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日曜紙「サンデー・タイムズ」編集室をたずねて見た -家族で読んでもらうための工夫

小林恭子ジャーナリスト
ニュースUK社が発行する、サン紙とタイムズ紙の紙面

今月中旬、英日曜紙サンデー・タイムズと同じく日曜紙のオブザーバーの編集室を知人とともに訪れる機会があった。

短時間の訪問だったが、生の空気を吸って見えてきたことがいろいろあった。ここで、概要を紹介してみたい。

その前に、「日曜紙」の意味を簡単に説明してみよう。

英国の新聞は発行日の違いから、月曜から土曜まで発行される日刊紙(平日版)と、日曜日にのみ発行される日曜紙とに分かれる。キリスト教の教えの影響で日曜は長年「特別な日」と考えられ、両紙はそれぞれ別個に発展してきた。発行元は同じ場合でも、日刊紙と平日紙ではそれぞれ編集長や編集スタッフが別になる。

4大日刊高級紙デーリー・テレグラフ、タイムズ、ガーディアン、インディペンデントの系列日曜紙は、それぞれサンデー・テレグラフ、サンデー・タイムズ、オブザーバー、インディペンデント・オン・サンデーとなる。

日曜紙はその週を振り返る解説記事や読み物的記事に加え、テレビ・ラジオの番組予定の小冊子、数々の特集の小冊子、映画のDVDなどがつく(最近は経費節約のためか、DVDがつくことは少ない感じがする。)かなり分厚く読み応えのある日曜紙だけを購入する人も多い。

一方、月曜から土曜まで発行される平日紙だが、土曜日版は普段の日よりも厚い。日曜紙をほうふつとさせる解説記事、読み物、番組予定の小冊子などがつく。土曜日版は日曜紙のライバルともいってよい。

近年は、日刊紙、日曜紙、ウエブの編集部門を統合する現象が発生している。理由は経費節約だ。紙の新聞の発行からの収入にたよってきた新聞社の経営は苦しくなっている。

サンデー・タイムズ

米メディア企業ニューズ社(ルパート・マードックが会長)の傘下にあるニューズUK社が発行するのが大衆紙サン、日曜大衆紙サン・オン・サンデー、高級紙タイムズ、日曜高級紙サンデー・タイムズだ。

この複数の新聞を制作するビルは、ロンドンの地下鉄タワーヒル駅から、ワッピング方向に歩いて数分の場所に建つ。新しいビルだが、周囲は3メートル以上もの高い塀に囲まれていた。

編集室の案内が始まる前に、テーブルに新聞を広げて紅茶を飲んでいたら、横にあった自動販売機にアジア系女性(50代ぐらい)が来て、チョコレートを買っていた。担当は、投書欄だという。何人でやっているかと聞いたら、2人でと聞いて、びっくりした。ずいぶんと少人数でやっているのだなあ、と。もっと若い人がやっている印象があった。(後で考えると、週に1回の発行だから、少人数でも驚くほどではないのかもしれない。)

ツアーは午後3時半過ぎに開始。広い、近代的な編集室に大きな画面のコンピューターが乗っている机が整然と並んでいる。ところどころに、新聞が積んである。昔の日本の新聞社の編集室を思い浮かべるとずいぶんと違うが、日本では今はこんな感じのようだ。

タイムズの編集室は別フロアにあったので、案内されたフロアはサンデー・タイムズのみである。

ニュース、特集(「フォーカス」)、雑誌(後述)、スポーツ、ビジネス、写真などのコーナーに連れて行ってもらって、その時々、紹介された。それぞれ、紹介された人が立ち上がって、挨拶してくれる。

特集面のデスクの一人が通りかかり(女性)、今度のトピックは東京五輪で、超ハイテクになりそうだということを書くという。

ほかにもデスククラスで、小部屋に入っている人が女性。結構、編集幹部で女性が多いというか、目に付いた。たまたまかもしれないが。

女性記者の一人は、ハイヒールで短距離を走った人の話を書くそうで、自分も一緒に走るのだといってうれしそうに話してくれた。

声を荒げるような人はおらず、整然と、静かに、編集作業が続いている感じがした。

個人的に面白かったのは、写真のコーナーである。写真デスク(50-60歳前半ぐらい)の人と少し話した。24年ぐらいサンデー・タイムズで働くという。どれぐらいのスタッフがいるかと聞いてみたら、社員としてはゼロだという。

昔はたくさんいたそうだが、今は社員としては雇用としてない。その代わり、フリーの人をどんどん使うという。働くほうからすると、不安定である。しかし、これが現実なのだ。サンデー・タイムズに載るといわれて、いやというフリーの人はいないだろう。

このデスクが、引き出しから取り出したのが分厚い手帳。これはフリーの人などの連絡先が入っている、ずしっとしたものだった。かなり年月がたっているし、使い込まれている。この手帳こそ、彼の財産であり、サンデー・タイムズの財産でもある。

(余談になるが、テレビや新聞でフリーの人を使う場合は非常に多い。たとえば、3・11の震災とその後の原発事故で、BBCの報道がすごいと日本でほめた人がいるそうだが、BBCの社員が作った場合もあれば、フリーのジャーナリストたちが取材・制作したものをBBC枠で流していたという面もあったと、知人から聞いた。)

一通り終り、紅茶を飲んでいたテーブルに戻って、紙面を説明してもらった。

サンデー・タイムズはポジション的にはタイムズの日曜版といってもいいのだが、もともとの誕生の経緯は違う。それでも、前の経営者でカナダ出身のトムソン一家が2つとも買って(サンデー・タイムズは1959年、タイムズは1966年)、ずっと続いてきた。後にマードック氏が買収した(1981年)。

日刊のタイムズは保守系・伝統的高級紙(ただし、英与党の保守党支持ではない)といってよいだろうと思う。サンデー・タイムズはタイムズよりもちょっとリベラルだろうかー?

サンデー・タイムズは高級紙・日曜紙の部門では一番売れている新聞で、今は100万部ぐらい。ただ、どんどん部数は落ちている。タイムズは40万部ほどだ。

サンデー・タイムズに限らず、日曜紙はたくさんの別冊がつく。本紙、付録・別冊として、自動車・運転、スポーツ、ビジネス、求人、それに「ニュースフォーカス」という別冊がある。これとは別に、2つの雑誌がつく。1つは若い女性向け(ファッション、料理、化粧、ゴシップ)と、文化・書評・映画評・テレビ・ラジオ欄の「カルチャー」。「カルチャー」はなかなか、読み応えがある。新聞の文化批評(本、映画、テレビ、ラジオ、演劇、音楽など)は英国知識層にとって、欠かせない存在。これを読むか、内容を知っていることが大切だ。

サンデー・タイムズでは子供や若い人も読んでもらえるよう、マーケティング戦略を工夫している。その週は動物をテーマにした、ポスターをつけた。これを見ながら、家族で会話をしてもらうことを狙う。日曜は家族が一緒に、ゆったり過ごす日だ。

英国の高級紙はすべて原則、全頁がカラーだ。サンデー・タイムズもそうだった。

相次ぐスクープ

サンデー・タイムズはスクープ報道でも知られている。一体どうしたら、毎週毎週、スクープを出せるのかというと、政界やさまざまなところに情報のネットワークを張っている。常に仕込んでいるわけである。

また、政界やビジネス界、そのほかニュースを報道してもらいたい側は、もっとも影響力が強い媒体を常に探している。日曜の朝、もっともインパクトの高い知的媒体はどこだろうか?サンデー・タイムズがトップに来る場合が多い。(でなければ、BBCの午前中のニュース番組。)

サンデー・タイムズとタイムズがプッシュしている電子化の話では、購読者になると、「タイムズプラス」というクラブに入ることになる。そうすると、ウェブサイトで記事が読める(通常は、無料では読めない)と同時に、サッカーのプレミアリーグの試合の生中継などの情報、たとえばゴール情報などがスマートフォンなど携帯機器に独占的に送られる。

メンバーになると、文化的イベントにも安く参加できたりする。クラブに入れば「知的エリート層」になった気分が味わえる・・・という風にして、売っているわけである。(次回はオブザーバー紙の訪問記)

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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