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若者に眠る「政治への関心」を目覚めさせるのは社会の役割、模擬選挙で高校生が学ぶ議論ルール

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
体育館で政党の議論を聞いた後は投票の練習をする 撮影:あぶみあさき

ノルウェー選挙期間中には、高校を舞台に「学校選挙」と呼ばれる模擬選挙が開催される。

模擬選挙では各政党の青年部の代表(高校生・大学生などの10~20代)が、体育館などで政策の違いを討論する時間などがある。

この青年部たちの議論だが、聴衆の高校生も含め、議論レベルがかなり高い。

討論を聞いてる高校生たちと話をしていても、「議論の仕方の参考になる」とコメントする人が多い。

撮影:あぶみあさき
撮影:あぶみあさき

全体的に成熟した政治の議論空間が生まれているため、「君たちは本当に高校生か?」と突っ込みたくなる。

「批判を個人攻撃だと思わない」テクニックなど、北欧ならではの議論カルチャーは模擬選挙中にも養われている。

それにしても、学校選挙ではこのような議論空間がどのように生まれるのか?ずっと不思議だった。

トラブルを減らし、実り多き議論時間にするための規則とは?

複数の政党の青年部を取材していると、どうも学校選挙が開催される前に、青年部たちで集まり、「共通ルール」を作っているという。

もし誰かを中傷するなど、行き過ぎた行為がその年に発生したら話し合う。次の模擬選挙期間中に同じことが起きないように、各青年部で対策しているという。

各青年部の代表たちが議論、意見を言う時や反論する時の手の挙げ方など、ルールが統一されている 撮影:あぶみあさき
各青年部の代表たちが議論、意見を言う時や反論する時の手の挙げ方など、ルールが統一されている 撮影:あぶみあさき

青年部の学校討論というのは、大人の政治家が国民に向けてする討論とはちょっと違う。

まだ未成年・今年初めて投票する高校生などのための議論なので、「わかりやすい」ことが重要。

一方で、大人の政治家同士だったら「ありえない」発言やプレゼン発表が起きることもある。

青年部の議論を見て高校生たちは議論カルチャーを学ぶので、青年部でも時には反省が必要というわけだ。

その「共通ルール」、見てみたいと私は思った。

オスロの学校選挙2021 青年部の規則

保守党青年部からいただいた規則 
保守党青年部からいただいた規則 

これが入手した規則の翻訳だ。

学校討論と選挙広場の実行にあたって

  • 学校選挙が開催される全ての高校には、政府機関であるノルウェー教育訓練局が作成した独自の規則が配布・共有されている
  • 各政党の青年部はこの規則に従うとともに、オスロの青年部同氏で話し合ったさらなる規則を設けている
  • 基本的には教育訓練局が作成した規則がベースとなっているが、一部は解釈が曖昧となるものもある。そのため。オスロの青年部たちが作成した規則は、一部でさらに細かいルールを設定している
  • 学校選挙が実り多く、公正なものになるように、両方の規則に目を通し学校選挙に参加することが求められる

「学校選挙」には「学校広場」と「学校討論」の2種類の時間帯で構成されていることが多い。

オスロの9政党の青年部が決めた規則

各政党がスタンドを出す空間は学校広場と呼ばれる 撮影:あぶみあさき
各政党がスタンドを出す空間は学校広場と呼ばれる 撮影:あぶみあさき

学校広場のルール

  • 全ての高校で学校広場を設けることを推薦する
  • 学校広場は最低60分は開催する
  • 学校は高校生と議論し、学校広場で知りたいことや質問事項を事前に用意させる
  • 学校は、各政党からの出席者の人数を限定することはできない
  • 全ての政党にスタンドの場所が用意され、配置によって一部の政党が目立つ・目立たない現象が起きないように、学校は全政党に十分な場所を提供する
  • 学校の事務局は、政治発言や学校広場で配布される素材の検閲をすることはできない

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あぶみの個人的感想

意外と学校側に対して「検閲するな」メッセージなどを発信していて驚いた。

ノルウェーでは学校選挙中に、学校側が青年部に対して検閲行動をしたことが大きなニュースや議論になったこともある。最終的には文化大臣まで乗り出し、学校側が謝罪した。

学校側が民主主義の心臓ともいえる青年部にあれこれ言うのはNG。これがノルウェーの民主主義だ。規則というのは、自分たち青年部に対してのルールかと思ったら、青年部から学校への依頼が多いのがとてもノルウェーらしい。

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学校討論のルール

学校討論を聞きに集まった高校生 撮影:あぶみあさき
学校討論を聞きに集まった高校生 撮影:あぶみあさき

  • 全ての学校で、学校討論開催後に学校広場を開放することを勧める
  • 学校討論に参加できるのは、国会に議席を置く政党の青年部のみ
  • 討論時間は60分を超えてはいけない
  • 討論はこの順番で行われる
  1. 各党の最初の言葉 各2分
  2. 自由討論(ある議論に対しての始まりの意見1分、それに対する意見は2個まで各30秒、それに対する回答30秒)
  3. 各党の最後の言葉 各2分
  • 議論する人たちは何を話すかの準備に大きな労力を割いているため、事前に余裕を持った期間内でない限りはスピーチの設定時間は変更しない
  • 学校は誰が司会者となるか決定できる。だが、司会者には以下のことが求められる
  1. 議論のルール「意見・対する別の意見・その別の意見に対する回答」の3種類を理解していること
  2. 各意見の時間配分をしっかりとチェックしていること
  3. 議論に参加しないこと、議論している人たちに質問しないこと、進行役に徹すること
  4. このような司会者としての課題をまっとうする権威を備えている人
  5. 中立で公正なリーダーとしてのスキルがある人

学校討論中は学校の教師は後ろで見守っているだけのことがほとんど 撮影:あぶみあさき
学校討論中は学校の教師は後ろで見守っているだけのことがほとんど 撮影:あぶみあさき

  • テーマを事前に決めることはできない。これまでの経験上、テーマは政党と高校生にとって特に重要とされるテーマになることが多い。それでも高校側がどうしてもテーマを制限したい場合は、討論日の最低2日前には申し入れること。
  • 学校の事務局には、討論中の政治的発言を検閲する権利はない
  • 議論に関してのルールなど申し入れがある場合は、討論前に余裕をもって青年部に提案する
  • 学校討論から学校広場の切り替えに要する時間は、長くなり過ぎないことを強く進める
  • 学校選挙は授業が通常開催される時間帯に行われるべきである。休み時間に討論を開催したり、高校生の投票時間が休み時間とはかぶらないようにする。そのほうがより多くの高校生が自分たちの投票権を使えるからである。

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あぶみの個人的感想

「国会に議席を置く政党のみ」が討論に参加可能とあるが、例外もある。高校側が望めば、国会に議席がない野党の青年部も指名されれば参加できる。若者が関心をもつ野党や新しい政党が時にあるからだ。

放課後や休み時間ではなく、「いつもの授業中の時間帯に」学校選挙や投票を開催するべきという指摘に「へえ!」と感心した。確かに、私が取材する時はいつも日中だが、あえて休み時間を避けていることには気づいていなかった。模擬選挙を学校教育の一部として捉える国ならではだ。

青年部をまとめる政党は、交替制

各政党の青年部の代表たちが集まって話し合う際は、必ず話を進めてまとめるリーダー役がいる。このリーダーとなる政党は、毎回青年部で平等に交替しているらしく、2021年度は保守党青年部がリーダー係だった。

保守党青年部の組織秘書であるエマ・アーランセンさんは、私にこのルールを渡すときにこう答えた。

「学校討論や広場がどのように開催されるかを最終的に決めるのは学校側です。それでもほとんどの学校は私たちが提案する規則に従い、独自のルールを加える学校はわずかです」

コロナ禍のトラブル、政府機関がデジタル放送でサポート

学校選挙の最初は高校生を複数の会場に分けて、各教室にデジタル放送するという対策がとられていた。コロナでクラスターが発生してからは討論自体が中止に 撮影:あぶみあさき
学校選挙の最初は高校生を複数の会場に分けて、各教室にデジタル放送するという対策がとられていた。コロナでクラスターが発生してからは討論自体が中止に 撮影:あぶみあさき

実は昨年8~9月にノルウェーで国政選挙が開催されている時、私はオスロの複数の高校を訪問して、討論などの比較をしてみたいと思っていた。

だがコロナ禍で各校でクラスターが発生し、結局ほとんどの学校討論や広場は開催がキャンセルされた。

その中で、一部の学校討論だけはデジタル放送を急遽することに。その主催者は政府機関である「教育局」だという。

政府がここまでして学校選挙の開催を手伝おうとするのは興味深い。日本だったら、政党が訪問する討論の開催自体が大変だろう。

そこで教育局の担当者に「どうして学校選挙が大事なのか」を聞いてみた。

ノルウェー教育局が語る「模擬選挙が必要な理由」

教育局の広報であるランディ・ハーゲン・エイリクスルドゥさんはこう話す。

「録音した学校選挙のリンクは国政選挙が終わるまで公開します」

「学校選挙はノルウェーの民主主義教育の重要な一部です。国政選挙や地方選挙の前に開催される、試験的な選挙。政治に対する興味を目覚めさせて、若い人たちに民主的なプロセスを学んでもらいます」

「学校討論では、重要な課題を議論します。政党青年部の政治家や高校生は、議論会場に集う学校選挙の重要な一部です。だからこそ、今年は開催できなかった学校討論をデジタル放送することにしました」

若い世代に眠る「政治への興味」を目覚めさせるのは学校や社会の役割

高校生は青年部のスタンドに立ち寄り、気軽におしゃべりすることができる。各青年部はそれぞれの政策や思想がデザインされたバッジや文房具などを無料配布 撮影:あぶみあさき
高校生は青年部のスタンドに立ち寄り、気軽におしゃべりすることができる。各青年部はそれぞれの政策や思想がデザインされたバッジや文房具などを無料配布 撮影:あぶみあさき

若い人たちひとりひとりに、「政治への関心」というのはそもそも眠っていて、それを「目覚めさせる」のが学校選挙。

この言い方に私はまたまた関心してしまった。これこそが教育機関の本来の役割なのだろう。

日本だと、むしろ若い人の政治への関心の芽に土をかけて、地面奥深くに眠らせているような……。

そういえば日本に住んでいる間は私の政治への関心はずっと眠ったままだった。ノルウェーに移住してから、ぐわっと解放され今もぐんぐん育っている。

高校で起きている学校選挙は、大人にも十分に有効だ。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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