相次ぐ閣僚交代と「空白領収書」問題…岸田おろしはあり得る? 岸田内閣の今後のシナリオは
旧統一教会の問題だけに留まらなかった閣僚辞任ドミノ
岸田内閣が閣僚辞任ドミノで揺れています。10月24日の山際大志郎金融再生担当大臣、11月11日の葉梨康弘法務大臣、そして11月20日の寺田稔総務大臣と1ヶ月で3人の辞任に至った。過去には2ヶ月で3人の辞任(第一次安倍政権における久間章生防衛大臣、赤城徳彦農林水産大臣、遠藤武彦農林水産大臣。)はあったものの、これよりも短い期間での閣僚辞任ドミノは異例のことです。
特に、今年夏の参院選以降、政局のほとんどは旧統一教会の問題に終始しているものの、山際大志郎金融再生担当大臣こそ旧統一教会に関する問題だったものの、葉梨康弘法務大臣はいわゆる舌禍、そして寺田稔総務大臣は自らの政治資金に関する問題と、いずれも旧統一教会の問題とは関係のないところでの辞任となりました。このことから、内閣改造の身体検査が不十分ではないのかという意見も与党内に出るなど、岸田内閣の脆さを指摘する声が相次いでいます。
首相の「空白領収書」問題はどれほどのダメージか
そのような状況下において、今度は岸田首相自身の政治資金に関する問題が表面化しました。週刊文春が首相の選挙運動収支報告書に宛名や但し書きが空白の領収書が多数存在するとスクープ報道(「〈証拠写真〉岸田文雄首相も選挙で“空白領収書”94枚 公選法違反の疑い」)し、公職選挙法違反の疑いだという見出しからセンセーショナルに取り上げられました。確かに現職首相による公職選挙法違反の疑いとなれば、政府の存在自体が揺らぐ一大スキャンダルのようにも聞こえます。
しかし、筆者はこの「空白領収書」についてはそこまで大きな問題にはならないと踏んでいます。これは、この文春記事が出た日に筆者がYahoo!ニュース個人に出した別記事(「有権者が求める「無限の透明性」にどこまで政治家は応えるべきか」)にも書いたように、「政治とカネ」の問題が支持率の低下に直結している昨今の日本政治において、政治家が説明責任をおうことに疑う余地はないものの、特に有権者は政治家を選んだことで「無限の透明性」を求めがちであり、その一環でしかないという考え方によるものです。
宛名や但し書きが空白の領収書について岸田事務所はコメントで、「同様の未記載の領収書は、与野党を問わず沢山確認されているとのことでしたが、 領収書の発行者の方の手間にはなりますが、きちんと書いていただくようにしなければなりません。」とコメントをし、対応すると発表をしました。有権者が政治に求めているのは透明性であり、その目的は「選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期すること」(公職選挙法第1条)のはずです。宛名や但し書きが空白が望ましくないことは事実ですが、一連の政治スキャンダルの流れのなかで、有権者が「無限の透明性」を求めているタイミングで出た記事であり、(与野党問わず出てくるレベルの問題であることや故意性が低いとみられることから)、この「空白領収書」問題が首相みずからの刑事罰に繋がったり、内閣総辞職などにつながる可能性は低いと考えられます。
次に心配なのは岸田首相ではなく秋葉復興大臣か
一方、これまでの事務所賃料問題などの追及を受けていた秋葉復興大臣については、別の週刊誌が、「秘書が去年の衆議院選挙の際、報酬を受け取ったうえで選挙運動を行い、公職選挙法違反の疑いがある」と報じるなど、さらなる問題が顕在化しています。秋葉氏は「しっかり説明責任を果たしたい」と述べていますが、これまで事実上の更迭となったそれぞれの大臣も説明責任を果たすと表明しながらの辞任となっており、岸田首相がどのような判断をするか注目です。
仮に秋葉復興大臣も更迭するようなことがあれば、わずか2ヶ月の臨時国会中に4人の大臣更迭となり、政権への悪影響は必至です。また、松本剛明新総務相にもパーティー券に関する報道がなされており、ほかの閣僚に関してもそういった問題がないとは言い切れず、まだまだ政権にとってのアキレス腱も多い状況です。
旧統一教会の問題を進めなければならない岸田政権の使命
こういった状況において、与党内部からも岸田首相に注文をつけたり、距離を置く勢力が出てきました。衆議院本会議では、井上信治自民党幹事長代理が「政府は改めて襟を正し、一層の緊張感を持ってもらいたい」と質問したほか、公明党の稲津久幹事長代理も「任命責任を重く受け止め、しっかり体制を固めるようお願いする」と厳しい注文を投げかけました。
週刊文春は菅前首相が岸田政権について「4月までだな」と発言したと岸田おろしに言及したほか、大臣を辞職した山際氏を党コロナ対策本部長に任命したとされる萩生田氏や、次の総裁選には立候補されるとされる茂木党幹事長らは距離をおいているとされています。さらに河野太郎大臣は、旧統一教会の問題に関し消費者庁に検討会を設置し旧統一教会への質問権行使に繋げるなど、有権者の共感を得る施策を遂行し、次の首相の座を引き続き狙っているものとされています。
政権は衆議院解散すれば強くなり、内閣を改造すれば弱くなる
永田町では、「政権は衆議院解散すれば強くなり、内閣を改造すれば弱くなる」という格言が残されています。内閣改造からわずか数ヶ月で3名の閣僚辞任ドミノが発生したことから、内閣改造との報道も出ましたが、岸田首相はこれを否定しました。実際のところ、短期間での内閣改造はリスクを増やすだけでメリットは少ないとみられ、筆者はこの考えに否定的です。政治家の不祥事は「内閣改造」では禊を切れないことは歴史が証明済であり、このことからもいずれは「衆議院解散総選挙」に打って出る必要があるはずです。
そうなると、考えなければならないのは衆議院解散の時期です。先日国会で成立した10増10減の改正公職選挙法は、11月28日に公布される見込みで、1ヶ月の周知期間を経て、12月28日に施行されます。そうすると、来年の1月に衆議院解散総選挙は新しい区割りによって行えることとなり、1票の格差問題は(完全には無くならないものの)いったん解決するでしょう。通常国会冒頭で解散総選挙というシナリオが最近言われているのも、こういう筋です。確かに自民党内部では、10増10減の対象となった都道府県に対して党本部がヒアリングを始めるなど、具体的な選挙準備が始まるようですが、ただ多くの都道府県連では一筋縄では決まりそうにありません。
そして、筆者はこの来年冒頭の衆議院解散総選挙も否定的です。なぜなら、今年夏の参議院議員選挙で(特に比例代表の得票数で)厳しい結果となった公明党はまだ立て直しに追われており、旧統一教会に関する報道もあって厳しい状況です。統一地方選挙が4月に迫るなか、「大型選挙と大型選挙のあいだは3ヶ月は開けてほしい」とされる公明党の考え方にそぐわない解散総選挙を、今強行できるとは思えません。10増した選挙区のうち、自民党と公明党の選挙区調整も始まっておらず、この点からも来年1月の解散総選挙は厳しいでしょう。自民党も厳しい統一地方選挙が想定されており、その直前に衆議院解散総選挙を行うことが地方にとって負担と厳しい結果を招くことも考えられることから、同様に難しいと考えられます。
そうなると、現実的には「G7広島サミット後の花道論」もしくは、通常国会終盤の内閣改造or衆院解散総選挙でしょうか。2023年5月19日から21日まで広島で開催される予定のG7広島サミット後に政局が動くとみることもできます。実際、2008年には、福田康夫首相が7月の洞爺湖サミット後に内閣改造を行いましたが、直後に公明党を周辺とする福田おろしが発生し、9月1日に退陣を表明しています。こういった経緯から「サミット花道論」はひとつのシナリオとしては意識せざるを得ない展開に間違いありません。
そうなると、来年6月の通常国会後半にかけて、内閣改造となるか、はたまた衆議院解散に打ってでるか、そもそもその時まで岸田内閣が低調な内閣支持率のまま持ち堪えられることができるのか。統一地方選挙における与野党の勢力構図変化も含め、注目です。