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マグロ漁業者は、なぜ、水産庁にデモをしたのか

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

6月25日に小規模漁業者が水産庁などにデモを行いました。主要メディアでも取り上げられたのですが、問題の本質が理解できておらず、漁業者の意図を誤解させる内容も少なくありませんでした。この記事では、漁業者がデモをせざるを得なくなった背景と、彼らが何を訴えたかったのかを整理してみます。

太平洋クロマグロは、国際的な枠組みで規制が行われており、国ごとに漁獲枠が配分されています。日本には、成魚(30キロ以上)の漁獲枠は、4882トン配分されています。これを水産庁が国内で配分したのですが、その大半が天下り先の大中型巻網(まきあみ)漁業に配分されています。理不尽な配分が、小規模漁業者を排除した場で、秘密裏に決められたことに憤りを感じて、漁獲枠配分の見直しを求めてデモを行ったのです。

では、論点を整理していきましょう。

小規模漁業者を排除して、一方的に漁獲枠を決めたこと

多くの小規模漁業者が憤っているのは、漁獲枠の決定プロセスが不透明だった点です。クロマグロの漁獲枠は水産政策審議会で決められます。審議会のメンバーには、巻網業界からは大勢の人間が参加しているのに対して、小規模マグロ漁業の代弁者はいません。この審議会でいつの間にか大型魚の漁獲枠が決められていたのですが、小規模漁業者にそのことは知らされていませんでした。平成30年6月28日現在、水産政策審議会資源管理分科会の議事録は平成29年5月30日から一年以上更新されていません。どのような根拠に基づいて漁獲枠が設定されたのか、未だに部外者には知りようがないのです。これは、「議事録を速やかに公開することを原則とし、議事内容の透明性を確保する」という閣議決定に反しています。

五月中旬に、何も知らされていなかった小規模漁業者に、漁獲停止を命じるファックスが届きました。今日から、クロマグロは生死を問わず海に捨てろという通達がいきなり来たのだから、漁師の困惑は想像に難しくありません。延縄漁業者には、その時まで30kg以上の成魚に漁獲枠が決められていること自体が知らされておらず、寝耳に水だったのです。

ファックスの一部
ファックスの一部

漁業者の強い反発に慌てたのか、水産庁は、急遽パブリックコメントを実施しました。5月29日の公示から、受付締切までが、わずか7日という異例のものでした。

特別な理由が無い限り、パブコメの意見の提出期間は、原則として案の公示日から起算して30日以上とされます(参考)。マグロの漁獲枠についての意見を素早く締め切る理由は見当たりません。行政として守るべきルールがないがしろにされているのです。

小規模漁業者は、自分たちの生活に直結する漁獲枠が、当事者を排除して、情報を公開せず、一方的に決められたことに対して、強い憤りを感じているのです。自分たちも交えて、漁獲枠の議論をやり直すことを希望しているのであって、漁獲規制自体をないがしろにしろと主張しているわけでありません。

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零細伝統漁業を最優先に守るという国際的な取り決めの無視

 巻網は高性能の魚群探知機を搭載し、泳いでいるマグロの群れを一網打尽にします。近年、巻網が産卵場で集中的に漁獲を開始してから、伝統的な一本釣りや延縄でめっきりマグロが捕れなくなりました。水産庁は、巻き網以外の漁獲がほぼ途絶えた2015-2016年を基準に漁獲枠を配分したので、小規模漁業への漁獲配分は、過去の実績と比べて著しく小さくなっています。また、現在の漁獲枠配分で固定されると、資源が回復しても、そのほとんどが巻き網に優先的に配分されることになります。

 小規模零細漁業をないがしろにして、大型漁船に優先的に漁獲枠を配分するのは、国際的な取り決めに反しています。FAOの持続的漁業の行動規範やSGDs 14.bでは、小規模・伝統的漁業者への特別な配慮の必要性が明記されています。また、クロマグロの国際管理を行っている中西部太平洋まぐろ類委員会のWCPFC条約(5条:保存保管の原則)にも、「零細漁業者及び自給のための漁業者の利益を考慮に入れること」と記述されているのです。クロマグロ資源の回復のために漁獲量を削減するのはやむを得ないとしても、小規模伝統的漁業である一本釣りや延縄に配慮して漁獲枠を設定することが国際的に求められているのです。

小規模漁業者は、国際的な漁獲枠を蔑ろにしているわけではなく、国内の漁獲枠の配分の見直しを希望しています。そこで、このようなプラカードが準備されました。

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産卵期に巻き網を続けていることに対する抗議

小型船が我慢を強いられる中で、大型巻網が産卵場で大量のクロマグロを漁獲しています。産卵のために戻ってきた群れを待ち伏せして、一網打尽にしているのです。築地市場は、30キロ前後の小型のマグロで溢れ、そのほとんどがセリで値段が付かずに売れ残ります。

売れ残ったクロマグロが、量販店でたたき売りされています。一度に大量の漁獲をする巻網では、水揚げ後の冷やし込みや血抜きが満足に出来ないので、身割れや血栓など酷い状態です。

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一本釣りなどの伝統漁法は、マグロを一本ずつ丁寧に処理をして付加価値付けをしています。付加価値付けをする小規模漁業者にはわずかな漁獲枠しか配分せず、巻網漁業者には中央市場に大量の売れ残りが発生するほど多くの漁獲枠を配分しています。資源が少なくなったら、漁獲量を減らすのは当然ですが、マグロ本来の価値を損なっている薄利多売漁業から減らすべきではないでしょうか。

多くの小規模漁業者は産卵期にはクロマグロを獲っていません。卵を産ませることが重要だと考えているからです。そこで、彼らは次のようなプラカードを準備しました。

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漁業者の声をメディアはどう伝えたのか。

いくつかのメディアは、沿岸漁業者が漁獲枠の増大や管理の延期を求めていると報じました。

「クロマグロ漁獲規制は死活問題」 沿岸漁業者が反対(フジテレビ系FNN)

「枠増やせ」漁業者が東京を行進 クロマグロ漁獲規制で(朝日新聞デジタル)

これらの見出しからは、小規模漁業者が漁獲規制自体に反対をしているような印象を受けますが、実際はそうではありません。ほとんどの小規模漁業者はフェアな漁獲枠配分や産卵期の漁獲規制を求めているのです。

実際に大間のマグロ関係者は次のようにツイートしています。

現在の漁獲枠配分は、水産庁が一方的にきめたものです。漁獲枠決定のプロセスは不透明で、議事録の公開やパブコメなど行政が従うべきルールを守っていません。小規模漁業者が怒るのも当たり前です。現在の漁獲枠配分を一度白紙に戻して、小規模漁業者の代表も交えて、漁獲枠配分について議論をやり直す必要があると考えます。国際的なルールを遵守して、小規模生存漁業に配慮した漁獲枠配分をすることを、日本政府に期待します。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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