新型ロケット「H3」初の射場での試験を終了。天気と戦った種子島宇宙センターの2日間
2021年3月18日、JAXAはH3 ロケット試験機 1号機の開発試験の一環である極低温点検を3 月17 日から3月18日にかけて種子島宇宙センターにおいて実施した。18日午前の記者会見で、JAXA 宇宙輸送技術部門の岡田匡史H3プロジェクトマネージャは「機体を整備組み立て棟(VAB)に戻す作業はあるものの、極低温点検は終了」と述べた。ロケット第1段、第2段、エンジン、固体ロケットブースター、衛星フェアリングという主要な部分をすべて組み合わせた初の試験は、「結果良好、テストとしてはほぼ満点」(岡田PM)となった。
3月17日早朝、組み立てられたH3ロケット試験機1号機がVABから引き出され、移動発射台(ML5)に搭載されて第2射点まで移動した。その後、目標では17日日中に推進剤を注入し
17日午後6時すぎに打上げのリハーサルとして、エンジン着火直前までのカウントダウンを実施し、18日0時すぎには2回目のカウントダウンを実施する予定だった。しかし推進剤の充填作業は降り続いた雨や作業手順の見直しなどの影響により、3時間、5時間と延期されていった。
最終的には18日午前1時9分からの第1回カウントダウン開始が決定。深夜、発射台で照らされたH3ロケットの機体を眺めつつ、エンジン着火6.9秒前までのカウントダウンが行われた。その後、第2回のカウントダウンは中止となり、試験データの評価や特別検証試験と呼ばれる射場関連施設、機器の点検を行う段階へと移行することになった。
18日朝の会見で、岡田PMは天候に悩まされた試験になったとしつつも、推進剤の自動充填にはバルブの開閉や温度など所定の条件がある。条件に沿うように何度も手順を調整し、最終的に推進剤がスムーズに流れるまでになったと説明した。
カウントダウンが1度となった点については、「1回目で非常によいデータが取れ、すべての設定が見事にうまくいってかなりの目的が達成できたという感触がある。第2回を検討していた際に発雷の予報が出されたため、打ち上げ管制隊と三菱重工とで相談の上、機体をVABに戻すまでの限られた時間の中で、2回目カウントダウンをスキップすると決定した」と述べた。
JAXAと共にH3ロケット開発を進める三菱重工業株式会社宇宙事業部の奈良登喜雄プロジェクトマネージャは、「新しい機体と新しい設備で、どのような条件がそろえば手順を進められるか、実際やってみて直すべきところがわかってきた。よりよい手順に仕上げていくために、今回はよい結果だったと思っている。自動充填タスクをより洗練させていくものに仕上げる」と打ち上げ準備の手順改善のための経験が得られたと今回の点検を振り返った。
H3ロケットは、2020年秋に発表された第1段エンジンの不具合を解消し、エンジンを完成させるための開発を進めている。これが完了するまで1号機の打ち上げは達成できないが、世界で競争力のあるロケットは使い捨ての場合でも年間に10機以上の打ち上げを達成し、高速の運用を実現している。エンジンの完成だけでなく人工衛星の運用開始目標に合わせて次々とロケットを準備し、打ち上げるような体制も必要になってくる。
日本も同様の体制を獲得できるか、年間10機に達するような打ち上げは可能になるのか。H3の目標では、現在のところ年間6機の打ち上げだが、岡田PMは「現在の目標は年間6~7機。まずは目標を達成し『まだ行ける』に持っていくことで投資を呼び込み、次の世界につなげることができる。1回の試験を終了したことで、『こうすればよい』という声が現場からたくさん上がってくる。これをいかに早く反映するかが勝負。たとえば固体ロケットブースターの取り付けでも今回は時間がかかっているが、もっと早くできる。これから道具を足さないといけない部分もある。
今回の点検、機能確認が中心だが、最初にできた実感のある部分がバルブの自動点検だ。ボタン一つでいくつかのバルブをまとめて点検し、結果を出すという仕組みができた。自動評価機能をさらに追加できれば、たとえていうと人間の心電図をとってボタン一つで評価してくれるような仕組みになっていく」と述べ、運用の高速化を図る目標があるとした。
H3ロケット試験機1号機は、今後は新型エンジンの完成を待って、機体にフライト用のLE-9エンジンを取り付けた状態での「1段実機型タンクステージ燃焼試験」を予定している。薗後、地球観測衛星「だいち3号(ALOS-3)」を搭載して2021年度中の打ち上げを目指す。