Yahoo!ニュース

木村拓哉による「スター木村拓哉」の証明

てれびのスキマライター。テレビっ子
『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢をかなえたろかSP』のTVerサムネイル画像

2度目の織田信長役

1月27日公開予定の古沢良太・脚本、大友啓史監督の映画『THE LEGEND & BUTTERFLY』で主人公・織田信長を演じるのが木村拓哉だ。

木村は、同じ織田信長を1998年放送のドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』(TBS)でも演じている。この頃の木村といえば『ロングバケーション』(1996年)や『ラブジェネレーション』(1997年、ともにフジテレビ)といった、いわゆる「月9」で社会現象を起こし、時代の寵児となっていた時期。

時代劇初挑戦となったその作品では、この頃の木村のイメージそのままに、青年時代を中心に、天下獲りへの野心を抱くまでが描かれていた。

その後も『HERO』(2001年~、フジ)、『GOOD LUCK!!』(2003年、TBS)、『華麗なる一族』(2007年、TBS)、『BG〜身辺警護人〜』(2018年、テレビ朝日)、『グランメゾン東京』(2019年、TBS)など木村はヒーロー像そのままに、ヒットドラマを生み出し続けた。

そんな中で、2020年に始まった『教場』シリーズ(フジテレビ)では、必要以上のことは喋らず、その鋭い目線で生徒たちを観察している警察学校の鬼教官・風間公親を演じた。これまでの木村拓哉像を覆す、圧倒的な渋い輝きを見せ新境地を開拓した。

こうした経験を経て、約25年ぶりに『THE LEGEND & BUTTERFLY』で織田信長を演じたのだ。

脚本の古沢良太は、木村拓哉と織田信長に重なる部分があると語っている。

古沢「やんちゃな若者から天下人に上り詰めていった信長は、現代人の誰ひとりとして、 実際に会ったことがないにもかかわらず、一般的に共通した強烈なイメージがあります。本人がそれを望んだかどうかわからないけれど普通の人とはまったく違う人生を歩んだ末、勝手にイメージが独り歩きしたり、誤解が世間に行き渡ったり、孤独を抱えたり…というようなことが信長にはあるのではないだろうかとつい想像しますよね。 それがスター木村拓哉さんとも重なるのかなって」

(※映画『レジェンド&バタフライ』公式サイト・WEB MAGAZINE レジェバタ公記より)

そんなスター木村拓哉のスターたる所以が凝縮されていた番組が年明けに放送された。

1月9日放送の『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢をかなえたろかSP』(TBS)である(※番組は1月15日現在もTVerで視聴可能)。

テレビの夢

2023年のTBSの最高番組がもう出ました。これ越えられないでしょ!

関根勤がそう唸ったそのVTRは、青森で美容室を営む男性・北野諭さんの妻・洸子さんの「夢」を叶えるもの。

彼女の夢は「夫を木村拓哉に会わせてあげたい」。

諭さんは、子供の頃から木村拓哉に憧れ、影響され服装、歩き方、生き方に至るまで木村拓哉を目標に人生を送ってきた。極めつけは2000年放送のドラマ『Beautiful Life』(TBS)に影響され美容師になったこと。しかも、独立し自分の店を持ったときにつけた店名は木村拓哉演じた柊二が務めていた店と同じ「HOT LIP」。その内装は、柊二が杏子(常盤貴子)に語った夢の構想を再現したものだ。

それを聞いた木村は諭さんに会うことを快諾。

しかも「自分もこの番組に参加させてもらう以上、フルアクセルで行くんで」というように、偽番組の収録として夫婦がドラマの聖地巡礼中、ドラマと同じシチュエーションで、バイク(TW200)に乗った木村拓哉が車に横付けして登場し対面を果たすという粋なサプライズ演出。さらに劇中に登場する屋台のラーメン屋「一番」も再現し、一緒にラーメンを食べるといった至れり尽くせり。

けれど、それだけでは終わらない。

それで終わっちゃうと『あんたの夢をかなえたろか』じゃねえなと思って」と、なんと木村の提案で「HOT LIP」を再現。20年以上前のセット図面が残っていたため、予算1000万円をかけて完全復活させたのだ。

しかも西川貴教、池内博之、原千晶といった当時の共演者、脚本家の北川悦吏子、演出の土井裕泰、プロデューサーの植田博樹らスタッフも再集結し、『Beautiful Life』特別編としてドラマを撮影しようというのだ。

やるんだったらそれぐらいやろうぜ」と徹底的。

その店長役には、諭さん、そして女性客として洸子さんをキャスティング。

今度は、何も知らない妻・洸子さんへ恩返しのサプライズを仕掛けようというのだ。

2018年から毎年欠かさず、夫のために諦めずに応募していた妻。そんな彼女を最終的にはもっとも喜ばせるというのが木村拓哉らしい。

ただ1000万の予算をかけただけでも、ただスケールが大きいだけでも、この感動は実現し得なかっただろう。

テレビという歴史の中で生まれたスターである木村拓哉がいたからこそ、その「夢」は実現した。そしてそれは、彼ら夫婦のものだけではなく、多くの視聴者が共有した“テレビの夢”そのものだった。

24時間“木村拓哉”

木村拓哉に憧れているのは諭さんだけではない。

「キムタク」とは、いわば「“男の子”の理想」の姿である。憧れ、そのものだ。

男子なら誰もが「キムタク」になりたいと思っている。けれど、現実ではなれないから、別の道を模索し、ついでに悔しいから「キムタク(笑)」などと半笑いで揶揄したりしてしまう。

木村拓哉はおそらくそんな思いに誰よりも自覚的だ。

だからこそ、たとえ信長のように「勝手にイメージが独り歩き」してしまったとしても、「24時間“木村拓哉”なんですよ」(『ダ・ヴィンチ』2017年4月号)と常に木村拓哉であり続けようとするのだ。

諭さんは「夢以上のものが叶った」と語っていた。

そう、スターは常に期待や想像を越えたものを起こす。だから「憧れ」の対象になるのだ。きっと『THE LEGEND & BUTTERFLY』でも木村は我々の想像を越えた信長像を提示しているに違いない。

木村拓哉は、スターである「木村拓哉」たる所以を証明し続けている。

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

てれびのスキマの最近の記事