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大谷翔平の右ヒジ負傷を「試合の一部」として片づけていいのか?疑問しか残らない今季の二刀流起用法

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
当面は二刀流ができなくなってしまった大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【最悪の事態を迎えてしまった大谷選手】

 レッズとのダブルヘッダーを戦い終え、フィル・ネビン監督の後に記者会見上に現れたペリー・ミナシアンGMが衝撃的な事実を明らかにした。

 「(第1試合後の)降板後に行った検査で、ショウヘイのUCL(内側側副靱帯)にティア(亀裂)が見つかった。今シーズンは登板することはないだろう」

 第1試合に先発登板していた大谷翔平選手だったが、2回途中で投球後にベンチに向かって首を横に振るような仕草を見せ、そのまま降板するアクシデントに見舞われていた。

 第1試合終了後にネビン監督は「右腕の疲労」とした上で、診断を受けている最中だと説明していたが、実はその検査で大谷選手が最悪の事態を迎え、2018年にトミージョン手術を余儀なくされた右ヒジと同じ状態になっていることが判明していたのだ。

【大谷選手の今シーズンのスケジュールはすべて未定に】

 ミナシアンGMによれば、とりあえず残りシーズンでの登板回避が決まっているだけで、今回発見された亀裂の修復手術を受けるかどうか、受けるとしたらいつ頃になるのか、さらに打者として最後まで出場を続けるのか等々、現時点ではすべて未定だという。

 その上でミナシアンGMは、以下のようにも話している。

 「残念なことではあるが、負傷はゲームの一部(part of the game)だ」

 確かに正論ではあるのだが、今回の大谷選手の負傷は本当に不可抗力で片づけてしまっていいものなのだろうか。

 そしてエンジェルスは大谷選手に対し、的確なリスクマネージメントをしていたといえるのだろうか。

【過去に例がなかった二刀流としてのフル回転】

 今シーズンの大谷選手はMLB在籍6年目で、過去に例がないペースで二刀流としてフル回転し続けてきた。開幕から大谷選手中心のローテーションを組み5日登板がほぼ固定化され、さらにDHとしてもほぼフル出場を続けてきた。

 実際ここまでチームは128試合を消化する中で、大谷選手は126試合に出場を続けてきた。最後に休養目的で試合を欠場したのは5月2日のカージナルス戦のことだ。

 それ以降、ずっと試合に出場し続けているのはチーム内で大谷選手1人だけ。そして打者として試合に出場し続けながら、先発投手として中5日登板の調整を行っていかねばならないのだから、どんな人間だって疲労が蓄積して当然だろう。

 にもかかわらずエンジェルスは、7月27日のタイガースとのダブルヘッダーで第1試合に先発登板させた後、第2試合も先発起用しているのだが、間違いなくあの日を境にして投手としてアクシデントを繰り返すようになっていた。

 第1試合で自身初の完封勝利に続き、第2試合でも2本塁打を放ったことで人々が歓喜に沸く中、米メディアに応じたジョー・マドン前監督は「二刀流の起用法は難しい」としながらも、第2試合も先発起用したことに疑問を投げかけているくらいだ。

【「体調は本人が一番理解している」を繰り返した首脳陣】

 これまでメディアから首脳陣に対し、大谷選手の疲労を考慮する質問が何度とぶつけられてきたが、ミナシアンGMとネビン監督は異口同音に「体調はショウヘイ自身が一番理解しているし、我々は彼を信頼している」を繰り返し、ほぼ本人の意思に委ねてきた。

 こうして最悪の事態を招いてしまったことを考えれば、彼らの大谷選手起用法に反故があったと断罪されても仕方がないし、どうしても今回の負傷が単純な不可抗力だとは考えにくい。

 もし首脳陣に大谷選手の今後を憂慮してくれる人物がいたのなら、少しでも長く二刀流を継続させるためにも、もう少し違った起用法ができたように思えて仕方がない。

 特に大谷選手が先発回避を申し入れた時点で、誰の目から見てもエンジェルスの9年ぶりポストシーズン進出はほぼ消滅状態にあった。決して無理をさせてまで登板させる必要はなかったはずだ。

【危惧していたことが現実になった虚しさ】

 実は8月21日に公開していた有料記事で、残りシーズンの大谷選手の起用法を不安視していたばかりだった。

 ポストシーズン進出を見据えて戦っていたはずのエンジェルスの戦術として、8月の時点で大谷選手が蓄積疲労によるアクシデントを起こしてしまったことは、彼らの戦術が機能していなかったことを意味するものだ。

 首脳陣がその点をしっかり認識していれば、チームが置かれた状況も加味して、残りシーズンは大谷選手の個人記録を意識しながらも少しずつ休養を与えることができていたはずだ。

 さらに補足するならば、右手首の骨折で長期離脱していたマイク・トラウト選手を、実戦感覚を取り戻すマイナーでのリハビリ出場を省いてまで復帰させる必要もなかったはずだ。

 結局トラウト選手も1試合出場しただけで、再び負傷者リストに逆戻りしている。なぜ首脳陣は彼の復帰を焦る必要があったのか、まったくもって理解ができない。

 かなり穿った見方をすれば、今シーズン限りで勇退が濃厚なネビン監督と、大谷選手との再契約が難しそうなミナシアンGMにとって、大谷選手の今後を憂慮する必要がなかったのかもしれない。

 だがエンジェルスが大谷選手をこれまで以上に酷使し続けたという事実は否定できないし、今回の負傷で当面の間大谷選手の二刀流を見られなくなったという事実も変えられない。

 この時期の大きな負傷は、オフにFAを迎える大谷選手にとって最悪のタイミングであるし、球界全体から見ても計り知れない損失だ。

 ただただ虚しさしか残らない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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