「ボロ儲け」で大手電力は高笑い?電気代爆上げ、メディアが報じない真の問題
昨年末から今年1月にかけ、「電力逼迫」から卸電力市場での取引価格が異常に高騰、同市場で電気を調達する新電力は経営危機の打撃を受けている。一般の消費者も、市場と連動した契約の場合は「電気料金10万円」もあり得る等と各メディアが報じるなど、大きな負担を強いられる見込みだ。なぜ、このような異常事態が起きたのか。経産省や各メディアは「寒波による需要増加」「悪天候による太陽光発電の出力低下」といった原因をあげているが、実際は電力市場の不透明さや制度設計の欠陥が大きいようである。しかも、大手電力にとっては
・取引価格の高騰で莫大な利益
・顧客を取り合うライバルである新電力に打撃
・今回の問題を再生可能エネルギーの責任にできれば、「原発や火力の安定性」をアピールできる
と、いろいろと都合が良い点があるのだ。「電力逼迫」「取引価格高騰」といった異常事態の裏に何があるのか。内閣府有識者会議でのやり取りや新電力関係者らへの取材から分析する。
○約30倍に跳ね上がった取引価格
今回、取引価格が異常に高騰した卸電力市場=日本卸電力取引所(JPEX)は、電気の売却先を探している事業者(発電事業者)と電気の需要を満たすために電気を調達したい事業者(小売事業者)の間で取引を行う市場である。そこで取引される電気は日本の電気全体の3割にも及ぶ。本来、電気の受給バランスを保つ役割を担う市場であるはずが、昨年12月から今年1月にかけ、売られる電気(売り入札)の量が大幅に減少。電気の取り合いになり、1キロワット時あたり最大で251円と、2019年度の取引平均価格の約30倍にまで跳ね上がったのだ。
そのため、価格が高騰した電気を買わなくてはならない小売業者(新電力*)は、経営が圧迫され、それらの業者と契約している一般の消費者も電気料金が値上げされるなどの負担を強いられたのである。
*かつて大手電力会社10社に独占されていた電力販売が規制緩和されたことで、新たに参入した電気を販売する企業。大手電力より割安だったり、太陽光や風力などの環境に配慮したグリーン電力を積極的に調達・販売している新電力も多い。
○「太陽光発電の出力低下」という嘘
問題は、どうして市場に売りに出される電気が大幅減となったか、である。筆者が経産省・資源エネルギー庁に問い合わせたところ、最大の要因は「LNG(液化天然ガス)の調達不調」だという。つまり、大手電力の持つ火力発電の燃料不足が懸念されていたということだ。それにもかかわらず、経産省の説明やメディアでは上述のように「悪天候による太陽光発電の出力低下」が強調され、「再生可能エネルギーの不安定さ」を印象づけている。これに対し、内閣府の有識者会議「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」は、以下のように反論している。
「今年1月6日から1月12 日の全国の太陽光の発電量は昨年度より増えており、供給力として重要な役割を果たしている」「実際に、昼間のスポット価格の抑制に大きく寄与している」(令和3年2月3日 第4回 再生可能エネルギー規制総点検タスクフォースより)
さらに、同タスクフォースでは、電力が「逼迫」していたにもかかわらず、石油を燃料とする大手電力の発電施設の稼働率も低下していたことから「電気の売り惜しみはなかったか?」との疑問の声があがった。
○取引価格高騰で1兆5000億円のボロ儲け?
今回の日本卸電力取引所での電気取引価格の高騰が、不幸な偶然の重なりによって起きたものなのか、ある意図により起こされたのかは、現時点では不明だ。ただ、短期間に約1兆5000億円という莫大な金額が小売事業者から発電事業者(そのほとんどが大手電力)に支払われている。つまり、今回の取引価格高騰で大手電力は莫大な利益を得たと見ることができるだろう*。さらに、かつて自分たちが独占状態にあったところへ参入してきた新電力は顧客を奪い合うライバルであり、その不振は大手電力にとっては悪くないことだという構図がある。
*上述タスクフォース提出資料によれば、昨年12月20日から今年1月21日までのJPEXスポット市場の約定金額は、2019年度の2,148億円に対し、2020年度は1兆7,564億円。小売電気事業者のスポット市場からの調達費用が、1.5兆円増加した計算となるとのこと。
いずれにせよ、今回の卸電力市場での価格暴騰について大手電力の影響が大きいことは確かだろう。市場の電気の9割を売りに出しているのは、大手電力だからだ。前述のタスクフォースでの指摘にあるように、仮に、大手電力が売り惜しみをすれば、簡単に価格は高騰する。それだけではなく、大手電力の小売部門が意図的に高値で買い注文を出しても、競争になるので価格が高騰するし、大手電力は発電部門が儲かるので困らないという構造があるのだ。そもそも、発電と小売を分離する“発販分離”が行われていないことが、市場の公正さという点で深刻だ。海外での電力自由化では、この発販分離が普通なのである。
今回の、卸電力市場での価格暴騰について一部のメディアでは「大手電力に頼り、自力で電気を調達できるようにしてこなかったツケ」と、新電力側の自己責任だとの主張も述べられているが、こうした主張にも筆者は違和感を感じる。そもそも、卸電力市場の制度設計自体がおかしいのだ。例えば、価格高騰へのブレーキが適切に設定されていない。経産省は、卸電力市場の取引価格高騰を受け、1キロワット時あたり上限価格を200円と設定したものの、これは自動車で例えるならば、時速50キロまでと走行速度を制限するべきところを、時速250キロまでOKというようなものだ。
○原発温存、再生可能エネルギー潰し?
また、卸電力市場で電気を調達していない新電力も、卸電力市場の高騰による被害を被っていることも大問題だ。2017年のFIT法の改正により、太陽光や風力による再生可能エネルギーによる電気(FIT電気)の調達価格も、卸電力市場での取引価格に連動するようになった。つまり、新電力がFIT電気を供給する発電事業者から直接電気を買う場合も、卸電力市場を通していないにもかかわらず、同市場での取引価格高騰による被害を被るという、極めて不条理なこととなる。FIT電気を扱おうとする新電力が損をすることになり、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの普及を阻害することになってしまうのだ。
今回の取引価格の高騰を受け、一部のメディアでは火力発電を削減し再生可能エネルギー普及することについて不安視したり、梶山弘志・経産大臣も「原発の活用も今後の対応の一つ」と言及している。既存の発電施設として火力発電や原発を多く抱える大手電力にとっては笑いが止まらない状況だろう。
○真相究明と制度改革が必要
現在、卸電力市場の取引価格は先月に比べれば落ち着いてきているものの、今回の異常な高騰がもたらした損失や不安は、今後の日本の主力の電力源となるべき再生可能エネルギーの普及を妨げ、それは政府が目標とする「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロ」という目標の実現にも悪影響を及ぼしかねない。前出の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」は、その緊急提言で、徹底した真相究明や新電力への緊急支援、市場制度の再設計等を求めている。また、卸電力市場とFIT電気を直接調達する場合の価格との切り離しも必要だろう。
(了)