自公連立は崩壊寸前!“東京での関係断絶”だけに止まらないその実態
幹事長会談で隔たりは埋まらず
衆議院小選挙区の「10増10減」に伴う与党の候補者調整を発端にして、自民党と公明党の関係が膠着状態に陥っている。公明党の石井啓一幹事長は5月25日、自民党の茂木敏充幹事長に東京都内での関係断絶を宣言した。これに対して茂木氏は30日、公明党が独自候補を擁立する予定の埼玉14区と愛知16区で、反対する地元県連を説得して公明党候補を推薦する方針を伝達した。自民党側はいちおう歩み寄りの姿勢を見せたものの、公明党は東京に関しての姿勢を変えず、「東京の問題」については平行線のままだ。
小渕改造内閣時の1999年10月から始まった自公政権は、民主党政権の3年3か月を除いても20年余りの長期にわたる。両者をつなぐ絆は、衆議院の各小選挙区で1~2万票あると言われる創価票と公明党に与えられた大臣ポスト(当初は総務庁長官だったが、後に厚労大臣になり、現在では国交大臣が公明党のポストになっている)。その旨味のために、両者は長らく堅固な関係を維持してきた。
しかしその絆が綻びを見せ始めている。もっとも30日昼には官邸で岸田文雄首相と公明党の山口那津男代表と与党党首会談がたっぷり1時間も行われ、「自公連立は揺るがない」ことが確認されてもいる。だがこれは「大人の対応」ともいうべきもので、実際には首の皮一枚で繋がっているのに等しい状態だ。
広島3区をめぐって自公が争う
そもそも岸田首相のおひざ元でも、選挙に絡む自公の騒動が持ち上がっている。「10増10減」で広島県内の小選挙区も次期衆議院選から7つから6つに減らされるが、公明党が斉藤鉄夫国交大臣の擁立を決めた新3区で、自民党広島県連が平口洋衆議院議員のパーティーのために来広した茂木氏に中国ブロック選出の石橋林太郎衆議院議員の支部長就任を求めたのだ。
新3区は旧3区に旧4区の安芸高田市を加えた地域で、2021年の衆議院選では旧3区で公明党の斉藤氏が比例区から鞍替えして当選した。しかし自民党も旧3区で、宏池会系の県議だった石橋氏の擁立を進めようとしていたのだ。
旧3区は妻の案里氏の選挙違反事件で逮捕・服役中の河井克行元法務大臣の地盤だったが、事件の背景に案里氏が広島選挙区で当選した2019年の参議院選で宏池会の重鎮だった溝手顕正元参議院自民党幹事長が落選したという関係があった。よって岸田首相が会長を務める宏池会にとって旧3区を獲得することは、その屈辱を晴らすものでもあったのだ。
一方で公明党も、是非とも旧3区を得なければならない事情があった。かつては「公明党のホープ」と言われ、将来の代表候補と目されていた遠山清彦元衆議院議員が不祥事で2021年2月に議員辞職したため、公明党は神奈川6区での候補者擁立を見送らなければならなかったからだ。当時を知る関係者はこう述べた。
「あの時も双方がなかなか譲らなかった。岸田首相が調整しようとしたが、できなかったらしい。最後に菅義偉前首相が出てきて、なんとか収めたと聞いている」
菅氏は公明党の選挙を仕切る創価学会の佐藤浩副会長と懇意な関係であることは有名だ。
同時に菅氏は大阪維新の会の代表だった松井一郎前大阪市長とも気脈が通じ、安倍・菅政権で菅氏の懐刀だった和泉洋人元首相補佐官は、2021年12月に大阪府・市の特別顧問に就任した。
大阪16区では維新と手を結んだか?
その大阪で公明党は危機にある。4月の統一地方選で大阪府議会と大阪市議会で単独過半数を制した維新が、公明党との関係をリセットすると宣言したからだ。維新はこれまで大阪市議会で単独過半数を維持できず、公明党の協力を得る必要があった。そのため衆議院選で公明党が候補を擁立する大阪3区、5区、6区、16区、および兵庫2区と8区にも、維新の候補を立ててこなかった。
だが大阪市議会でも維新が単独過半数を獲得した以上、公明党に遠慮する必要はない。実際に日本維新の会の前総務会長で昨年の代表選で出馬する意欲を見せた東徹参議院議員は、以前から大阪3区への転出が囁かれていた。
そのような中で入ってきたのは、公明党が大阪16区に山本香苗参議院議員を擁立するという報道だ。比例区選出の山本氏は大阪府を重点区にあてがわれているが、豊中市など北部が拠点の中心で、16区の堺市とは距離がある。しかも現職の北側一雄元国交大臣は、過去2回の衆議院選で立憲民主党の森山浩行衆議院議員に復活当選を許している。
ある公明党関係者は筆者に「もし維新が16区に候補を擁立したら、山本香苗が勝てると思うか」と尋ねてきた。公明党が候補者を擁立する場合、当選以外は許されないからだ。
それでも山本氏が擁立されるというなら、公明党には山本氏が必ず勝つという“確信”があるはずだ。ちなみに今年4月に行われた堺市議選では、定数48のうち維新の当選者は18名で過半数に足らず、公明党の11名の協力を得る必要がある。
すでに自公の関係は変容しつつある。たとえ「東京の問題」が解決できたとしても、露呈した遺恨は残るだろう。それらを消し去るために早期の解散を打つのか、それとも気長に“自然治癒”を期待するのか。岸田首相にとって更迭しなければならなかった「長男問題」以上に悩ましいに違いない。