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運動部の活動時間 一年間で増加 2016と2017年度の比較分析 都道府県間で増減に大きな温度差

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
運動部における活動時間の増加上位・下位5県 ※スポーツ庁の資料より筆者が算出

 新年度を迎えて、これから中学校や高校では新入生向けに、部活動のオリエンテーションやお試し参加がおこなわれる。ここ数年、部活動の過熱が問題視されるなか、新入生の目に映る部活動はどれくらい活発だろうか。

 部活動における生徒や顧問教員の負担軽減が求められる一方で、スポーツ庁が公表した2017年度の調査結果を2016年度のそれと比較すると、運動部の活動時間が増加していることがわかった。また都道府県の間に大きな温度差があり、対応のちがいが注目される。

■部活動改革の盛り上がり

中学校教員が一週間で課外活動に費やした時間(単位は「時間」) ※OECD国際教員指導環境調査の結果をもとに筆者が作図
中学校教員が一週間で課外活動に費やした時間(単位は「時間」) ※OECD国際教員指導環境調査の結果をもとに筆者が作図

 ここ数年、学校の部活動における生徒と顧問教員の両者の負担を軽減すべく、部活動改革が国や自治体のレベルで急ピッチに進められている。

 思い起こせば2014年6月に、経済協力開発機構(OECD)の調査結果(日本語版調査結果の要約)により、日本の中学校教員が世界34の国・地域のなかでもっとも長時間働いていることがわかった。なかでも、世界で突出して時間数が多かったのが課外指導すなわち部活動であった。

 それまでも、部活動における生徒の過剰な練習や負担はたびたび問題視されてきたものの、そこに顧問教員の過重負担がくわわったことで、過熱する部活動にいかに歯止めをかけるかが、教育行政の重大な課題として認識されるようになった(拙稿「生徒も先生も苦しい"部活動"の魅力と魔力」)。

■国による調査とガイドライン

 2016年度にはついに、スポーツ庁が全国体力テストに合わせるかたちで、運動部の実態について都道府県別の状況を調査・公表し、各自治体に関心を促した(拙稿「部活の過熱 都道府県の実態 明らかに」)。

 2017年5月にはスポーツ庁において「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」が設置され、先月そのガイドラインが策定されたばかりである。ガイドラインでは、中学校だけでなく高校においても、休養日を一週間に2日以上設けることが明記され、話題を呼んだ。

 このような状況のもと、スポーツ庁は2017年度においても全国体力テストに合わせて、運動部の実態を4月~7月にかけて調査し、2018年2月にその結果を公表した。部活動のあり方が積極的に論じられてきたなか、はたしてこの一年の間に、調査結果が示す数値はどのように変化したのか。

■2017年度の活動実態

2017年度:公立/国立/私立別の活動時間数(単位は「時間」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が作図
2017年度:公立/国立/私立別の活動時間数(単位は「時間」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が作図

 そもそも2017年度の調査について言うと、全国の報道を見渡したところ、体力テストの結果に重点を置いた報道は多くあったものの、運動部活動の項目への関心はかなり低かった。

 そこでまずは2017年度の実態について、とくに運動部活動の活動時間数に絞って、調査結果を振り返りたい。調査対象は中学2年生で、公立・国立の中学校では生徒の約9割が、私立の中学校では生徒の約6割が回答している[注1]。

 男子における一週間全体の活動時間数は、公立校が16.0時間、国立校が10.9時間、私立校が10.6時間である。運動部活動は、公立校でとりわけ盛んであることがわかる。なお、スポーツ庁の報告書では、「分」単位(たとえば公立校は「961.31分」)で掲載されており、感覚的に把握が難しいため、本記事では状況に応じて適宜「時間」単位に換算した。

 女子においても傾向はほぼ同様である。公立校が16.2時間、国立校が10.1時間、私立校が10.3時間である。公立校では、女子の運動部活動のほうが男子のそれよりも活動時間が長い。

■都道府県別の活動時間数

2017年度:一週間における活動時間(単位は「時間」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図
2017年度:一週間における活動時間(単位は「時間」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図
2017年度:一週間における活動時間の上位と下位5県 ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図
2017年度:一週間における活動時間の上位と下位5県 ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図

 公立校については、都道府県別の結果も公表されている。

 男子生徒では、一週間あたりの活動時間が最多だったのは福岡県で18.59時間であった。次いで、千葉県の18.56時間、秋田県の18.14時間とつづく。最少は岐阜県の11.74時間である。

 女子生徒では、最多は千葉県の19.12時間で、次いで、福岡県の18.88時間、愛媛県の18.68時間とつづく。最少は岐阜県の11.36時間である。

 男子と女子の数値をもとにその平均値を算出すると、最多は千葉県の18.84時間、最少は岐阜県の11.55時間となる。全体像を、棒グラフを用いて降順で示したので、各自治体の状況を確認してほしい。

 自治体間の差は、けっして小さくない。一週間あたりの活動時間について、その最多と最少の差は7.29時間。一週間でその差はかなり大きいと言える。

 ただし、最少の岐阜県については、たとえば多治見市がよく知られているように、地域のクラブ活動が積極的に導入されている。学校の部活動を終えてからそれとは明確に区別されたかたちで、希望する生徒は地域のクラブへと活動をつづけていく(『毎日新聞』2018年1月21日)[注2]。その点ではデータの読み方に注意が必要である。

■2016年度より活動時間数が増加

2016・2017年度:一週間における活動時間(単位は「分」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書」より転載
2016・2017年度:一週間における活動時間(単位は「分」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査報告書」より転載

 以上が、2017年度の実態である。つづけて、2016年度からの変化を示したい。

 上に示した表は、スポーツ庁の公表資料から抜粋したもので、2016年度と2017年度における男女別の活動時間数(分)が記されている。2017年度から2016年度の数値を引いてみると、一週間全体で男子は8.9分、女子は6.9分の増加が確認できる。

 生徒と教員両者の負担を軽減すべく部活動改革が盛り上がってきたなかで、運動部活動の活動時間は2016年度よりも、減少するどころかむしろ増加している

 増えていること自体が大きな問題であるが、増加幅は10分に満たないとも言えるかもしれない。だがこの増加幅は、全国の数値として各都道府県の増減が相殺されて、そのようにあらわれただけである。都道府県別に見たときには、より大きな変動を確認することができる。

■都道府県で増減に大きな差

2016~2017年度:都道府県別にみた一週間における活動時間の増減(単位は「分」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図
2016~2017年度:都道府県別にみた一週間における活動時間の増減(単位は「分」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図
2016~2017年度:一週間の活動時間の増加量における上位と下位5県(単位は「分」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図
2016~2017年度:一週間の活動時間の増加量における上位と下位5県(単位は「分」) ※スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」をもとに筆者が独自に算出・作図

 スポーツ庁の資料では、運動部活動の実態について、上記の全体的な数値以外には、2016年度と2017年度の比較が示されていない。

 そこで両年度の都道府県別データをもとに、その変化量を独自に算出した[注3]。上記の棒グラフにおいて、右側の赤色の棒グラフが増加を指し、左側の水色の棒グラフが減少を指している。

 もっとも増加したのは、岐阜県で42.4分、次が長野県で39.4分である。またもっとも減少したのは、和歌山県で56.4分、次が奈良県で42.4分である。

 都道府県それぞれに特有の背景があってこうした増減が生じているものと考えられ、今後さらに踏み込んだ検証が必要である。

■過熱する自治体 改革の先進地

 仮説的に、増加した県についてその背景を示すとするならば、私は次のような可能性があるのではないかと考える。

岐阜県と長野県は、じつは部活動改革の先進地として、関係者の間ではよく知られている。

 岐阜県は、先ほどの全国の活動時間数で示したとおり、2017年度において運動部活動の時間数がもっとも少ない地域であった。これは2016年度も同様である。

 岐阜県内のいくつかの自治体は、学校の部活動の外部化、言い換えるならば地域クラブへの移行を、積極的に進めてきた。今回の調査でも、「地域のスポーツクラブ」に所属している生徒の割合は、男女ともに全国でもっとも高く、男子で25.8%、女子で17.0%に達する。

■部活動改革への反動か?

長野県教育委員会「長野県中学生期のスポーツ活動指針」[2014年2月]
長野県教育委員会「長野県中学生期のスポーツ活動指針」[2014年2月]

 また長野県は、全国に先駆けて、中学校における朝練の廃止をはじめ、運動部活動の改革を断行した地域である(『日本経済新聞』「中学生の朝練『成長に弊害』」2013年11月14日)。

 しかも週に2日の休養日、さらに平日は2時間程度までと、スポーツ庁のガイドラインに先んじて、活動の総量規制を目指してきた(長野県教育委員会「長野県中学生期のスポーツ活動指針」2014年2月)。なお、長野県も「地域のスポーツクラブ」が整備されていて、男子で22.6%(全国4位)、女子で14.6%(全国2位)である。

 いずれも、部活動の縮減をリードしてきたはずの自治体が、全国的に部活動改革が隆盛する最中に、その活動量を増加させている。部活動の規模縮小を目指してきたことに対する反動が生じているようにも見える。

■部活動と国民体育大会

 岐阜県と長野県に次いで時間数が増えたのが、福井県と茨城県である。

 じつは福井県は2018年度に、茨城県は2019年度に国民体育大会(国体)の開催が予定されている。国体では、開催都道府県が総合優勝を遂げることが慣例化しており、教育界を巻き込みながら、大会の機運が高められていく。

 たとえば福井県では、県中学校体育連盟の総会において、2016年4月には「2018年福井国体に向け、それまでの全国大会で上位入賞ができる選手の育成を目指す」(2016年4月14日、福井新聞)、2017年4月にも「来年の福井国体に向け全国大会で上位入賞できる選手の育成を目指す」(2017年4月13日、福井新聞)ことが承認された。数年後の国体開催に向けて、中学校段階から部活動のテコ入れを進めて、県の選手を育成しようという方針である。

 このような国体開催地における部活動強化の動きについては、別の機会に改めて詳細に論じたい。

■過熱から脱却した県と過熱しつづける県

拙稿「部活の過熱 都道府県の実態 明らかに」[2016年12月18日]
拙稿「部活の過熱 都道府県の実態 明らかに」[2016年12月18日]

 2016年度における一週間の活動時間数の上位5県は、千葉県、愛媛県、福岡県、奈良県、神奈川県であった(拙稿「部活の過熱 都道府県の実態 明らかに」)。うち奈良県と和歌山県は、2017年度に全国でもっとも活動時間を減らした県となった。

 気がかりなのは、千葉県、福岡県、神奈川県である。

 2016年度の時点で十分に過熱していたにもかかわらず、2017年度においても活動時間が増加している。やりすぎているはずなのに、部活動の熱が冷めることはない。

■厳格な総量規制へ

 運動部活動は、全国大会を頂点とする巨大なピラミッドを構成している。競争原理のもとに置かれ、多くの生徒がまずは地区大会への参加をとおして、そこに巻き込まれていく。

 試合に一つ勝ち、生徒も顧問教員も喜びを味わい、次の目標に向けて練習を強化していく。そこでまた一つ勝つと、目標はさらに高くなっていく。こうして気がつけば県大会の常連校となり、もはやその舞台から降りることなど、できなくなる。

 学校現場まかせで、部活動の過熱を抑制するのは容易ではない。

 抑制をかけるには、活動量に関する厳格な総量規制(上限規制)が不可欠である。スポーツ庁の新しいガイドラインは、活動量の縮減を掲げている。その実効性を高めるためにも、自治体にはスポーツ庁の貴重な調査結果をしっかりと活用していくことが求められる。

  • 注1:調査時期は、2016年度は「調査票到着から7月末までの期間」、2017年度は「4月~7月」。
  • 注2:同紙によると、多治見市立中学校の状況は次のとおり――「既に部活動の一部を地域クラブに移行した自治体もある。岐阜県多治見市は2002年、市立中学全8校に、運動部の競技ごとに『ジュニアクラブ』を設けた。始業前と放課後の午後5時までは顧問の教員が指導する部活動、午後5~7時と土日は社会人が指導にあたるクラブだ。教員も希望すれば社会人として指導に携わることができる。いずれも学校施設で活動する。生徒は全員部活動に加入するが、クラブは希望者のみで加入率は5割。部活動とは違う競技を選ぶ生徒もいる。指導者は自営業の近隣住民や保護者が多く、運営は保護者が主体となる」(『毎日新聞』2018年1月21日)。
  • 注3:スポーツ庁の資料では、すべて男女別で数値が記載されている。そこでまず、男女別に各都道府県における2017年度の活動時間数から2016年度のそれを差し引いた値を算出し、次に男女の平均をとった。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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