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朝ドラ『ブギウギ』初回は、見る側をどのように引きつけたのか?

碓井広義メディア文化評論家
趣里さんが演じるヒロイン・福来スズ子(番組サイトより)

ドラマの「始まり」

ドラマにとって、物語全体の起承転結の「起」、つまり「始まり」はとても大事です。

それはワンクール(3ヶ月)の連ドラも、半年間続く朝ドラも変わりません。

何より、見る側を引きつける、吸いつけること。しかも可能な限り早く、です。

話が始まったら、数分でそのドラマの世界に入り込んでもらうことを目指さなくてはなりません。

その意味で、2日(月)に放送された、『ブギウギ』の初回は見事でした。

「ヒロイン像」の提示

普通なら、ヒロインが生まれたところや、幼年時代からスタートしたかもしれません。

しかし、このドラマでは、冒頭で敗戦から間もない東京の「焼け野原」を見せました。モノクロのリアルな記録映像です。

さらにガレキで埋まった街で動きだした人々、子どもたちの表情と続きます。

そこに、高瀬耕造アナウンサーのナレーション。

「戦後の傷あとが生々しく、先の見えない世の中に、多くの日本人が不安を抱えていた頃。人々を励まし、楽しませ、生きていく活力を与えた、一人の女性がいました」

昭和23年(1948)の東京。「日劇」ならぬ「日帝」の建物の中に、その女性がいます。

赤ちゃんにキスをしているのは、歌手・福来スズ子(趣里)。

そのかたわらにいて、「あなたの下手な歌を、お客さんが待ってるでしょ?」と声をかけたのは、淡谷のり子がモデルの歌手・茨田りつ子(菊地凛子)です。

すると、そこに一人の男性が顔を出しました。服部良一を思わせる、作曲家の羽鳥善一(草なぎ剛)です。

スズ子、りつ子、そして羽鳥。後の「東京編」での主要メンバー3人を、この段階で揃ってお披露目したことになります。

羽鳥に「さあ、行こう! トゥリー、トゥー、ワン、ゼロ!」と促されたスズ子が、赤ちゃんに言います。

「お母ちゃん、お客さんとズキズキ、ワクワクしてくるわ!」

ステージに飛び出したスズ子。その躍動感が半端じゃない。

趣里さんが踊りながら歌うのは、もちろん「東京ブギウギ」です。

先ほど、赤ちゃんに言い残した「ズキズキ、ワクワク」は、その歌詞の一部。

このドラマが、「歌手・笠置シヅ子」をモデルにした物語であることを高らかに宣言したのです。

しかも、ここまでにかかった時間はわずか3分弱。スピーディかつ鮮やかな導入で、「ヒロイン像」がしっかりと提示されました。

「笑いと涙の物語」のスタート

タイトルの後、時代と舞台は「大正15年(1926)の大阪」へ。いわばドラマの実質的な始まりです。

両親をはじめ、ヒロインを取り巻く人々がテンポよく紹介されていきました。

驚いたのは、少女時代のスズ子=花田鈴子役の澤井梨丘(さわい りおか)さん。趣里さんと似ているだけでなく、その演技が達者なことです。

実は開始前、少女時代を演じるのは、「毎田暖乃(まいだ のの)さんかもしれないな」と思っていました。

なぜなら、『ブギウギ』を作っているのは、NHK大阪放送局。

制作陣には、暖乃さんが活躍したNHK大阪の朝ドラ『おちょやん』、同じく夜ドラ『あなたのブツが、ここに』の主要スタッフが入っているからです。

しかし、そんな予想が吹き飛ぶほど、初回から梨丘さんは鈴子そのものでした。大阪は、天才子役の宝庫か⁉

そして銭湯「はな湯」を営む、父・梅吉(柳葉敏郎)と母・ツヤ(水川あさみ)。味のある夫婦です。

通称・アホのおっちゃん(岡部たかし、『あなたのブツ』でも好演)や、易者(なだぎ武)といった、クセの強い常連客たちも登場しました。

当面は続くことになる「大阪編」。高瀬アナがナレーションで言っていた「笑いと涙の物語」が、開始早々から期待できそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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