林原めぐみが『SHAMAN KING』で主題歌。20年を経た現代に「越えて行こう!」と希望を歌う
20年ぶりに完全新作として復活したTVアニメ『SHAMAN KING』。ヒロインの恐山アンナを演じる林原めぐみが、今回もOPテーマ『Soul salvation』を歌っている。自ら手掛けた詞に時代を反映させつつ、エネルギッシュに希望を導くボーカルを披露。カップリングに収録のEDテーマ『#ボクノユビサキ』は音声合成ソフトふうに歌い、声優ならではの新機軸になった。
令和に合わないド根性的なメロディが欲しくて
――『SHAMAN KING』は完全新作TVアニメ化ということで、アフレコでは自分の中に眠っていたアンナを起こした感じですか?
林原 それはあります。ただ、前の『シャーマンキング』が終わって10年くらい経ってから(原作の劇中詩に曲が付いた)『恐山ル・ヴォワール』を歌ったりして、アンナは仮眠だったんですよ。だから、起こすのはそんなに大変でなかったかもしれません。
――原作の完結版『SHAMAN KING』も改めて読んだんですか?
林原 読みました。主題歌もまた私が歌うことが決まっていたんですね。(原作の)武井(宏之)先生が私を推してくださったみたいで、光栄なことだと思って挑んでみたものの、『Over Soul』(『シャーマンキング』初代オープニングテーマ)のイメージが自分の中で強すぎて。あの曲は作品のテーマをちゃんと担っていて、我ながら良かったと思うんですよね。
――インパクトもメッセージ性もありました。
林原 音響監督の三間(雅文)さんも「新曲作るの? 『Over Soul』でいいんじゃない?」と言ってきたりして、みんな絶対そう思っているなと。結構なプレッシャーの中で原作を読み直したんですけど、最初はすごくあさましい読み方をしちゃって。
――と言うと?
林原 「ここから何かをもらおう。詞に使う言葉を得よう」みたいな。でも、詞は一向にできませんでした。曲を選ぶのも難航したんです。デモは200曲近く集まったらしくて、その中から選ばれた20曲くらいを私は聴かせてもらったんですけど、どこか『Over Soul』を追い掛けているような曲が多くて。
――そういう発注もあったのかもしれませんね。
林原 新作だから『Over Soul』を追わない方法もあって、全然違うタイプも何曲か聴いたんですけど、そうなると少年たちの戦いが見えないというか。カッコ良くて、洗練されていて、何かこう、スンスン行けちゃう感じ。『SHAMAN KING』では、主人公も含めて登場するキャラクターみんなが負けるんです。負けたさらに向こうの話になるので、立ち上がり感みたいなものが欲しいんですけど、令和にふさわしくないド根性的なものを感じるメロディがなくて。いよいよ決まらず、『Over Soul』の生みの親のたかはしごうさんにお願いしました。たかはしさんもすでにデモを何曲か出していたようですけど、ダメ元で「もう1曲」と。それで上げてきてくれたのが今回のメロディで「これでしょう!」と決まりました。
『Over Soul』から自由になったら詞が書けました
――そしたら、詞もスラスラと書けたんですか?
林原 相変わらず浮かばなかった中で、自粛中からトリコになったスライムを楽しんでいました(笑)。洗濯のり、木工用ボンド、粘土と「こういうふうに形が変わるんだ」とグニョグニョやっていて。「神様はこうやって人間を作ったのかな?」なんて考えながら、プッツンプッツンしていたら、ふと「もうアダムはいるから、イブを作ればいいんだ」と。『Over Soul』はもう存在している。新しく作る曲は違う子だと考えたら、詞がブワッと出てきました。
――いきなり?
林原 そういうときの私は怖いですよ。何か神がかっている(笑)。『Over Soul』を越えなきゃと思っていたときには使えなかった言葉が、いきなり自由に使えるようになって、出だしは<越えて行こう君と>になりました(笑)。なぜ私は勝手に言葉にロックを掛けて、自分を縛っていたんだろう? かつて使った言葉でもいい。同じことを言ってもいい。その気づきそのものが、もう『SHAMAN KING』。そう考えたら、あっという間に出来上がりました。
――突き刺さるような言葉が多いですね。<恨みの牙を剥く>とか。
林原 20年ぶりということをすごく考えました。ちょっと話が逸れますけど、私が『(魔法のプリンセス)ミンキーモモ』(第2作)をやったとき、最初のモモは「大人になったら何をする?」というのが夢だったんです。それが10年経って、「大人になることで夢が叶うわけではない」と子どもたちが気づき始めて、その中で夢を叶えようとするのを応援するために生まれたのが、私のモモでした。今回も前の『シャーマンキング』から20年経って、“いい大学に入って、いい就職をして”みたいなかつてのレールは崩れているじゃないですか。大きな会社に入ってもリストラはある。“こうしたら幸せになれる”という、やんわりした方程式が今はなくなっていて。
――コロナが追い打ちをかけました。
林原 一方で、結婚指輪を見せて「幸せになります」と言っていた芸能人の不倫があると、追い掛け方がエゲツなくて。夫婦でラブラブだったときの写真や映像を流しながら「こんな浮気をしてるなんて」とか。不倫が悪いかどうかでなく、家族で解決すればいいわけで、そこまで叩くことなのか? いつの間にか否定することや煽ることで数字を取って、バズって話題にして……という世の中になってしまったじゃないですか。身近なところでも、自分の知らないLINEで自分の悪口を言い合っている人たちがいて、「友だちだと思っていたのに」とか。そんな世の中を生きなきゃいけない子供たちに、少しでも力になる言葉を探しました。
――『Over Soul』もそうでしたけど、アニメ主題歌でありつつ、時代性を取り込んでいるんですね。
林原 20年という時を経て蘇った意味として、昔観ていたファンの人はもちろん、今を生きている子どもたちが希望を持てるように……という願いは込めましたね。
歌い出すと自分でエンジンを制御できません
――ボーカルも気合いが入ってますね。
林原 はい。気合いが溢れました(笑)。
――そういう引き出しはいつでも開けられるわけですか?
林原 そうですね。「今開けて」と言われても開かないけど、スタジオに行くと開きます。前日まではモゾモゾしつつ。
――若い頃に比べて、エンジンをかけるのに時間がかかるようなこともなく?
林原 エンジンはかかります。ただ、切ったあとの疲労が昔と違って。前は歌を録り終わったら、コーヒーを飲んで音のバランスを取って、「いい感じ。では、TDはお任せします」とスタジオを出ると、「飲みに行くか~」くらいのテンションでした。今は結構な時間、ソファーに埋まってます(笑)。「ふーっ……」って感じで、出し切ってポワーッとなってます。
――でも、出すべきエネルギーは出し切ると。
林原 そう。それは性分じゃないかな。技術ではなくて。「まずはこれくらいで様子見して、だんだんエンジンをかけていこう」みたいなこともやるんですけど、音楽が聞こえてきたら、何か全部出ちゃう(笑)。
――まさにイタコのような?
林原 そこは自分では制御できなくて。ディレクションをするたかはしさんが、うまいこと制御してくれます。
人間不在の歌は脳をダイレクトに刺激するので
――カップリング曲で『SHAMAN KING』のエンディングテーマの『#ボクノユビサキ』は、最初から音声合成ソフトふうに歌おうとしていたんですか?
林原 やっぱり20年ということで。自粛期間中にYouTubeをいろいろ観ていたら、音声合成ソフトの歌が本当に多くて、「何で今こんなに?」と。だいぶ前に初音ミクちゃんのライブでウェーイとなっている人たちを見たときは、「実在しないのに、なぜここまで? 日本はおしまいか?」と思っちゃうくらい(笑)、何か怖かったんです。すみません。当時はただ理解できなくてフタをしちゃいましたけど、こんなに広まっているのはなぜなのか、ちゃんと見てみようと思いました。そしたら、すごい文化なんだと、心の底からリスペクトできました。
――どういうところで、そう思ったんですか?
林原 人それぞれ観点は違うと思いますけど、私が感じた魅力としては、たとえば浜崎あゆみさんが失恋の曲を歌うと「私はあゆと一緒だ」みたいになったりするのが、人間が不在な分、ダイレクトに自分に持ってこられる。誰かの経験が自分と重なるのでなく、言葉が響きさえすれば自分自身の経験のような気持ちになれる。あと、あの中毒性のある歌声と、人間のテンポではなかなかない高音と低音の行き来の速さに、アドレナリンが出たりもします。それから、どんなにひどい言葉を使っていても、汚れない美徳のようなものも感じましたね。
――鋭い分析ですね。
林原 うちの高校生の娘にも「これは何がいいの? 何で流行っているの?」と聞いたんです。「わからない。でも、何かいい」と言うんですけど、「何か」ということは、意識してない理由がどこかにあるはず。その「何か」とは何なのか、深掘りしました。そしたら、喜怒哀楽をパチンコ玉で突くように、バーン、うれしい! バーン、悲しい! バーン、怒り! バーン、バーン、バーンと、心より先に脳に何かが行く感じがしたんですね。いろいろなスピードが速い時代に、心ではなく脳にダイレクトな刺激。これも行き過ぎたら疲れて、またヒーリングミュージックとかの時代になるかもしれないけど、今はこの理屈抜きのダイレクトな感じに、みんな興奮しているのかもしれないと思いました。
――現代の象徴のひとつですね。
林原 オープニングはオールドファンに向けて、感謝も込めました。エンディングは今まさに少年マンガを読んでいる真っ只中の中学生の子に向けて書きました。「歌ってみた」とかでやってくれてもいいですね。
見たことのないものを生むのが醍醐味です
――音声合成ソフトふうに歌うこと自体は、ベテラン声優の林原さんとしては、それほど難しくはなかったですか?
林原 楽しめました。できそうだと思っていたんです。山寺(宏一)さんと一緒に飲むと、よくエレベーターの「ドアが閉まります」という声とか、クソ面白くやるんですよ(笑)。私にはできませんけど、そういうのを見ていて、声優が機械ふうに歌ったら、それはそれでカッコイイのかなと。私のことを知らずに、たまたまYouTubeか何かで聴いて、本物の音声合成ソフトだと思ったら面白いかな。「これ人間なの? マジ?」っていう。
――さっき出たように、<今がふんばり時なら覚悟を決めて行こう>とか、この歌い方だからこそ刺さる感じがしました。
林原 そうなんですよね。熱く熱く歌うのもいいんですけど、引き算で効果が上がったりもする。ただ、唯一<今すぐ逃げ帰れ>だけは肉声にしているんです。そこは機械には表現できないので。ずーっと音声合成ソフトのフリをして、加工したっぽい声で歌うのは声優ならではですけど、人の爪あとは残すという。人は人以上でも人以下でもないという気持ちをちょっと込めました。
――<孤独の美徳 ねじれた愛情>からの23のフレーズを超早口で言うところも、この速さのまま録ったんですか?
林原 そう。最初は4行ずつ録って、間を縮めて張り合わせればいいと思ったんですけど、やってみたら、そっちのほうが何か人っぽく聞こえてしまったんです。ヘンに上手すぎて。それだとダメだから、一気に言うしかない。「せーの、ハーッ!」と肺活量を使ってやりました(笑)。
――何テイクぐらい録ったんですか?
林原 5テイクくらいかな。大変でした。ただ言うだけならいいんですけど、時間内にちょうど収めて、最後にヒューンという音に入れ込んでアンナに戻るので。とにかく必死で、「何やっているんだろう、自分?」と思いました(笑)。
――今回もそうですけど、林原さんは『KOIBUMI』での万葉集ラップとか、椎名林檎さんとコラボした虚無的な歌とか、折々で挑戦的な取り組みをしていますよね。
林原 私にとってモノ作りの醍醐味のひとつが、見たことのないものを届けることだと思っているんです。それを「やりたい」というより、そういうことが大事。誰かがやってヒットした何かのような……というところに向かうのでなくて、クリエイト(創造)することかなと。日ごろは声優として、与えられた台本に向き合って、どう演じるかを考えてます。でも、まっさらな状態から何かを作り上げるなら、自分の中から湧いてくるアイデアや、「こんなことをしたら面白い。ビックリしてくれるかな?」みたいなことを、形にしたいかもしれません。
Profile
林原めぐみ(はやしばら・めぐみ)
3月30日生まれ、東京都出身。
1986年に『めぞん一刻』で声優デビュー。代表作は『スレイヤーズ』のリナ=インバース、『エヴァンゲリオン』シリーズの綾波レイ、『ポケットモンスター』のムサシ、『名探偵コナン』の灰原哀など。歌手として、1991年に1stシングル『虹色のSneaker』をリリース。これまでに41枚のシングル、14枚のオリジナルアルバムを発売。歌手デビュー30周年記念の3枚組ベストアルバム『VINTAGE DENIM』が発売中。ラジオ『林原めぐみのTokyo Boogie Night』(TBSラジオ)でパーソナリティ。書籍『林原めぐみのぜんぶキャラから教わった 今を生き抜く力』が発売中。
『Soul salvation』
4月14日発売 1320円(税込)