Yahoo!ニュース

暑さ指数「運動は原則中止」でも強行される高校野球地区大会。甲子園より怖い予選ならではの理由と対策

坂東太郎十文字学園女子大学非常勤講師
とにかく暑いし危険(写真:イメージマート)

 甲子園球場(兵庫県西宮市)で行われる全国高等学校野球選手権大会(以下「夏季大会」)本大会は47都道府県の地区大会を勝ち抜いた49代表(北海道と東京が2校)が今年は8月6日から22日の日程で開催されます。地区大会から全国制覇まですべてトーナメント。参加チームは約3500です。

 すでに酷暑下で連日試合が行われています。大変危険。注目度が高い本大会に比べて関係者以外の話題に上りにくい。だからといって大丈夫なわけがありません。むしろ試合数が多く施設(球場)も甲子園より一般に劣悪で実力差も大きいがゆえの予選ならではの怖さが多々存在するのです。今回はこの点に注目してみました。

「熱中症警戒アラート」が発令されるもガッツリ開催

 最も出場チームが多い東京都の7月暑さ指数で「運動に関する指針」を昨年でみてみると25~28の「警戒」(積極的に休憩)に該当する日数(最高)は31日。つまりすべて。指針では「激しい運動では、30分おきくらいに休憩をとる」とあります。高校野球が「激しい運動」かどうかは後述します。仮にそうであるならば今年から導入された1試合最大10分「クーリングタイム」では到底足りません。

 より危険な指数28~31の「厳重警戒」(激しい運動は中止)の日数も22日。指針の「激しい運動」「など体温が上昇しやすい運動は避ける」を守るには7月の試合は3日に1日ぐらいしかできないはず。

 最強レベルの指数31以上の「運動は原則中止」も9日を記録。今年も17日と18日に指数33超えが予想される際に出される「熱中症警戒アラート」が発令されるもガッツリ開催されました。指針が「特に子どもの場合には中止すべき」とするにも関わらず。

公のデータが示す「熱中症と野球」の関係

 環境省・文部科学省・日本スポーツ振興センターなどの公的データを総合すると学校管理下での熱中症死亡件数は小・中・高では高校生が断然高く、発生状況ベースで「運動部活動」が約7割種目別の死亡件数だと野球がトップでワースト2位のラグビーの倍以上。7~8月に集中しています。

 このデータはあくまで学校管理下で「運動部活動」は課外活動(部活)を指し「競技大会」は別のカウントとなるため直ちに試合が危険であるとまで言い切れないとはいえ高校生の野球に熱中症リスクが高いのは間違いないと示していると評してよさそうです。

土のグラウンドがカラカラに乾いて反射熱襲来

 では都道府県予選の実態に即して考えます。特に大都市圏でチーム数が多いため決勝までの日程がタイトになりがちです。加えてプロ野球が本拠地とするような設備の整った球場は使用するにしても準決勝・決勝ぐらいで、それまでは照明設備がなく夜間試合(夕刻以降)ができない球場で行われるのが普通。必然的に日中開催となってしまいます。

 これが実に暑い。元来が野外スポーツなので夕刻の西日が守備陣に影響を与えないよう方位を定めている設計が多く、結果として「お日さまカンカン」。さらに土(主に真砂土)のグラウンドが多く(甲子園が典型)カラカラに乾くと反射熱で天然芝とは比較にならないほど地上での暑さ指数が上昇するようです。

「大丈夫かあ?」レベルが炎天下で延々と守備

 さて都道府県予選は「激しい運動」か。おそらく該当します。

 すべてトーナメントゆえ出場校の約半分が初戦で、4分の3が2戦目までで消えていく仕組みです。強豪校は春季大会でシードされているケースが多いため、最初の方はノーシード同士が戦います。

 これが「大丈夫かあ?」というレベルにあるのは明白。予選は点差によるコールドゲーム制度が導入されていて10点差で5回まで、7点差で7回までで打ち切り。イニング数が短縮されて負担軽減されているかというと全くそうは見えないのです。

 コールド負け側は勝つ側より一般にはるかに弱く、取材後に自らつけたスコアブックを振り返ると異様さに驚かされます。勝った側の安打数が単に多いだけでなく負けた側にもエラーや野選、暴投、捕逸などさまざまな記号がてんこ盛り。炎天下で延々と守備。

地区大会独特の「コールド逃れ」という不思議なテンション

 さほどに弱いチームは技術以前に体力的に「大丈夫かあ?」と推測され、主観的にはそうした試合をするのも「激しい運動」でしょう。他方、勝った側も1イニングで何度も打席が回ってきて出塁・走塁機会も増えるわけで、それはそれで「激しい運動」となります。

 しかもトーナメント一本槍だからコールド負けしそうなチームはその試合で終わりゆえ今度は「コールド逃れ」で踏ん張るという不思議なテンションに切り替わります。ベンチも観客席も「7回を目指せ」「9回まで行け」と、まるで最終回のような(最終回でもあるし)異様な熱気。悠々勝っている側ですら気圧されるほどです。

 しかも予選は初戦コールド勝ちしたチームが次戦でコールド負けするほどチーム力に差があります。だから上記のような光景をしばしば醸し出すのです。

ベスト8で本大会出場レベル同士が戦う府県も

 戦力が厳しい同士の初戦・次戦の戦いもまた強豪校同士とは趣こそ異なれ「激闘」となりやすい。ラグビースコアのような試合が展開されるのです。当然、攻守ともに時間を費やし、「激しい運動」と化します。

 勝ち進むにつれて均整の取れたチーム同士の戦いに変ずるも、今度は連戦の疲れと強豪同士ゆえのヒリヒリした戦いへと転じるので下位とは違った意味で「激しい運動」となるのは当然の帰結でしょう。

 大阪府や神奈川県予選は他県ならば本大会に出場できそうなレベルのチームがベスト8ぐらいにズラリ。ここからは本大会並みかそれ以上のプレッシャーがかかるのです。

「謎の春季大会」と統合ないしは継続をはかれないか

 当事者や関係者およびコアなファン以外に知られていない「春季大会」と夏季予選を合体させるのも手です。春季大会はセンバツ終了後の4月から6月まで結構大がかりに開催されている割に夏季予選のシード校を決めるだけという謎の大会。ここを夏季予選に置き換えるか、せめて夏季予選の次戦・3戦ぐらいまでの結果とすれば酷暑下の過密日程は避けられます。

 そうすれば夏季本大会も前倒し可能です。

8月の甲子園は熱中症の観点からいえば「開くべきでない」

 最後に本大会(甲子園)における暑さ指数を指摘しておきます。立地こそ兵庫県西宮市ながら地域性を勘案して大阪府の昨年8月のデータで「運動に関する指針」を観察。

 指数25~28の「警戒」(積極的に休憩)は31日すべて。同28~31の「厳重警戒」(激しい運動は中止)が28日、同31以上の「運動は原則中止」も8日を記録しています。

 本大会は現在、球児の心身への負担軽減を目指して3日の休養日を設けていますが、暑さ指数から導き出す答えは「大会自体を開くべきでない」のはず。甲子園球場は思い切り南向きで内野が土という暑い球場でもあります。

 暑さ対策の切り札として検討されている試合を朝と夕方に分ける「2部制」導入は見送られたまま。仮に導入されたとしても昨年の大阪の8月最低気温平均が26.4度で暑さ指数21~25の「注意」に相当。たった1.6度上がっただけで「警戒」相当です。

 最低気温は放射冷却が完了した明け方5~6時頃に多く記録されます。反対に夕方も十分暑い。運営上どうしても1日4試合が必要ならば第1試合は午前6時スタートぐらいとし、4試合目はナイトゲームがよろしいかと。

十文字学園女子大学非常勤講師

十文字学園女子大学非常勤講師。毎日新聞記者などを経て現在、日本ニュース時事能力検定協会監事などを務める。近著に『政治のしくみがイチからわかる本』『国際関係の基本がイチから分かる本』(いずれも日本実業出版社刊)など。

坂東太郎の最近の記事