゃったように、定年後再雇用において何ができるかというのは、これはかなり人によって違うわけですよね。

 だから、その定年前までに培ったスキルを相当生かして、ほぼ変わらない仕事をしているのに一律何%だの減額するわけですね。これが法的にいいか悪いかじゃなくて、そもそもモチベーションが下がりますよねという話ですよね。

田代:そうです、本当におっしゃるとおりで、そういう使い方というのは、本当にもったいないと思うんです。今は人手不足になっていて、もう猫の手も借りたいような状況になっている中で、このせっかくこの会社で培ったスキルや経験のある人たちを、有効に使わないと、やっぱり会社もこの人手不足を乗り切れないんじゃないかなと。

倉重:そういった、その高年齢者のモチベーションをアップさせるための賃金制度といいますか、賃金に対する考え方というのは、どういう結局給料の払い方をしたらいいと思いますか。

田代:大前提としては、やっぱり年齢と切り離すということです。この年齢だからこうだという、そういうものは、もう一切排除して、こういう仕事をして、こういう会社に貢献してくれているというところを評価する、そういう職務・成果型の給与を高年齢者の再雇用のところに取り入れるのがよいと思います。

倉重:むしろ高年齢者こそ、成果給がなじむんじゃないかと。

田代:なじみます。

倉重:何ができます、どういうアウトプットができますかという視点ですね。

田代:はい、かなり差があると思うんです。高年齢者のほうが、個人ごとの差があると思うので、だからこそそこは、やはり一律ではなくて。

倉重:スキルなのか、職務なのか、成果なのか、そういった分かりやすい指標で処遇すべきということですよね。

田代:そうですね。

倉重:あと、高年齢者に何をやってもらうかという、この職務とかミッション、こういったものも、当然事前に考えておくということになりますかね?

田代:そうですね。高年齢者のほうも、もう50代ぐらいから、やはりそこを意識することが必要になります。制度をそうしとけば、こういうふうに自分ができればこういう処遇が受けられるんだなというのがはっきりしていると、それを目指して頑張ろうということになると思います。しかし、各企業の定年再雇用制度規程を見ると、給与のところをぼやかしたりしているケースが結構あるんです、個人ごとに定めるみたいな。

倉重:個別に定めるみたいなのはよくありますね。

田代:はっきりしていないケースも多いので、そこは明らかにしたほうがいいんじゃないかなと思っています。もちろん、個別対応になるケースも多いでしょうけれども、こういうスキルがあったらこうだというふうに、そういう、はっきり明示する部分も必要なんじゃないでしょうか。

倉重:高年齢者こそ、ヨーロッパ型のように、仕事にお金がひも付いている職務給、こういう考え方がなじむんじゃないかということですね。

田代:そうですね。それは思います。

倉重:人によって、かなり二極化する感じがしますもんね。

田代:そうなんですよね。

倉重:あとは、基本的に60まで、定年まで働いてきたんであれば、何らかその会社に貢献できるスキルはあるんでしょうと、こういう話ですよね。

田代:そうですね。少し前までの話だと60歳まで残っている人というのは、役員になれなかった人とか、グループ子会社等に転出できなかった人、外に出ることができなかった人、そういう残りの人が60歳にたどり着いたんだという考え方で、ネガティブに捉われていたんですよね。会社としては、60歳を超えても、まだ雇うのかと。

倉重:そうですね。

田代:けれども、今はもうそういう時代じゃないので、60歳定年を迎える人は結構多いし、別にそういうネガティブな人ばかりじゃないわけだから、こういう人をどう生かすかという方向で制度を切り替えていきたいという相談が結構多いです。今までは一律何割とか、あるいは年金や給付金とかを絡めてどういうふうに設計するとベストなのかという視点での賃金設計が多かったのですが。

倉重:高年齢雇用継続給付金を踏まえて減額ありきで設計したりしていますよね。

田代:はい。ああいう視点での賃金設計というのが結構あったと思います。

倉重:だから、単に花壇の水やりとか、社内メール便の配達だとか、そういう単純作業にして、なんか最低賃金をべったり付けてとか、一律60%カットとか、それが必ずしもいいという、高年法が始まった当初は、そんな感じでもありましたけれども、これからは、そうじゃないということですね。同一労働同一賃金というのとは別次元の問題として。

田代:そうですね。改正高年齢者雇用安定法が施行された頃はおっしゃるとおりで、そういう仕事しかないという感じだったんですけれども。

倉重:無理やり仕事をつくってたりしますね

田代:無理やり仕事をつくったりとか。けれども、もう今はもうだいぶ変わってきていますから、そのやり方を今も続けていると、逆にいろいろな意味で危ないですよね。

倉重:そして、もったいないですよね。社内リソースの有効活用という観点からは。

田代:そうなんですよね。

倉重:なので、これからの高年齢者雇用の在り方は、もっと違う方向に、定年前と違うのは、もちろんそれはそれでいいんだけれども、しかし何でも仕事をあてがって、取りあえず、なんか義務だからしょうがねえから雇うとかじゃなくて、どうせ居て貰うんなら、しっかり活躍していただこうと、こういう方向でも考えていったほうがいいですよね。

田代:そうです。もう今はそういう方向に、大きく動こうとしていると思うんです。中小企業のクライアントでも、そういう相談が多いですからね。

倉重:やっぱり人が足りないですからね。

田代:中小企業だからこそかもしれないですね。

倉重:やっぱり採用できないからこそ。今の高年齢者の方にやってほしいということが、増えているわけですよね。

田代:はい。そのときに、法律の解釈からどうしたらいいんだということを、非常に気にしている中小企業もいるんですけれども、もちろんそれも大事ですね。法改正の内容や最高裁の判例とかもきちんと押さえることです。それと同時に、同一労働同一賃金の法的な要請もさることながら、この高齢者の人をどうモチベートしていくかという視点も、やはり大事で、法的な面と、そういうモチベーションの面との両方を合わせて考えないと、いい制度はできないんじゃないかなと思います。

倉重:完全なる手前みそですけれども、それができるわれわれの事務所は強いですね。

田代:そうですね、両方(笑)。

倉重:法律面と人事マネジメントとね。

田代:そうですね。

倉重:そういう意味では、高年齢者雇用の在り方が今後変わっていくのかなと思います。

(最終回へ続く)

対談協力:田代 英治

社会保険労務士、株式会社田代コンサルティング 代表取締役

1961年福岡県生まれ。1985年神戸大学経営学部卒。同年川崎汽船株式会社入社。

1993年人事部へ異動。同部において人事制度改革・教育体系の抜本的改革を推進。

2005年同社を退職し、社会保険労務士田代事務所を設立。

2006年株式会社田代コンサルティングを設立し、代表取締役に就任。

人事労務分野に強く、各社の人事制度の構築・運用をはじめとして人材教育にも積極的に取り組んでいる。

豊富な実務経験に基づき、講演、執筆活動の依頼も多く、日々東奔西走の毎日を送っている。

〔主な著書〕

『ホテルの労務管理&人材マネジメント実務資料集』(総合ユニコム、2018年7月)

『企業労働法実務入門【書式編】』(共著)(日本リーダーズ協会、2016年4月)

『人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術』(幻冬舎新書、2015年)

『人事部ガイド』(労働開発研究会、2014年)

『企業労働法実務入門』(共著)(日本リーダーズ協会、2014年) 他

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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