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アレルギー専門医が解説!食物アレルギーと運動によるアナフィラキシーの意外な関係

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【FDEIAとは?食物アレルギーと運動が組み合わさった特殊なアレルギー】

食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)は、特定の食物を摂取した後に運動をすることで、アレルギー反応が引き起こされる特殊な状態です。FDEIAの患者さんは、原因食物を食べただけ、あるいは運動しただけでは症状が出ないのが特徴です。つまり、食物摂取と運動の組み合わせが症状の引き金になるのです。

一般的な食物アレルギーとは異なり、FDEIAでは呼吸困難や血圧低下などの重篤なアナフィラキシーショックを起こすリスクが高いとされています。原因食物は小麦が最も多く報告されていますが、他にも甲殻類、果物、野菜など様々な食品が関与しています。

FDEIAの発症メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、運動による消化管の透過性亢進や、アレルゲンの吸収増加などが関与していると考えられています。また、アスピリンやアルコールなどの薬物が症状を悪化させる可能性も指摘されています。

【皮膚症状に注意!FDEIAの診断と検査】

FDEIAの診断は問診が非常に重要です。原因食物の摂取と運動のタイミング、皮膚症状の有無などを詳しく聞き取ります。皮膚の症状としては、じんましんやそう痒感、皮膚の発赤などが見られます。重症になると呼吸困難や意識消失などを伴うこともあります。

FDEIAでは、アトピー性皮膚炎などのアトピー素因を持つ方が多いことが報告されています。アトピー素因がある方は、皮膚バリア機能が低下しているため、アレルゲンが経皮的に吸収されやすい状態にあります。発汗により経皮吸収がさらに亢進することで、食物アレルゲンの吸収が高まり、症状が誘発されやすくなると考えられています。

確定診断には食物経口負荷試験と運動負荷試験を組み合わせた特殊な検査が必要です。この検査は数日間にわたって行われ、原因食物の摂取量や運動強度、アスピリンやアルコールの影響なども評価します。また、原因アレルゲンに対するIgE抗体の有無を調べる血液検査や皮膚テストも行われます。

FDEIAの診断には専門的な知識と経験が必要であり、これらの検査は専門の医療機関で慎重に行う必要があります。また、検査中にアナフィラキシーが起こるリスクもあるため、十分な準備と対策が欠かせません。

【FDEIAの治療と管理のポイント】

FDEIAの治療は、原因食物の除去と症状出現時の適切な対応が基本です。患者さん自身が原因食物を把握し、食事と運動のタイミングを管理することが大切です。症状の程度に応じて、抗ヒスタミン薬の内服や、アドレナリン自己注射薬(エピペン)の処方も検討します。

また、皮膚バリア機能の維持・向上も症状管理に重要です。保湿剤の使用や、刺激の少ないスキンケアを心がけることで、アレルゲンの経皮吸収を抑えることができます。アトピー素因のある方は、日頃からの適切なスキンケアが特に大切です。

運動については、強度や時間をコントロールし、過度な発汗を避けることが推奨されます。運動前後の水分補給や、温度・湿度の管理なども症状予防に有効です。ただし、個人差が大きいため、専門医と相談しながら、自分に合った管理方法を見つけていくことが大切です。

最近では、経口免疫療法や抗IgE抗体療法など、新しい治療法の研究も進められています。ただし、まだ確立された治療法ではないため、適応については慎重な判断が必要です。

FDEIAはまだ解明されていない部分も多い疾患ですが、アレルギー専門医や皮膚科医との連携により、適切な診断と管理が可能になってきています。疑わしい症状がある方は、早めに専門医に相談することをおすすめします。また、日頃からのセルフケアにも注意を払い、症状の予防と早期発見に努めることが大切です。

参考文献:

Srisuwatchari W, et al. Food-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis: A Distinct Form of Food Allergy—An Updated Review of Diagnostic Approaches and Treatments. Foods 2023, 12, 3768. https://doi.org/10.3390/foods12203768

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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