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「東京五輪第2世代」U-18日本代表が国内デビュー。あえて「戦略的根性論」で進めるチーム作り

川端暁彦サッカーライター/編集者
チリゴールへ「突撃」するFW加藤拓己(山梨学院高)

3度目の招集で迎える日本デビュー

U-18日本代表を率いる影山雅永監督
U-18日本代表を率いる影山雅永監督

 2年後のU-20W杯を目指すU-18日本代表が、8月10日に開幕した日本最古の国際ユース大会のSBSカップにて国内デビューを飾った。「東京五輪第2世代」と言うべきこのチームは、ファジアーノ岡山の監督などを務めた影山雅永監督を指揮官に迎えて今年2月の「コパ・デル・アトランティコ」(スペイン)から活動をスタート。6月の「リスボン国際ユーストーナメント」(ポルトガル)を経て、このSBSカップが3度目の招集となる。チームにとっては「日本の皆さんに初めて観ていただく機会であり、当然優勝を狙いたい」(影山監督)との意気込みで臨む大事な大会だった。

 過去の年代別代表は国内の選考合宿を経ながらチームを作っていくことが多かったが、このチームは国際大会ベースでチームを作るという少しイレギュラーな流れで入っている。影山監督は「時間が足りないと言ってしまえばそれまでだが、短い時間なりに落とし込みたい」と取り組んできた。たとえば、大会前日の9日でも2部練習を実施。だが試合前に消耗してしまっては元も子もないので、午前練習は選手にスパイクを履かせることなく、しかし実際にピッチには立たせてイメージを持たせつつ、ボールの動かし方や奪い方の戦術的な約束事を確認。時間がないなりの工夫を凝らしながら、チームのベースを作ろうと奮闘している。

 システムについても影山監督が「好きな形」と公言し、岡山でも実践してきた[3-4-2-1]の形はひとまず封印。「この世代の日本のチームのほとんどが[4-4-2]か[4-2-3-1]を採用している」(同監督)という現実を踏まえて、[4-4-2]の形をベースにしたチーム作りに取り組んでいる。チーム作りが進んだあとで応用を試みる中で得意のシステムが使われることはありそうだが、まずは「チームとしてのベースの部分を固める」ことを優先している格好だ。11月には早くも“絶対に負けられない”アジア1次予選(モンゴル開催)を控えているだけに、チーム作りのピッチは上げていくしかない状況とも言える中で、SBSカップでチリ代表との初戦を迎えることとなった。

南米の雄に絡め取られる

SBSカップ初戦に臨んだ日本イレブン
SBSカップ初戦に臨んだ日本イレブン

 だが、結論から言うと、このチリ戦は良いゲームにならなかった。初めての代表戦ということで気負ってしまった選手もいたのだろう。序盤から日本が狙いとするハイプレスは相手にうまくいなされてしまい、逆に「前線からプレスをかけられて、うまく繋げなかった」(MF伊藤洋輝=磐田U-18)と攻守両面で機能しなかった。

「どうしてあんなにビビってしまったのか」と影山監督が嘆き、GK若原智哉(京都U-18)が「みんなファーストプレーが消極的だった」と振り返ったように、この日のチリは攻守ともに強健であり、エンジンの掛かりが悪いままで勝てる相手ではなかった。前半にスローインから一瞬のスキをつかれて失点すると、後半開始早々にはPKで追加点を奪われてしまう。日本もFW加藤拓己(山梨学院高)が抜け出しての折り返しをFW杉田将宏(名古屋U-18)が流し込む途中出場コンビの活躍で1点を返したが、反撃はここまで。国内デビュー戦は、1-2の黒星となってしまった。

あえての戦略的根性論

加藤(左)のマイナスの折り返しからFW杉田将宏(名古屋)が追撃の1点を決める
加藤(左)のマイナスの折り返しからFW杉田将宏(名古屋)が追撃の1点を決める

 巧みなロングパスも織り交ぜてくる上に個々のキープ力もある相手に対してのプレッシングは容易ではない。だが、そこで行き切ることを求めるのが影山監督のスタイルだ。「とにかく走って切り替えてということを求められるアグレッシブなサッカー」(伊藤)である。前日練習では「(プレスに)行くとなったら行けよ! 『行けるんじゃないかなあ?』みたいなのじゃあ、一生ボールは取れねえよ!!」とFWが一喝される一幕もあったのだが、この日の感想も同じ。「まず本気で取りに行かないと」と断言。その上で攻撃面でも消極的なプレー選択が目立ったことを残念がった。

「根性論じゃねーか!」という突っ込みも出てきそうだが、影山監督はその言葉もあえて受容して使っている。「世界中のどの国からも『日本と当たるのは簡単じゃねーな。しんどいな』と思われるチームにしたい。日本代表が日本人の代表として戦うのだから、そのために持っているべき姿勢がある」とした上で、「根性論と言われるだろうけれど、でもどんなに上手くてもそれが不十分な選手は絶対に世界大会でも厳しいアジアの予選でも通用しない。そこは外せない」と言い切り、選手に引き続き求めていく考えを示した。

 指揮官が相手に合わせての戦術的な引き出しを用意していないわけではない。プレスだけで勝てるとも思っていないだろう。ただ、いまはチーム作りの初期段階であり、まずは国際試合を戦っていく上でのベースを作る時期と割り切ってもいる。頭の中にあるのは今年5月のU-20W杯で観た衝撃的な試合の数々だ。「イタリアとウルグアイの試合も凄かったし、アルゼンチンと韓国の試合も凄まじいものが観られて、正直本当に感動させられた。あのテンション、あのインテンシティ、あのクオリティの中で戦わないといけないのだから、まずは幹の部分をしっかり作っていきたい」という考えだ。「相手に応じて戦術的なものを色々と出して選手を助けてあげるのはすぐにできる。でもそれは、後からにしたい」(影山監督)。

 11日には地元・静岡ユースとの第2戦が行われる。過去の同大会ではついつい気持ちが守りに入った代表が後れを取ることの多いカードだったが、影山監督は「あり得ない。まず開始から全力でいかせます。相手がどことか関係ない」と強調した。あえて根性論を辞さないところから始まったチーム作り。個々人に「量」を求めながら、「戦う姿勢」を要求し、当然ながら技術的な「クオリティ」も追求していくことになる「幹作り」。どうしても時間との戦いとなる代表チームだが、影山監督はまず国際大会を戦いながらベースを固めていく考えだ。そのためにも、まずはこのSBSカップ。黒星スタートとはなったものの、「優勝」という目標に変更はない。

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巧みなパス出しから終盤の攻勢の演出者となったMF川村拓夢(広島ユース)
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サッカーライター/編集者

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。2002年から育成年代を中心とした取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月をもって野に下り、フリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、『スポーツナビ』『サッカーキング』『サッカークリニック』『Footballista』『サッカー批評』『サッカーマガジン』『ゲキサカ』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。著書『2050年W杯日本代表優勝プラン』(ソルメディア)ほか。

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