ロンドン証券市場改革「ビッグバン2」計画巡り、英政府とBOEが対立―IMFはBOEを支持(上)
昨年11月、パリがロンドンを抜き、時価総額で欧州最大の株式市場となったことは記憶に新しいが、最近も大英帝国の「王冠の宝石」と称された半導体設計大手アームホールディングスが米国上場を決定、さらにアイルランド建材大手CRHもロンドンからニューヨークに移ると発表した。ギャンブル世界最大手フラッター・エンターテインメントも米国での二次上場計画を示した。
相次ぐ主要企業の米国詣でにロンドン金融街(シティ)の投資会社シュローダーのピーター・ハリソン投資運用部長は、「英国がリスクテイカー(リスクを取る投資家)を支援しないということは、ロンドンがニューヨークと競争できないことを意味する」(英紙デイリー・テレグラフの3月2日付コラム)と嘆いた。
テレグラフ紙のオリバー・ギル経済部キャップは3月2日付コラムで、「こうした英国離れの動きは、ロンドン市場改革の波が止まったという非難を引き起こした一方で、バイデン米大統領のグリーンエネルギー投資減税計画が英国企業にとって抗しがたい魅力であることを証明した」と指摘する。グリーン減税計画ではインフレ削減法(IRA)に基づき、クリーンエネルギーに取り組む企業に7380億ドル(約100兆円)の税制優遇措置、半導体メーカーにはさらに400億ドル(約5.4兆円)を支援する。
これにはハント英財務相も公然とバイデン米大統領を批判している。ハント氏は4月16日の英テレビ局スカイニュースのインタビューで、「バイデン大統領のグリーン減税は企業への補助金による利益誘導だ。世界景気を悪化させる」と噛みついた。インフレ削減法は、英紙フィナンシャル・タイムズの推定によると、昨年の同法成立以降、2000億ドル(約27兆円)の投資を米国に呼び込んでおり、EU(欧州連合)と英国は対抗策をとらざるを得なくされている。テレグラフ紙のエア・ノルソエ経済部デスクは4月17日付コラムで、「それは経済が関税と補助金によって緊密に管理される保護主義の新時代への恐怖を引き起こした」と断じた。
ロンドン金融街(シティ)の投資会社シュローダーのピーター・ハリソン投資運用部長は市場改革を加速するためには特に、ブレグジット(英EU離脱)後の待望の「ソルベンシー(支払い余力)II」ルールの早期緩和の必要性を挙げる。ソルベンシーは保険会社の自己資本ルールで経営の健全性を示すものだが、このルール緩和は年金ファンドの株式などリスク資産への投資拡大に道をつける。同氏は「現在、英国の年金資産の10-13%が英国株に投資されているが、非常に低い数値だ」という。
テレグラフ紙のノルソエ経済部デスクは2月20日付テレグラフ紙で、「現在のソルベンシーIIルールでは風力発電などの新規プロジェクトへの投資を思いとどまらせ、代わりに利回りの低い国債や社債への投資を強いている」と指摘。ハント財務相も市場改革「ビッグバン2」の目玉としてソルベンシールールの緩和にこだわるのは、「このルールにより保険会社はバランスシートに巨額の現金を保有する必要があり、保険会社がどこに投資できるかが決まる。(ルール緩和で)企業は英国経済に数十億ポンド(数千億円)を投資できるようになる」(昨年11月17日付テレグラフ紙)と、持論を展開している。(『中』に続く)