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日銀保有の国債の含み損はすでに8.8兆円、今後さらに拡大する可能性が高い

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日銀の黒田東彦総裁は3日の衆院予算委員会で、日銀が保有する国債の含み損が2022年12月末時点で約8.8兆円となったと説明した。ただ、保有国債の評価方法として償却原価法を採用しているため、国債の評価損は期間損益には影響しないと述べた。

 日銀は2022年の4~9月期決算で保有国債に8749億円の含み損が生じていたとしていた。しかし、12月20日に日銀は金融政策決定会合で緩和政策の一部を修正。金融市場調節方針の基本的なところは変えずに、長期金利操作の運用のところで、国債買入額を大幅に増額しつつ、長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.50程度に拡大するしたのである。

 長期金利の変動幅を従来の±0.25%程度から±0.50程度に拡大したということは、10年国債の利回りが0.25%から0.50%に跳ね上がることを意味する。それはそうであろう。欧米は物価上昇を受けて、中央銀行は度重なる利上げを行ってきた。日本の消費者物価も2%を超えて上昇していたのであり、日銀は0.25%に無理矢理押さえ付けていたのだから。

 実際に12月20日に10年新発債である369回債の利回りは0.250%から0.460%に跳ね上がった。そして今年1月に入ると日銀による政策修正観測も一部に出て、10年369回債の利回りは1月13日に一時0.545%まで上昇していた。ただし、18日の金融政策決定会合では追加修正はなかったことで、その後の利回り上昇は落ち着いた。

 しかし、このまま収まることは、むしろ考えづらい。欧米の中央銀行は利上げを続けている。しかし、欧米でのインフレについてはピークアウト感も出ており、年内に利上げが停止される可能性が出ている。日本でも企業物価指数はピークアウト感もでてきたが、消費者物価指数は高止まりが継続する可能性も高い。

 それ以前に物価が前年比で4%も上昇しているのに、日銀は異次元緩和を意地でも続けようとしていることで、その結果、国債を大量に購入せざるを得なくなっている。10年債の銘柄によっては日銀の保有率が100%超えというものもある。債券市場は機能回復どころか、さらに機能が失われつつある。

 この日銀の政策は正しいものであるはずはない。

 国際通貨基金(IMF)は1月26日、日銀の金融緩和の修正提案を盛り込んだ声明を公表した。0.5%以下に抑えている長期金利に柔軟性を持たせ、市場の歪(ゆが)みを解消するとともに、インフレが進む事態に備えるよう促した。

 令和国民会議(令和臨調)は1月30日、政府・日銀の共同声明に関する提言を発表し、日銀の金融政策を柔軟化するため、2%の物価目標を長期的な目標に据えることなどを提案した。

 4月9日に任期を迎える黒田総裁の後任もまもなくはっきりするとみられるが、いわゆる意地源緩和からの脱却、正常な金融政策への回帰こそ、次期総裁に求められるミッションとなる。  

 あまりに現在の日銀が無理に無理を重ねてしまったことで、正常化に向きを変えることすらできない状態となってしまっている。それをまず変えなければならない。動けない日銀がヘッジファンドによる恰好の標的ともなってしまっている。

 日銀が無理矢理に長期金利を抑えなければ、市場で形成される長期金利はどのあたりであるのか。大昔の経験と現在の物価水準、欧米の長期金利などからみて3%、4%といったことも考えられなくもない。しかし、とりあえず1%台でいったん落ち着くものと予想される。それでも足下の0.5%から1%台の利回り上昇となれば、日銀保有の国債の損失はさらに膨らむことが予想されるのである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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