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E−1初戦は2-1で韓国に勝利!なでしこジャパンが苦しみながら掴んだもの

松原渓スポーツジャーナリスト
決勝ゴールを決めた長野風花(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 激闘を制して、ライバルに競り勝った。

 7月19日、E-1選手権が開幕。茨城県のカシマスタジアムで行われた韓国との初戦で、なでしこジャパンが2-1で勝利を収めた。

 韓国には2015年から負けていない。だが、そこまで実力差があるわけではなく、毎回、僅差の攻防を繰り広げてきた手強い相手。アジアカップでは強豪オーストラリアを下してW杯出場権を掴んだ勝負強さもある。

 前回、アジアカップのグループステージで対戦した時は1-1のドロー。FW植木理子のゴールで開始早々に日本が先制して優位に試合を進めたが、終盤にセットプレーから失点した。

 だが、この試合では日本が劣勢を強いられる。相手陣内でボールを奪いたい日本に対し、韓国がロングボールを多用してきたからだ。

 とはいえ、それも事前のスカウティングから想定内ではあったようだ。だからこそ、蹴られる前に奪って押し込みたいところだったが、結果的に韓国ペースにはまってしまう。

 シンプルなクロスやロングボールに対しては、センターバックのDF高橋はなとDF乗松瑠華、サイドバックのDF清水梨紗とDF宝田沙織の4バックとGK田中桃子を中心に跳ね返した。だが、そのセカンドボールを奪われ、押し込まれる展開が続いた。

 それでも、日本は少ないチャンスで質の高い決定機を作り出す。

 前半33分。DF清水梨紗、MF成宮唯、MF猶本光のトライアングルで右サイドを崩し、成宮のマイナスのパスに植木が飛び込む。韓国DFがその動きに釣られ、背後から走り込んだ宮澤が冷静に決めた。

宮澤ひなた
宮澤ひなた写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 後半、池田太監督はトップ下に新体制では初招集となったMF杉田亜未を投入。その杉田がDF宝田沙織の縦パスに抜け出してカウンターの起点となり、植木の決定機を創出するなど、流れを押し戻す。

 しかし、ロングボールでラインを押し上げようとする韓国の流れを断ち切ることは容易ではなく、59分には、それまでほとんど存在感を示せなかったMFチ・ソヨンがエリア内で受けて自ら持ち込み、ゴール。韓国の司令塔がワンプレーで違いを見せ、試合は振り出しに戻った。

 一方、日本もその6分後に再び鮮やかな崩しを見せる。

 DF清水梨紗のロングパスから、植木がドリブル突破。3人をかわしてマイナスに折り返すと、走り込んだMF長野風花が右足を振り抜く。

「理子が必ず突破してくれると信じていた」というホットラインでゴールネットを揺らし、長野は渾身のガッツポーズを決めた。

 だが、韓国の流れは変わらない。66分にはゴール前でチ・ソヨンにセカンドボールを奪われ、決定的なシュートを許す。ここはGK田中のファインセーブでピンチを逃れた。

 終盤には180cmのFWパク・ウンソンを投入してパワープレーを徹底した韓国。日本も「フィジカル面(で対抗すること)も考えての交代」(池田監督)で、スピードのあるFW千葉玲海菜とDF清家貴子を前線に投入する。攻撃的な采配で攻撃の時間を増やし、リードを守り切った。

【海外組不在の中で】

 終わってみれば、シュート数は韓国の12本に対して日本が4本。その数字からも分かるように、内容面では課題の残る試合だった。

 相手のロングボール攻撃を受ける形になり、ボール支配率が下がる流れを、最後まで大きく変えることはできなかった。

 来夏のW杯で、日本が前から奪いにいけば、海外勢がロングボールを多用してくることは容易に想像できる。奪えなければ、消耗するだけだ。

 その状況で、どのように主導権を握るのか。DF清水梨紗の口調には迷いがなかった。

「(韓国戦で)相手の3バックに対して、日本のワントップとサイドハーフを前に出して、(ロングボールを)蹴らせない守備をオプションとして練習してきました。それがうまく噛み合った部分はありましたけど、後半のように相手が何も考えずにとりあえず、という感じで前に蹴ってきた時に、それでも自分たちが前からいくのか、それとも少し引いてブロックを作るのか、という判断には課題が残りました」

清水がキャプテンマークを巻いた
清水がキャプテンマークを巻いた写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 アグレッシブな守備はこのチームコンセプトでもあるが、相手によって柔軟に戦い方を変えていくことも、今大会のテーマになっている。

 頭上をボールが越えていく中で難しい舵取りを強いられた長野は、「競った後のセカンドボールは、(守備陣形が)コンパクトでないと拾えないので。全体がもっといい距離感で関われるようにしたいと思います」と、全体のバランスに目を向けた。

 一方、最終ラインで屈強な韓国FWたちと空中戦のバトルを繰り広げた高橋は、「球際の守備」を課題に挙げている。

「(チ・ソヨン選手が)PA内に入ったシーンで前を向かせない守備をすべきでしたし、もう2、3歩寄せれば体に当ててブロックできたと思うので。そこ(が課題)だと思います」

 そして、池田監督は「試合から遠ざかっていた選手もいますが、イージーなミスが多くてしっかり繋げませんでした」と、奪った後のパスの精度の低さを指摘した。

 来夏のW杯に向けて多くの課題を手にした一戦となったが、海外組の主軸数名が不在の中で難しい試合を勝ちきれたことは自信になる。

 DF熊谷紗希、DF南萌華の2枚柱に加え、劣勢の試合で流れを変えてきたFW岩渕真奈、MF長谷川唯らの不在の影響は感じられた。だが、このような苦しい試合展開の中で、国際経験の浅い選手たちが経験を積むことができた。それはチームの底上げにつながる。

 攻撃では2点に絡んだ植木が存在感を示し、代表に定着しつつある宮澤と長野が結果を残した。決定的なピンチを止めたGK田中の評価も上がっただろう。

 6月の欧州遠征から、サイドを崩す形からの得点パターンが増えている。それは、「状況に応じて、必ずこのスペースに誰かが入る」といった共通認識を高めてきた成果でもある。その形を多く作り出すためにも、やはり「奪い方」がキーになりそうだ。

 日本は中3日で23日(土)にチャイニーズ・タイペイ戦、26日(火)に中国と対戦する。チャイニーズ・タイペイはFIFAランキング40位で、同13位の日本とは力の差がある。

「ボールを握る時間が多くなる中で、得点(数)が大事になりますし、誰が試合に出るかわかりませんが、チーム全体でしっかり準備していきたいと思います」(池田監督)

 この試合で、DF林香奈絵やMF中嶋淑乃、DF高平美憂やFW井上綾香らが代表初お披露目となる可能性がある。WEリーグで活躍する選手たちの輝きは見られるだろうか。

 試合は7月23日、カシマスタジアムで15:30キックオフ。フジテレビで生中継される。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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