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マイナー降格オプション権を有する筒香嘉智を敢えて40人枠から外したレイズの厳しい決断

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
レイズの40人枠から外された筒香嘉智選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【筒香選手を40人枠から外したレイズ】

 レイズが現地時間5月11日のヤンキース戦を前に、筒香嘉智選手を40人枠から外す措置(いわゆる「DFA」と呼ばれるもの)を行ったと発表した。

 念のため筒香選手の今後について説明しておくと、筒香選手はDFAにされた時点で、「アウトライト・ウェーバー」と呼ばれるウェーバーに入っている。期間内に手を挙げるチームが現れれば、筒香選手の残りシーズンの年俸を引き継ぐかたちで、獲得希望チームへの移籍が自動的に成立する。

 逆に期間中に獲得チームが現れなかった場合は、筒香選手に2つの選択肢が与えられ、新たにレイズとマイナー契約を結びチームに残留するか、もしくはFAとなり日本を含めた他チームへの移籍を目指すことになる。

 ちなみにウェーバー期間中に移籍先が決まらなかったとしても、今シーズンの筒香選手の年俸はレイズによって保証されるので、他チームからすれば筒香選手がFAになるのを待ってから契約した方が金銭面で得をするため、ウェーバー期間中に手を挙げるチームが現れるのは考えにくい状況にある。

【自慢の打撃は影を潜め長打率は.218】

 今シーズンの筒香選手が極度の打撃不振に陥っていたのは、誰もが知るところだった。

 念願のMLB移籍を果たした昨年は、新型コロナウイルスの影響で活動が中断するなど厳しい調整を強いられ、さらにシーズンも短縮されるなどして、打率.197、8本塁打、24打点と、不本意な打撃に終わっていた。それだけに契約最終年の今シーズンは筒香選手にとって、巻き返しを期すべきシーズンだった。

 だがオープン戦を打率.211で終えシーズン開幕を迎えると、それ以降も打撃不振から抜け出すことができず、打率は常に1割台で推移している状態だった。

 特に深刻だったのが、筒香選手のセールポイントだったはずの長打力だった。打率.197に終わった昨シーズンでも31安打中14本の長打を放ち、長打率は.314だったのに、今シーズンは13安打のうち、長打は二塁打4本のみ。長打率は.218まで下がっていた。

【出場機会を与えられなかったキャッシュ監督】

 当然ながら現在の筒香選手の打撃は、レイズが期待していたものとは大きくかけ離れたものだった。

 オンライン会見で「チャンスを与えながら彼の打撃が上がってこなかったことに驚きは?」との質問に、キャッシュ監督は以下のように答えている。

 「それはある。なぜなら我々は彼がメジャーリーガー(の実力)だと自信を持っていたからだ。

 もちろん文化の違いや新しいリーグなど、彼が立ち向かうチャレンジを理解していたし、ここ1年半のMLB自体も本来の姿ではなかった。彼により良い環境を与えられていればと感じている」

 さらに指揮官は、ここ数週間打撃不振の筒香選手になかなか出場機会、打席数を与えられなかった状況を説明している。

【マイナー降格オプション権を有していた筒香選手】

 実は5月11日に公開した有料記事で、今週末にも故障者リスト入りしている崔志萬選手の復帰が見込まれており、それに伴い崔選手に代わり一塁として起用されてきた筒香選手に、何らかの動きがあるだろうと予測したばかりだった。

 だがレイズは崔選手の復帰を待たずに、決断を下すことになった。しかも自分の予測を上回り、彼らは筒香選手に対しDFAを行ったことに、多少の驚きを感じている。

 というのも、MLB在籍2年目の筒香選手は規約上、チームが彼をマイナーに降格させられる“オプション権”を有していた。つまりレイズは彼を40人枠に残したまま、マイナーに降格させることができていたはずなのだ。

 先週エンジェルスからDFAされた、アルバート・プホルス選手のようなベテラン選手の場合、すでにオプション権を消化してしまっているため、26人枠から外すにはDFAしか選択肢がなかった。

 だがオプション権を有する筒香選手の場合、NPBの「登録抹消」のようなかたちでマイナーに降格し、調整次第でメジャー再昇格できる立場にあったのだ。

 にもかかわらずレイズは、メジャー公式戦に出場するための条件である40人枠から外すことを決めたのだ。チームが今回の措置についてどんな説明をしようとも、この事実は相当に重いものだ。

【レイズ残留は非現実的?】

 ただレイズ番記者の重鎮として知られる、『タンパベイ・タイムズ』紙のマーク・トンプキン記者は、筒香選手の契約には特記事項があり、レイズは本人の承諾を得られなければ、マイナーに降格させられないと報じている。

 仮に今回のDFAが、筒香選手のマイナー降格拒否によるものだとすれば、ウェーバーがクリアになった後で彼がレイズとのマイナー契約を受け入れる可能性は低くなってくるだろう。

 またレイズが筒香選手のオプション権に関係なく、最初からDFAにする決断を下していたとしても、現時点では彼より他の選手をメジャーで起用したいという判断があったからに他ならない。彼がレイズのマイナーからメジャー再昇格を目指すのは、決して簡単ではないことを意味している。

 そうした状況を踏まえると、筒香選手がレイズに残留するという選択肢はかなり現実味が薄れてくるように思う。

 とりあえずウェーバーの結果を待つことになるが、果たして筒香選手はどんな道を選択することになるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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