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「味の素」が瀬戸大也・優佳さん夫婦の「CM動画」を削除した理由~夫婦の「協力義務」と「不倫」の関係

竹内豊行政書士
瀬戸大也・優佳ご夫妻出演の「味の素」CM動画が公式HPから削除されました。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

味の素は、不倫が報じられた競泳男子・瀬戸大也(26=ANA)と元飛び込み選手の優佳夫人(25)が出演しているテレビCM動画「勝ち飯(R)瀬戸選手篇」を、昨日24日、同社の公式サイトから削除しました。瀬戸選手が不倫を認め、謝罪したことを受けた措置と考えられます。

味の素広報部はこの措置について、「今回の事案と照らし合わせ、当該の企業広告を当面、差し控えることを判断いたしました」とコメントしています(コメント引用:不倫報道の瀬戸大也 夫婦出演の「味の素」CM動画が公式HPから削除 東京五輪「2人で戦います」)。

そこで今回は、味の素が、瀬戸ご夫妻出演のCM動画を削除した理由を、民法の観点からアプローチしてみたいと思います。

瀬戸ご夫妻がCMに採用された理由

まずは、瀬戸ご夫妻がCMに採用された理由を民法の観点から推測してみたいと思います。

結婚すると発生する「同居協力扶助義務」(民法752条)

結婚すると、夫婦は同居し、互いに協力し扶助し合わなければなりません(民法752条)

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力扶助しなければならない。

本条は、夫婦には同居し、相互に協力し、扶助する義務があるとしています。夫婦は精神的・肉体的・経済的な共同体を形成することになるから、一般に法制度としての婚姻(結婚)制度には、夫婦に共同体の維持・継続に努める義務があるとの規定が用意されることになります。

この同居協力扶養義務は、婚姻共同生活を維持する基本的な義務とされています。

本条は、同居・協力・扶助を法律上の義務としているから、義務違反がある場合には、離婚原因や慰謝料等の損害賠償請求の原因になりうると解されています。

では、同居・協力・扶助それぞれについて見てみましょう。

同居義務

本条にいう「同居」は、夫婦としての同居を指し、単に場所的な同居を意味するわけではありません。その結果、同じ家に住んでいても障壁を設けて生活を別にするのは同居ではないとされる一方、場所的に隔たっていても同居は成立しうるとされています。したがって、単身赴任による職業上の理由、入院治療などの正当な理由があれば、一時的に別居することは同居義務違反にはならないとされています。

協力義務

婚姻生活は、夫婦のそれぞれが協力することによって維持されるべきものです。本条は、憲法24条1項の要請に応えて、夫婦の協力義務を婚姻の本質的義務として規定しました。

憲法24条1項

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

ここでいう協力義務とは、広く一般的には、夫婦が婚姻生活を維持・発展させるために互いに誠実に協力し、努力する義務であり、夫婦の共同関係を支える権利義務(同居義務、扶助義務、婚姻費用分担義務、日常家事債務の連帯責任など)の基礎になっています。

もっとも、協力義務自体は、抽象的・観念的色彩の強いものです。そのため、具体的な協力の内容は、夫婦それぞれの職業、資産、社会的立場など一切の事情を考慮して個別に決定するほかありません。

このように、協力義務の内容は各当事者の事情によって異なります。具体的には、日常生活の維持、病者の看護、子の養育などあらゆるものが含まれます。

扶助義務

本条は、夫婦は互いに扶助(経済的に助けること)しなければならないとします。ここにいう扶助義務は、夫婦の共同生活に必要な衣食住の資を供与しあう義務です。また、本条の扶助義務として求められる扶助の程度は、相手の生活を自分の生活と同一の内容・程度のものとして保持する義務(生活保持義務)とされています。

したがって、扶助義務とは、相互的な経済的援助を意味します。夫婦は同居して共同生活をするため、相手方が要扶養状態に陥った場合には、相手方の生活を自己の生活と同じように保持する義務があります。

CM動画で流されていた内容

削除されたCM動画は以下のようなものでした。

CMでは、優佳夫人が「山盛りキャベツの絶品豚汁」などを料理。「味の素の栄養プログラム『勝ち飯』で学んだこと」(男性ナレーション)に対し、優佳夫人は「頑張る人のサポートができるっていうのは本当に幸せだなって思います」(ナレーション)。「チーム瀬戸、という家族。」のテロップの後、夫妻が笑顔で食事する映像に「東京2020オリンピック。2人で戦います」(優佳夫人ナレーション)。最後はプールの瀬戸が「勝つ飯」と言い、「おいしさと、栄養と、ふたりで、勝つ」のテロップが表示される。

出典:不倫報道の瀬戸大也 夫婦出演の「味の素」CM動画が公式HPから削除 東京五輪「2人で戦います」

お二人は2017年5月24日、瀬戸選手の23歳の誕生日に婚姻届を提出しました。優佳さんは22歳でした。同年11月、優佳さんは全力で彼を支えたいと、自身の水泳飛び込みの競技人生に終止符を打ちました。

優佳さんは結婚後、料理の勉強をしてアスリートフードマイスターの資格を取得。トップアスリートである瀬戸選手を食の面でも支えています。

また、雑誌のインタビューで次のように語っています。

「子育てでイライラしても、彼に愚痴らない。ちょっとしたことで言い合いになるのも、主人の目標の邪魔。大事な今、より寛大な心でいることを心がけています」

出典:瀬戸大也の妻・優佳さん 22歳結婚で誓った「夫に金メダルを!」

このように、優佳夫人は、夫の東京五輪での金メダル獲得という目標実現のために精神面においても協力しています(以上引用・参考「瀬戸大也の妻・優佳さん 22歳結婚で誓った「夫に金メダルを!」

夫は金メダル獲得に向けて邁進し、妻は夫の目標実現に全面的に協力するという、まさに、民法が掲げる「協力義務」を体現しているご夫婦です。

味の素が瀬戸ご夫婦をCMに採用した理由の一つに、この協力義務を真摯に遂行している姿があったことはほぼ間違いでしょう。

「不貞行為」は離婚原因になる

一方、民法は、今回瀬戸選手がしてしまった不倫、すなわち「不貞行為」(配偶者以外の者と性的関係を持つこと)は、離婚原因の一つに規定しています。

民法770条(裁判上の離婚)

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

「不貞」とは、夫婦の一方が、自分の意思で配偶者以外の者と性的関係を持つことと解されています。

このように、瀬戸選手が行ってしまった不貞行為は、離婚原因の一つです。つまり、婚姻の本質的義務である協力義務を根底からくつがえしてしまう行為なのです。したがって、味の素がCM動画を削除したことはある意味当然の成り行きと考えられます。

このように、不貞行為の代償は夫婦間の問題を超えて、仕事の面など社会的な損失につながることもありえます。配偶者をお持ちの方は、このことをくれぐれもお忘れなく。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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