Yahoo!ニュース

ハリルジャパン、カンボジアに勝利も・・・。ストライカーは生かされているのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
二人のFWがツートップを組んだ時間帯は悪くなかったが・・・。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

9月3日、ヴァイド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、W杯2次予選でカンボジアを相手に3-0で完勝している。敵に好機を作らせなかったものの、相手のレベルは日本の大学生や社会人チームと同程度で、浮かれてはいられない。ちなみに、シンガポールはカンボジアに4-0と勝利している。

肝心なのは、「彼らが世界の強豪と戦ったら?」とイメージを広げることだろう。

その点、30本以上のシュートで得点が3で大丈夫か?

その不安が出てくるのは自然だろう。

しかし、FWは正しく使われていたのか?

例えばカンボジア戦の後半、日本は2トップに変更することで攻勢を強めた時間帯があった。15分間で2得点。それまでの岡崎は終始、3人を相手にせざるを得なかったが、武藤が近い距離でプレーすることによって的確に打撃を与えていた。ところが、ハリルホジッチはすぐに武藤嘉徳を宇佐美貴史に替え、1トップに戻すことで勢いは止まってしまう。

岡崎も、武藤も、欧州で今シーズン、すでに得点を記録し、決して調子も悪くない。とりわけ、岡崎はプレミアリーグ初挑戦ながら存在を顕示。彼を中心にしたチーム作りすら想定すべきで、もしゴールをできないとすれば―。

指揮官を含めた、チームとしてのFWの捉え方に何らかのズレがあるとしか思えない。

ストライカーは生かされていたか?

「得点という仕事ができる選手を探す」

ハリルホジッチ監督はそう宣言して東アジアカップに挑んだが、大会最多2得点の武藤雄樹は今回のW杯2次予選、カンボジア、アフガニスタン戦は不選出だった。一方で、決定的なシーンを外し続けていた永井謙佑、ほとんど攻撃に関与できなかった興梠慎三が選出された。なんたる矛盾だろうか。

もっとも、監督はその判断において理不尽さを含まざるを得ない。

例えば、欧州王者スペインの指揮官であるビセンテ・デルボスケは2014-15シーズン、リーガのスペイン人得点王であるFW、アリツ・アドゥリスを代表に招集していない。アドゥリスは今シーズンのスペインスーパーカップではバルサを相手にハットトリックを記録。勝利の立役者になった旬の選手でもあるが、世代交代を進めるチームにおいて、34才という年齢が障害になっている。

「アドゥリスの長所はよく知っているが、代表のあるべき戦い方に照らし合わせた場合、今回は入らなかった」

デルボスケの評価は不条理にも思えるが、リーダーとして集団を一つに束ねて戦う場合、その判断は利己的にならざるを得ない。戦術的志向の中、そこに噛み合う選手を選ぶときに合理と非合理を同時に含んでいる。その決断は、尊重されるべきだろう。

しかし度が過ぎれば、集団は求心力を失う。

不条理が正義になってはならないのだ。

「大久保は興梠よりも点を取っているが、彼はすでに年を取っている。我々の目的はワールドカップであり、そこを見据えている。東アジアカップには豊田も大久保も選ぶ可能性はあったが、20歳のFW(浅野拓磨)を連れて行ったのは、3,4年後に楽しみな選手になると思ったからだ。(点を取れる)効果的なFWを見つけるのが急務。若い世代にJリーグで出場機会を与えてほしい」

ハリルホジッチはそう苦言を呈しているが、どこか論理性を欠いている。Jリーグでレギュラーを取り切っていない、リーグ4得点のFWの3,4年後をどこまで信じろと言うのか?レギュラーポジションはつかみとるもので、与えられるものでもない。 

そもそも、永井や興梠よりもゴールをしているFWは一人や二人ではない。大久保嘉人(フロンターレ川崎)は2年連続得点王であり、今シーズンも15得点とランキングトップを争っている。豊田陽平(サガン鳥栖)も過去4シーズンの合計ではJリーグ最多得点を記録し、今シーズンも史上二人目の4年連続15得点を決め、宇佐美貴史、大久保と得点王の座を争う。二人に追随、匹敵するのが佐藤寿人(サンフレッチェ広島)で、今季も11得点とJリーグ歴代最多得点記録更新は時間の問題だろう。

もちろん、代表監督が世代交代を掲げるのは通例である。スペイン代表のデルボスケ監督も推進しているように、どの国でも似た現象は起きている。しかし年齢を理由にするにしろ、3人も結果を残している選手がメンバーから外され、「FW不在」を指摘されるのは筋違いだろう。「人材がいない」という意見は不適切で、「指揮官が型にはめた戦術に合う選手がいない」という狭い論理ではないのか(事実、Jリーグで興梠と同じ8得点を記録し、ACLでは4得点と日本人最多得点の工藤壮人はロンドン世代でより若いが、候補にも名前が挙がっていない)。

カンボジア戦、ハリルホジッチは2トップを解体し、攻撃の流れをいたずらに悪化させた。FW出身とは思えない決断だった。チームとしてFWを生かせていない、それが現実だった。右サイドに入った本田圭佑のクロスは角度が悪く、タイミングも完全に読まれていたし、長友佑都のクロスも冴えなかった。結局は、誰も彼もが中央に寄ってきて渋滞を起こし、FWのスペースを消していた。ハリルホジッチはこの奇っ怪な現象を変えられていない。論ずるべきは、FWの得点力不足よりも、戦い方全体の「怪」ではないだろうか。ブンデスリーガで2年連続二桁得点の岡崎を筆頭に、FWに関しては日本代表は過去最高レベルの人材がいるのだが・・・。

まずはハリルホジッチが、選手をピースのようにはめる前に日本人の特性をつかむことだろう。ボスニア系フランス人監督は、自分が生きてきた世界で構築した理論を用い、自信を持って選手を選んでいるに違いない。しかし、日本人選手には日本人選手の事情や傾向がある。彼が成功を収めてきたコートジボアールやアルジェリアの選手と比べて、日本人は爆発力も奔放さもないが、俊敏性や緻密さという違う特性を持っている。それを踏まえず、偏った選考や戦い方を続けるようでは、人材は埋もれ、代表は弱体化してしまう。

イタリアのルカ・トーニは38才にして昨季セリエA得点王に輝いたように、年齢で選手の才能を区切るのも偏見だろう。成長曲線は様々である。

「30才になってからの方が、簡単にゴールを取れるようになった。昔は突っ込むだけで下手くそだったなと」(大久保嘉人)

「根拠はないですが、33才くらいにピークは来る気がしますね。若い頃は、余計な力が入っていました」(豊田陽平)

こうした発言に顕著に見られるように、日本人ストライカーは老成するケースが多い。Jリーグ歴代最多得点記録を持つ中山雅史氏も、実は得点王になったのは30代になってからだった。

「フットボールは選手ありき。彼らがピッチでゲームを作り出すのだから」

かつてイングランド代表やバルセロナを率いたボビー・ロブソンは監督としての哲学を語った。

個々の選手の長所を一つにし、大きな力を生み出す。

それが監督の仕事だろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事