「極悪女王」から学ぶ、炎上や誹謗中傷から「人生」を救うために必要なこと
女子プロレスラーのダンプ松本さんの人生を描いたNetflixのドラマ「極悪女王」が、大きな話題になっています。
9月19日に公開されると、早速SNS上にも様々な感想が投稿され、翌日の早朝には「極悪女王」がXにトレンド入り、さらに毎日のようにNetflixの日本のドラマランキングの1位を独走しているのです。
参考:Netflix女子プロ 「極悪女王」独走1位のわかりみ 剛力彩芽が10キロ増量して「ライオネス飛鳥」
従来、こうしたプロレスを舞台にしたドラマを制作する場合は、プロレスのシーン自体は現役のプロレスラーやスタントマンが演じるケースが多かったと思いますが、今回の「極悪女王」では、オーディションで選ばれた役者陣がゼロからプロレスを学び、99.9%のシーンを役者自身が演じているそうです。
そうした役者の方々の本気の体当たりの演技も、このドラマが評判を呼んでいる1つのポイントと言えるでしょう。
もう一つ、皆さんに是非注目していただきたいのは、今回の「極悪女王」で中心的な役を演じている唐田えりかさんと剛力彩芽さんの2人が、2021年に実施されたオーディションのタイミングで大きな分岐点に立っていたという点です。
不倫騒動で実質休業状態だった唐田えりかさん
まず、最も象徴的なのは、「極悪女王」で長与千種役を熱演した唐田えりかさんでしょう。
唐田えりかさんは、2020年1月に東出昌大さんとの不倫を報じられ、世の中の大きなバッシングにさらされています。
参考:東出昌大と唐田えりかの不倫騒動、バッシングに賛否両論の声
そのバッシングの影響は非常に大きく、2022年「の方へ、流れる」という短編映画が公開されるまで、実質1年半近くも女優業として表舞台から姿を消す結果になっていました。
「極悪女王」の公開記念イベントでも、「この作品に出会えなかったら自分はどうなってたのかな」と、当時を振り返り涙を見せていましたが、唐田えりかさんの役者人生にとって、この作品のオーディションを勝ち取れたことが非常に重要だったことは想像に難くありません。
剛力彩芽さんもドラマなどの出演が激減
また、ライオネス飛鳥役を演じた剛力彩芽さんも、「極悪女王」のオーディションを受けたのは、2020年8月にオスカープロモーションを退社して個人事務所を設立した後、ドラマなどの出演が激減したといわれているタイミングです。
参考:剛力彩芽「極悪女王」大ヒットが頼みの綱…独立で仕事激減
さらに、剛力彩芽さんは2018年頃から前澤友作さんとの交際がメディアで大きく報道されていたこともあり、金目当てなど様々な誹謗中傷の対象になってしまっていたようです。
完成報告会でも「今までにやったことのないことを挑戦してみたい」という思いでオーディションを受けたとコメントをされていましたが、人生の転機としての挑戦であったことが窺えます。
ドラマの中でもジャイアントスイングなどの大技を自分で演じてみせるなど、文字通り過去の剛力さんでは考えられなかったような姿を披露されているのが象徴的でしょう。
「極悪女王」で主役のダンプ松本さんを演じているゆりやんレトリィバァさんも、会見で「人生をかけた作品」と語っていましたが、この作品が唐田えりかさんや剛力彩芽さんにとっても「人生をかけた作品」であり、だからこその熱演が生まれた面があるのは間違いないでしょう。
Netflixだけがオファーを継続したピエール瀧さん
こうした社会的批判にさらされて、テレビから姿を消しかけた役者が、Netflixに活躍の機会を見いだした二人のケースを見て多くの方が思い出すのはピエール瀧さんでしょう。
ピエール瀧さんは、2019年3月に麻薬取締法違反で逮捕され、テレビでの出演がなくなっただけでなく、出演していたゲームのシーンが差し替えになったり、電気グルーヴとしての作品が回収されたりと、大きな社会的制裁にさらされました。
しかし、その中でNetflixは、2019年8月に配信を開始した「全裸監督」でピエール瀧さんの出演シーンをそのまま使用。
さらに逮捕の1年後に撮影を開始した「全裸監督2」でも引き続きピエール瀧さんに出演オファーをしたのです。
参考:「全裸監督2」のピエール瀧さん快演から考える、「失敗」した人に必要なこと
その後、ピエール瀧さんは「サンクチュアリ」や「地面師たち」など、Netflix作品で次々に快演を披露して、大根監督に「ネトフリ専属俳優」とイジられるほどになっていることをご存じの方も多いでしょう。
Netflixがもし無かったら
もちろん、ピエール瀧さんの麻薬取締役違反は明確に違法行為ですし、唐田えりかさんの不倫も、社会的に許されない行為であることは事実です。
ただ一方で、そうした人生における過ちを起こしてしまった人を、その一度の過ちを元に、長期にわたって業界から干してしまったり、永遠に誹謗中傷を続けたりするということも、明らかにやりすぎなように思います。
もしNetflixが無ければ、ピエール瀧さんや唐田えりかさんは、長い期間役者としての才能を発揮することができなかったかもしれない、最悪の場合は彼らが役者人生を諦めてしまっていたかもしれない、と考えると、彼らの罪がそこまで大きな制裁を受けるべきなのかは、議論の余地があると考える方も多いはずです。
もちろん、Netflixも、「ハウス・オブ・カード」の主役だったケビン・スペイシーを性的暴行事件発覚により降板させた過去があり、どんな過ちでも許容しているわけではありません。
ただ、Netflixが他の日本のテレビ局よりも再起する人に対して寛容であったことは、彼らにとっては幸運だったと言えるでしょう。
「悪役」であれば批判や誹謗中傷をしても良いのか
奇しくも「極悪女王」は、タイトル通り女子プロレスの世界において「悪役」を演じることになったダンプ松本さんのストーリーです。
ドラマの中でも、日本中の視聴者がダンプ松本さんに対して罵詈雑言を書いた手紙を送っていたことが分かるシーンが何度も出てきます。
最も象徴的なのは、届いた手紙にカミソリの刃が仕込まれていてダンプ松本さんが手を怪我してしまうシーンでしょう。
ダンプ松本さんは自ら「悪役」を演じるという覚悟を決めた立場ですし、劇中でも「極悪同盟は世の中の罵詈雑言を食って生きていくんだよ!」という象徴的な台詞がありますが、メディアを通じた「悪役」に対して世の中がいかに恐ろしいほどの怒りをぶつけるかは、今も昔も同じであると感じるシーンでもあります。
ゆりやんレトリィバァさんも、実際にダンプ松本さんを演じた際に会場中からの罵声をあびて手が震えるなどの経験をして、日本中から誹謗中傷を受けながらも悪役を演じ続けたダンプ松本の気持ちが少し分かったと、涙ながらにメッセージを送られていたのが印象的です。
メディアが作った「悪役」の人生を誹謗中傷で壊さないために
現在はメディアの報道により「悪役」とされた人達に大量の批判や誹謗中傷がネットを通じて届く時代になっています。
今回の「極悪女王」をきっかけに、是非皆さんに思い出していただきたいのは、同じ女子プロレスラーという職業だった木村花さんが、リアリティショーでの出演に対する誹謗中傷をきっかけに最悪の選択に追い込まれてしまった事件です。
参考:木村花さんの悲劇から1年。誹謗中傷を減らすために私たちができること。
カミソリレター以上に、ネットの誹謗中傷は炎上した人達の人生を追い詰めますし、そうした追い詰められた人達を業界の人たちが干したり見放したりすることは、実はそこに追い打ちをかける行為でもあります。
ゆりやんレトリィバァさんも、実は2019年9月にミラノコレクションでの奇抜な着物姿が炎上し、多数の批判を受けていますから、そうした誹謗中傷の怖さを知った上でのダンプ松本さんへのメッセージだったと言えるでしょう。
日々一部のメディアから「悪役」として、炎上や批判の対象にされている人達に誹謗中傷を行ったり、罪を償った人に人生をやり直すチャンスを与えなかったりすることは、ダンプ松本さんに何も知らずにカミソリレターを送っていた人と変わらない行為と言えないでしょうか。
日本中から「悪役」として嫌われたダンプ松本さんも、元はプロレス好きの一人の少女だったという「極悪女王」の逸話から、私たちが学べることは、きっとたくさんあるはずです。