国勢調査の同性カップル集計、外国人同性パートナーの在留資格、LGBT国会議員連盟で議論
超党派でLGBTの課題について考える「LGBT議員連盟」の総会が8日、衆議院議員会館で行われた。
LGBT関連団体から、10月に予定されている国勢調査における同性パートナーの扱いや、国際同性カップルの在留資格、教育・スポーツや雇用労働分野におけるLGBTに関する取り組みの要望などが議論された。
国勢調査で同性パートナーを配偶者として集計して
今年10月に、5年に1度の「国勢調査」が行われる。日本に住むすべての人と世帯を対象とし、その”実態”の把握を目的としているが、同性パートナーがお互いを「配偶者」と記入した場合、おじやおば、いとこなどの「他の親族」として集計されてしまう。
この点について、弁護士の永野靖さんは「私たちの要望はいたってシンプルで、同性カップルの数を集計し、公表してほしいという点につきます」と政府に要望した。
「同性カップルを『他の親族』としてしまうと、『パートナー関係』という実態とは随分ずれた集計になってしまいます。1920年から、異性の場合は事実婚のカップルでも配偶者として集計し公表されます。それと平等に、同じ扱いをしてほしいです」
これに対し、総務省統計局の担当者は「国勢調査は法律に基づいた調査を設計しているため、法令から離れた設定で集計することはできません」と回答。
異性間であれば、婚姻届を出していない事実婚であっても法制度上は”婚姻関係”として整理されている。一方で、同性カップルはそもそも婚姻が認められていない。ここに「大きな線、法律に基づく(扱いの)違いが出てきます」と話す。
「(同性カップルでも)配偶者の欄を記入はできますが、その後の統計処理については、日本の法律に基づいた区分となります」そのため、配偶者として集計はできず「他の親族」としてカウントされるという。
「もし同性婚や同性パートナーシップに関する法制度が整備されたら、国勢調査としても捉えていくという順番になると考えます」
社民党・福島みずほ議員は、「異性間の事実婚と同性間の事実婚は、(実態に)変わりはないはずです。実態を把握するのが国勢調査であるなら、一緒に暮らしている実態に照らし合わせて調査が実施されるべきです」
さらに、共産党の清水ただし議員も「国勢調査の目的からすると、できるだけ多くの国民から情報をもらうということが重要でしょう。自分たちの存在が除外されていると思う人たちがいる、その人たちの思いを排除していないか」と発言した。
LGBT法連合会から指摘のあった「元データを公表する可能性」について、立憲民主党の西村智奈美議員が質問したところ、担当者は「元データをそのまま集計して発表ということはありませんが、(同性カップルが配偶者と選択した)"記入状況"については検討の余地がある」と回答。
国勢調査の集計としては「他の親族」という区分になるが、事務処理上、同性カップルで配偶者と”記入”した人がどれくらいいるかという状況を追うことはできる可能性について示唆された。
国際同性カップルに「配偶者」の在留資格を
次に国際同性カップルの在留資格について、弁護士の高橋済さんより要望があった。
現在、日本人と外国人の異性カップルの場合は結婚をすることで、外国人のパートナーは「日本人の配偶者等」という在留資格を取得できる。しかし、同性カップルの場合は結婚ができないため、たとえ海外で同性婚をしたとしても日本では婚姻関係とは認められず、配偶者ビザを得ることはできない。
そのため、外国人パートナーは就労ビザなどで日本に滞在することになるが、もし病気などで職を失ってしまった場合、日本にとどまることができず帰国せざるを得ない状況になっている。
さらに、高橋さんは「外国人同士の同性カップルの場合、両方の国で同性婚が認められている場合は、日本で『特定活動』という在留資格を取得することができます」これは、一方が日本人である場合は保護されず「まさに不均衡な状況に陥っている」と話す。
「一番つらいときに一緒にいるのがパートナーだと思います。病気や、または昨今だと新型コロナによって解雇されてしまったり、何かあったときのために家族として一緒に暮らせるようにしてほしいと思います」
2018年12月には、河野太郎外務大臣がこの件について、外務省より法務省に問題提起をし、前向きに検討すると明らかにしている。既に2年が経とうとしているが、改善は見られない。
高橋さんは「同性婚が認められているかいないかにかかわらず、運用で在留資格を与えることが可能です。外国人と日本人のカップルが、ただ日本で一緒に暮らすということを認めていただくよう、ぜひ前向きに進めていただきたい」と要望した。
外務省の担当者も「河野大臣が、双方の国で婚姻が成立していない場合であっても、在留資格を認めることを検討してほしいということを法務省にお願いしています。その後は一旦難しいという反応でしたが、なんとかお願いできないかと申し出ている」と述べた。
これに対して、法務省出入国在留管理庁の担当者は、「現状の法律では、(海外で同性婚をした、外国人同士の同性カップルの場合)特定活動ということになりますが、日本では同性婚ができないため、配偶者にはあてはまりません。要望については、国会からも言われておりどのように対応できるか検討したい」と回答した。
ただ、外国人同士の同性カップルでも「片方の国でしか同性婚が認められていない場合は、日本でも在留資格を認めていません」とし、その理由は一方で婚姻関係を確認できても、もう一方で婚姻関係の継続をどのように確認できるか、という点を在留管理の立場からも考えたいと思います」
細野豪志議員の「なぜ双方の国で認められていなければいけないのか、一国で認められていれば、離婚などの手続きもわかるため問題ないのではないか」という質問に対して、担当者は「例えば、日本で結婚していて、本国で別の相手と結婚していたというケースもあるため、異性間であっても双方の国で婚姻が成立しているということが基本です」と回答。
国勢調査の件と同じく、「日本でも同性パートナーの法制度上の措置があれば在留資格も可能となってくるかと思います」と話した。
事実として婚姻関係を確認するために補完できるものとして「同性パートナーシップ制度」は該当するのかという質問に対しては、「考慮しないことではないと思います」としつつも、本国での独身の証明などを補完するものとして扱えるかは不明とした。
これについては弁護士の高橋さんは、「各国大使館は独身証明書を発行することができます。本国でどうなっているかわからないという点はあたらないのではないでしょうか」と話す。
また、西村議員から、両方の国で同性婚が認められていて、日本でも「特定活動」の在留資格がおりた場合と、片方の国でしか認められておらず在留資格がおりなかったケースもあることを指摘し「(在留資格が)降りたケースと降りなかったケースがそれぞれどれくらいあるのか」と質問したところ、「申請別の案件という統計は取っていないが、あまり多い数ではないと思います」と回答がされた。
「仮に日本で同性婚が法制化されたら、今のような問題はなくなるということを確認させてほしい」という質問に対しては「法律の内容によりますが、単に配偶者になれるということであれば、入管上もそうなると思います」と答えた。
職場におけるパワハラ防止のためのガイドラインを
LGBT関連の法整備を目指す全国組織「LGBT法連合会」からは、教育・スポーツや、雇用労働、公共サービス、医療福祉などの分野における、来年度のLGBTに関する予算・政策についての要望が伝えられた。
今年6月に施行された「パワハラ防止法」では、企業だけでなく地方自治体や各教育委員会もその対象に含まれている。ハラスメントの行為者や被害者などの実態把握を調査、結果を公表、教育委員会から具体的な施策を提示することを促すよう要望した。
これに対し文科省の担当者は、パワハラ防止法にSOGIハラやアウティングが含まれていることについて触れ、「文科省からも、各教育委員会に対して、この点について明示するよう通知を出しました。通知をふまえて、全国で研修会の場を設け、周知を徹底したいと思います」と回答した。
雇用労働分野においても、厚労省が実施した「職場におけるダイバーシティ推進事業」の調査を踏まえて、「国などにルールを示して欲しいという割合が一番多かった」ことに触れ、ガイドラインの策定を要望した。
厚労省の担当者は「せっかく調査を実施し事例集をまとめたので周知を徹底したいと思います。検討段階ですが、好事例について参考になるわかりやすいツールなども作成しようと考えています」と話した。
また、労災申請の基準となる「心理的負荷評価表」がパワハラ防止法の施行を受けて改訂されたが、”アウティング”が明記されなかったことについて「アウティングは殴る蹴るなどのわかりやすい”パワハラ”と違う基準となるため、この項目を新設してほしい」と要望した。
これについて厚労省担当者は、パワハラ防止法施行に合わせて6月より心理的負荷評価表の項目を追加。「あくまでも認定基準の評価表は判断の具体例を示している」とし、SOGIハラやアウティングも「心理的評価表にてらしあわせて評価する」とした。
西村議員が「アウティングはパワハラと性質が少し異なるため、厳密には例示を特記する必要があるのでは」という指摘に対しては、「アウティングも、(パワハラ防止法の)指針の中で、典型的な類型のひとつ『個の侵害』として示されています。実際におきたアウティングは、認定基準上もパワハラとして評価することになる」とした。
この他、6月の要望においてもLGBT法連合会が求めていた、新型コロナウイルス感染拡大に関連した情報公表に在り方ついての要望に対しては、厚労省の担当者から、情報公表に関する考え方を7月に出したことが報告され、「個人が特定されないよう自治体に通達、周知するように努めたい」と述べた。
議連が設立して5年。法制化はまだか
LGBT法連合会の要望に対して、パワハラ防止法施行などの背景を踏まえた各領域における対応も広がりつつある。一方で、国勢調査や在留資格など、同性婚が法制化されていなくても、運用上対応できるのではという指摘に対して、行政からは「まず法制化を」という回答が目立った。
細野議員は「日本国内にLGBTの法律がないというのが物事を進めにくい。議連ができて随分時間がたっていますが、超党派として法律をつくることを前向きに検討してほしい」と議連に対して要望した。
LGBT議連会長で自民党・馳浩議員は「数年前に野党からは『LGBT差別解消法』が提出され、自民党も『LGBT理解増進法』の条文が確定しているわけではないですが、まとめています。両方が突っ立ったままだと永遠に成立しません。国会で両方の案を議論した上で採決して決めるというやり方もあれば、折衷案もある。
質問主意書や国会議事録を積み重ねるということを議員の方々に重ねていただきたいと思います。また、今回のようにコミュニケーションを続けなければ、差別や実態の声や思いは伝わっていきません。勉強会という形で論点整理は折に触れてやっていきたい」と述べた。