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「一発屋芸人」はなぜ生まれるのか?――「ラッスンゴレライ」が大ヒットする理由

松谷創一郎ジャーナリスト
2000年以降・瞬間的に大ブレイクした芸人のポジショニングマップ

「ラッスンゴレライ」とはなにか?

 今年に入って「ラッスンゴレライ」が、世の中をザワザワさせています。これは8.6秒バズーカーという若手芸人のネタのこと。彼らの場合は、手拍子でリズムをとり交互に歌いながらネタを披露します。年末年始のお笑い番組で注目され、若いひとたちを中心に一気に人気となりました。デビューからまだ10ヶ月の新人コンビですが、来月には早くもDVDの発売も決定しました。まだこのネタをご存知ない方は、以下の公式動画を観ればその内容を把握できるでしょう。

 これを観て連想するのは、オリエンタルラジオ「武勇伝」や藤崎マーケット「ラララライ体操」でしょう。この両グループが、8.6秒バズーカーの前で「ラッスンゴレライ」を見事にカバーしたことも先日話題となりました。

 最近は、このように瞬間的にブレイクする芸人が目立ちます。年に一組は必ず現れるような印象です。たとえば昨年は、「ダメよ~ダメダメ!」の日本エレキテル連合がそうした存在でした。こうしてブレイクした芸人のネタが、年末の新語・流行語大賞にも入賞するケースも増えています。

 一方で、そうした大ブレイクを果たした芸人は、「一発屋」などと呼ばれたりもします。たしかに、ブレイクから短期間で人気が収束していくケースが目立ちます。当事者も、ブレイク最中にもかかわらず「一発屋」という見られ方について言及することも珍しくありません。

 それにしても、こうした現象はどうして生じてしまうのでしょうか。近年のお笑いの流れを振り返りながら、考えてみたいと思います。

「一発屋芸人」の系譜

 まず、2000年以降に瞬間的に大ブレイクした芸人の一覧を確認してみましょう。

筆者作成。
筆者作成。

 90年代後半、フジテレビの『ボキャブラ天国』の終了とともにお笑いブームは一段落しますが、それから少し時間を置いた2003年に始まったのが、日本テレビの『エンタの神様』でした。この番組を起点とし、『あらびき団』(TBS)や『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)なども始まり、現在も活躍するさまざまなお笑い芸人が輩出されました。『あらびき団』と『爆笑レッドカーペット』では、一組に与えられる時間が極めて短いこともあり、インパクト重視の一発芸的なものが目立ちました。

 2010年にこの3番組は相次いで終了しますが、お笑いブームは必ずしも収束したとは言えません。その後もスギちゃんや日本エレキテル連合、そして今年は8.6秒バズーカーがブレイクしました。

 こうした「一発屋芸人」と呼ばれるひとたちの特徴は、やはり短時間で強いインパクトを与えるという点にあります。その要素を分けると、主にキャラクターと音楽ネタとなります。

 キャラクター要素とは、芸人本人のこともあれば、そのネタにおいて芸人が演じる役のケースもあります。たとえば前者では、上下デニム姿のスギちゃんや中世ヨーロッパ貴族の出で立ちの髭男爵、海パン一丁の小島よしおなどがそうでしょう。後者であれば、日本エレキテル連合のラブドールの朱美ちゃんとおじさんの細貝さんというキャラがそれに当たります。たしかレイザーラモンHGもコントのキャラクターでしたよね。

 一方ネタ要素ですが、そこで定期的にヒットするのは音楽ネタです。「ラッスンゴレライ」もリズムネタですが、遡ればテツandトモの「なんでだろう~」や波田陽区のギター侍、オリエンタルラジオ「武勇伝」などもそうでした。また、レギュラーの「あるある探検隊」や鳥居みゆきの「ヒットエンドラーン!」のように、ネタに音楽的な要素を含むものもあります。

 こうした「一発屋芸人」の系譜をたどると、キャラクター要素の強い芸人と音楽ネタ要素の強い芸人に分かれることが見えてきます。この二つの軸を基準にして各芸人を分類すると以下のような図となります。

筆者作成。
筆者作成。

 そこから見えてくるのは、キャラクター性の強さと音楽性の強さはあまり両立しないということです。キャラクター性の強いほうが、その印象も強い分「一発屋」的な雰囲気を漂わせています。つまり、過度なキャラ性はなかなかそこから抜け出せなくなるという点で、両刃の剣でもあるということです。事実、大ブレイクはしていないにもかかわらず、何本ものレギュラー番組を持つ芸人はたくさんいます。その多くは、キャラクターを売りにするのではなく、話芸を売りにするからこそ安定的に活躍できているのだと思います。

 逆にオリエンタルラジオのようにキャラを売りにしなかった結果、(リズムネタは飽きられたものの)その後徐々に盛り返して露出を増やしているケースもあります。もちろんそれは、本人たちのポテンシャルが高かったからですが、キャラで勝負をしなかったからだとも言えます。

 それらを踏まえれば、8.6秒バズーカーもキャラ自体がそれほど強くはないので、たとえ「ラッスンゴレライ」が短期間で消費され尽くしても再浮上しやすいタイプと言えるでしょう。

「ネタ的コミュニケーション」

 現在のお笑い芸人のブレイクの流れには、ひとつの典型があります。まず、年末年始のお笑い特番に出演した芸人が、Twitterなどのソーシャルメディアを介されて注目されます。次に、YouTubeにアップロードされている動画がTwitterなどでさらに拡散されます。こうした人気の拡大を受けてニュースサイトやテレビの情報番組が取り上げ、その“お墨付き”によってさらに認知が拡大します。そしてテレビへの露出が増える、というサイクルです。

筆者作成。
筆者作成。

 2010年にお笑い番組が相次いで終了したにも関わらず、お笑いブームが収束せずに毎年新たな「一発屋」的存在が登場するのは、YouTubeを芸人や所属プロダクションが積極的に活用しているという要因も強いです。

 以前のように非合法にアップロードされたテレビ番組ではなく、日本エレキテル連合や8.6秒バズーカーはYouTubeに公式サイトを持っており、そこでネタを観ることができます。公式の「ラッスンゴレライ」は、既に約1400万回も視聴されているほどです。もちろんこうした動画の多くは、2010年頃から普及したスマートフォンで視聴されているのは言うまでもありません。テレビのお笑い番組の役割をYouTubeとスマートフォンが代替しているわけです。

 また、「ラッスンゴレライ」が特徴的なのは、ファンがネタをカバーした動画をYouTubeにアップロードして人気が拡がったことです。たとえば、一昨年はK-POP歌手・PSYの「カンナム・スタイル」を「踊ってみた動画」が、昨年は『アナと雪の女王』の「歌ってみた動画」が、日本のみならず全世界的に大ブレイクしました。親しみやすいダンスや耳に残る楽曲(フックソング)にファンが参加することで、伝染的(ヴァイラル)に拡がっていったのです。

 受け手が参加することによって、そのコミュニケーションそのものがコンテンツとして拡がっていく例は、ネット時代になって顕著に見られるようになりました。たとえばニコニコ動画を中心とした初音ミク、『恋空』などのケータイ小説、あるいはネットゲームなどもそうでしょう。最近の例では、渋谷ハロウィンが写真を撮り合ってTwitterやインスタグラムなどのソーシャルメディアにアップすることが主目的となっていたことが記憶に新しいです。

 社会学者の鈴木謙介は、そのようになにかを介して繋がり、その繋がり自体が主目的となる社会状況を「ネタ的コミュニケーション」と呼びました(『わたしたち消費――カーニヴァル化する社会の巨大ビジネス』2007年)。YouTubeやスマートフォンは、それをさらに後押ししたわけです。

 「ラッスンゴレライ」も、親しみやすいダンスとフックソングの両者を兼ね備え、YouTubeで視聴・投稿されて人気が拡大していきました。それは非常に現代的な現象だと言えるでしょう。多くのひとが8.6秒バズーカーというコンビ名よりも「ラッスンゴレライ」を記憶しているように、それは参加されて真価を発揮したのです。たとえば小学生や高校生などによって以下のような動画が投稿され、非常に多く視聴されています。

 もちろん、こうしたファン同士の高まりだけでなく、ニュースサイトや情報番組の“お墨付き”も依然として重要です。多くのひとに認知されるときに、Yahoo!ニュースのトップページやフジテレビの『めざましテレビ』は、とても強い力を発揮します。「ラッスンゴレライ」も、『めざましテレビ』は幾度も取り上げるなどして積極的に注目してきました。言い方を変えれば、Yahoo!ニュースと『めざましテレビ』という増幅メディアに取り上げられれば、かなりの確率で大ブレイクは約束されたも同然となります。

 YouTube(動画サイト)、Twitter(ソーシャルメディア)、スマートフォン――お笑いに限らず、芸能の世界で大ブレイクするためにはこの3者をいかに攻略するかがとても重要になっているのです。

お笑い芸人のこれから

 お笑いに限らず芸能の世界においては、「一発屋」的な現象がさまざまな界隈で見られてきました。人気商売なので仕方ないことかもしれませんが、お笑いに関して言えばその消費のスピードが年々速くなっている印象を受けます。その理由はさほど複雑なものではありません。これまで見てきたとおり、テレビだけでなくYouTubeなどでそのネタにアクセスし、同時に視聴者同士でそのネタを投稿することもあって、情報の消費スピードが速くなっているのです。もちろんこれはお笑いに限った話ではありません。

 ただ、そうした消費スピードはある程度コントロール可能だとも言えます。要は、芸人や芸能プロダクションが出し惜しみをすればいいからです。もちろんそれは大ブレイクのチャンスを失うというリスクもありますが。

 また、キャラクター要素にしろ音楽ネタ要素にしろ、それら一辺倒で押すかぎり活躍の場は限られてきますし、いつかは飽きられます。レギュラー番組を持つことがないのであれば、インターバルを置いて新ネタ(あるいは新キャラ)を創って再登場するというもひとつの方法論かもしれません。それは、歌手やミュージシャンのようなあり方を想像すればわかりやすいでしょうか。

 今年は8.6秒バズーカーに次いで、「あったかいんだからぁ」という曲をリリースしたクマムシという芸人コンビも注目されています。彼らも音楽ネタですが、上半期で早く二組がブレイクしそうな気配です。彼らの前途を祈りたいと思います。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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