Yahoo!ニュース

部活動の時間数 減少へ 都道府県データの分析から見える改革の成果と課題

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 ついに、この報告をする時が来た。これまで全国の学校で増加の一途をたどってきた運動部の活動時間が、ようやく減少に転じたのだ。部活動はいま、大きな転換点にさしかかっている。

■部活動改革の最盛期

 部活動の過熱が問題視されるなか、改革が着々と進んでいる。

 スポーツ庁は2017年5月に運動部活動のあり方を考える有識者会議を設置し、2018年3月には、ガイドラインを策定した。時を同じくして、国の動きをにらんで各自治体でもガイドラインの策定が進んだ。都道府県レベルでは2018年8月の時点ですでに6割が、同年10月の時点で7割が、運動部のガイドラインを策定済みである。

 ガイドラインは、過熱した部活動の適正化を求めるものである。とくに休養日の設定をはじめとする、活動量の上限規制が注目される。

 一方で、長年にわたって学校教育に根づいてきた部活動が、そう簡単には改革されないのではないかとの懸念の声も大きい。というのも、1997年にじつは休養日の設定等を記した指針が示されていたものの、学校現場に定着するには至らなかったという過去があるからだ(『読売新聞』社説2018年4月6日)。

 当時の指針は定着することなく、運動部活動はむしろ過熱してきた(拙稿「『部活週2休』有名無実化」)。そして、改革の機運が高まりつつあった2017年度の時点でも、運動部の活動時間数は2016年度よりも増加していた(拙稿「運動部の活動時間 一年間で増加」)。

■ほぼすべての自治体で活動時間数が減少

都道府県別の一週間における部活動時間数の増減(左図:2016~2017年度の増減、右図:2017~2018年度の増減) ※スポーツ庁の調査結果をもとに筆者が算出・作図
都道府県別の一週間における部活動時間数の増減(左図:2016~2017年度の増減、右図:2017~2018年度の増減) ※スポーツ庁の調査結果をもとに筆者が算出・作図

 それがついに、風向きが変わってきた。行政の動きと市民の声が高まっていくなかで、運動部活動の活動時間数が減少へと転じたのである。

 各都道府県の公立中学校における2016~2017年度の変化と、2017~2018年度の変化を比較すると、そのことがはっきりとわかる。

 スポーツ庁は毎年4月~7月にかけて全国の中学2年生(と小学校5年生)を対象に「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」を実施している。2016年度からはその質問紙調査のなかで、運動部に所属する生徒に、月曜日から日曜日までの毎日の活動時間数がたずねられている[注]。

 都道府県別に年度間の増減を整理してみよう。左側の図が2016~2017年度にかけての増減で、右側の図が最新の2017~2018年度にかけての増減を示している。赤色が増加で、水色が減少をあらわしている。増減量を見た目で比較できるように、左側の図と右側の図において、横軸(活動時間数)の目盛りの幅を同一にしている。

 一目でわかるとおり、2017~2018年度にかけて佐賀県を除くすべての都道府県で生徒の活動時間数が減少している。

 先述のとおり2016~2017年度においては、全体として運動部の活動時間数は増加しており、都道府県別で見ても増加している自治体が多数派である。それが、2017~2018年度にかけてはほぼすべての都道府県で時間数が減少し、その減少幅も、2016~2017年度のそれよりもかなり大きいことがわかる。

■石川県で月11時間38分の削減

 2017~2018年度にもっとも活動時間数を減らしたのは石川県で、一週間あたり約142.1分の削減である。

 石川県は2016~2017年度の時点ですでに32.6分減少しており、2016~2018年度の2年間をとおしてみても、47都道府県のなかでもっとも減少幅が大きい。2年間で計174.7分の削減となり、これを月(4週間)に換算するとおおよそ11時間38分である。月あたりで11時間38分の削減は、それなりに大きな変化といえる。

 この変化について、県の教員組合の幹部に問い合わせを入れたところ、すでにこの状況を把握しており、2年間の変化を次のように説明してくれた。2016年度の調査結果がスポーツ庁より公表された時点で、石川県は活動時間数の多さが全国で10位以内に入っていた(男女平均で7位)。他方で、同じ北陸地方の富山県と福井県は、下位であった(男女平均で富山県が43位、福井県が35位)。そこで、両県にならって石川県も部活動の活動量の削減を図るべきとの機運が、行政や組合のなかで高まっていったという。

 最新の2018年度の時点で、活動時間数が多いほうから数えて、石川県は29位にまで順位を下げている(富山県は43位、福井県は33位)。なお北陸三県は、学力テスト上位の常連でもある。石川県の部活動削減時間数が、そのまま業務全体の削減に帰結するのか、あるいは学力向上の業務に取って代わられていくのかについては、慎重に見ていかなければならない。

■超過熱の県はそのままの傾向

都道府県別の一週間における活動時間数とその順位(左図:2017年度、右図:2018年度) ※スポーツ庁の調査結果をもとに筆者が算出・作図
都道府県別の一週間における活動時間数とその順位(左図:2017年度、右図:2018年度) ※スポーツ庁の調査結果をもとに筆者が算出・作図
都道府県別の一週間における活動時間数の上位と下位(2018年度) ※スポーツ庁の調査結果をもとに筆者が算出・作図
都道府県別の一週間における活動時間数の上位と下位(2018年度) ※スポーツ庁の調査結果をもとに筆者が算出・作図

 各都道府県の増減の結果、2018年度の一週間における活動時間数の順位は、図表のとおりである(比較検討のために2017年度の順位も図示した)。

 2017年度の1位千葉県、2位福岡県、4位神奈川県は、2018年度も順位は変わっていない。2017年度5位だった佐賀県は、2017~2018年度にかけて47都道府県のなかで唯一活動時間数を増加させており、2018年度は3位に順位を上げた。

 2018年度の上位県と下位県では、一週間あたりで5~7時間の差が生じている。この差は生徒と教師の両者にとって、負担(感)を大きく左右するものと考えられる。

 ここで指摘したいのは、上位県における活動時間数の減少幅が小さいことである。2017~2018年度にかけて47都道府県における一週間あたりの増減の平均値は、マイナス59.4分である。すなわち59.4分の削減が進んだということになる。

 他方で2017年度に1位の千葉県は20.9分の減少(2018年度は1位)、2位の福岡県は21.7分の減少(2018年度は2位)、4位の神奈川県は56.2分の減少(2018年度は4位)、5位の佐賀県は上述のとおりむしろ13.4分の増加(2018年度は3位)となっている。なお、2017年度に3位の愛媛県は平均を大幅に超える94.2分の減少(2018年度は6位)である。

 総じて、2017年度に活動時間数がとりわけ多かった県では、全国的に時間数が減少へと転じた2018年度においても、他の都道府県と比べてそれほど活動時間数が減少していないということである。運動部活動が超過熱傾向の地域では、2018年度においてもそれを維持しようという力がはたらいている。

■さらなる削減が必要

画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より
画像はイメージ ※「無料写真素材 写真AC」より

 部活動は楽しい。だから過熱する。そうであるからには、教育行政が積極的に上限規制を設けていかなければならない。とくに活動時間数の上位県では、行政の主導的な役割に期待したい。

 また、全国的に減少傾向に転じたとはいえ、先に述べたとおり、47都道府県における一週間あたりの増減時間数は、平均でマイナス59.4分である。つまり、一週間で「たったの1時間しか減っていない」と表現することもできる。これでは、生徒にゆとりはほとんど生まれない。

 さらに文部科学省の教員勤務実態調査(2016年度実施)によると、公立中学校教員における一週間の残業時間は平均で23時間20分である。うち7時間43分(平日1日あたり41分、土日1日あたり2時間9分)を部活指導に費やしている。一週間で1時間減っただけでは、教員の長時間労働解消もほど遠い。

 私が知りうる限りで、ガイドラインには拘束力がないからと、最初からガイドラインを守ろうとしない部活動がある。あるいは、一部の練習を「自主練」と称しつつ実質的には従来どおりの部活動を継続させるかたちで、ガイドラインの上限規制をかいくぐろうとする顧問もいる。そして、今回の検証は運動部活動に関するものであり、文化部活動についてはそもそも調査がほとんどおこなわれていない。その意味で、部活動改革の課題は多い。

 部活動改革はいま、ようやくその成果が見え始めてきた。世の中は、変わる。部活動改革に関心をもってきた一人として、エビデンス(科学的根拠)を用いてこのような記事を書ける日が来たことを、本当にうれしく思う。この成果をみんなで共有しながら、今後の改革推進の糧としていきたい。

  • 注:スポーツ庁の資料では、男子と女子別に数値が整理されている。本記事では、男子と女子の平均値を算出して、都道府県別の時間数として取り扱っている。なお、スポーツ庁の調査そのものは国公私立すべての学校を対象としているものの、都道府県別のデータについては公立校のみの数値が公表されている。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

内田良の最近の記事