“リアル桜木花道”晴山ケビンがバスケ人生初のキャプテン就任で新たに得ようとしているもの
【人生初のキャプテンを務めるリアル桜木花道】
いよいよ映画『THE FIRST SLAM DUNK』の劇場公開が来週末に迫り、再び井上雄彦ワールドが日本(世界?)を席巻しようとしている。
そんな中、かつて“リアル桜木花道”と称されたバスケ選手が現在もBリーグで活躍し、しかも今シーズンからバスケ人生初のキャプテンを務めていることをご存知だろうか。
昨シーズンから富山グラウジーズに所属する晴山ケビン選手が、その人物だ。彼は桜木花道同様に高校からバスケを始め、インターハイ出場を果たした後、名門東海大学に進学。さらに卒業後はNBLの強豪、東芝ブレイブサンダース神奈川(現・川崎ブレイブサンダース)入りを果たすというエリート街道を歩んできた選手だ。
2016年にBリーグが発足して以降も、川崎→京都ハンナリーズ→千葉ジェッツ→滋賀レイクスターズ(現・滋賀レイクス)→富山と、ずっと1部リーグに相当するB1チームに在籍し続けている。
そして今シーズンは、京都時代の恩師であった浜口炎HCからキャプテンに任命されたのだ。
【軽いノリで引き受けたもののすぐに重責だと理解】
先週末大阪遠征にやってきた晴山選手に確認すると、今シーズンの新体制が始まった時点で、浜口HCからチームの大黒柱であるジョシュア・スミス選手との2人体制によるキャプテンを打診されたという。
バスケ人生初の大役ではあったものの軽いノリで引き受けてしまったのだが、後になって予想を上回るような重責であることを知ることになった。
「最初は『全然良いですよ』って軽い感じで受け入れましたが、いざ(キャプテンとして)始まってみると、すぐに心境はまったく変わりました。
試合の勝敗というよりも、キャプテンの仕事ってチームによって変わりますし、ヘッドコーチによって変わりますし、選手間によってキャプテンという立場と、中堅もしくはベテランという立場というのもある、さらに先輩からいろいろ教えてもらうこともあったりとか、凄くゴチャゴチャと融合した上でのキャプテンという存在を完全に舐めていました。
キャプテンの仕事を自分で決めなきゃならない時もあれば、(周りから)求められる時もあります。特に若い子たちは僕の一言を待っていることが多々あるので、まだシーズン序盤ですけど良い経験させてもらっているシーズンだなって感じています」
すでに晴山選手もBリーグ在籍7年目の29歳だ。これまでも中堅もしくはベテラン選手として若手選手や年上ベテラン選手たちと接してきたが、キャプテンという立場になるとまったく別物であることに気づかされ、今はキャプテン修行する日々を過ごしているようだ。
【浜口HC「チームみんなを引きつける接着剤になれる選手」】
一方で晴山選手をキャプテンに指名した浜口HCは、ここまで晴山選手に及第点を与える評価をしている。
「彼は明るくてチームみんなを引きつけるグルー(接着剤)になれる選手なので、そこが彼の良さだと思っています。
勝てない時はかなりダウンして大変だったんですけど、いろいろコミュニケーションをとりながら、彼からも積極的にコーチ陣に話しかけてくれるので、いい方向に向かいながらしっかりやってくれていると思いますし、ジョシュと2人で責任感を持ってやって欲しいなと思っています」
【落ち込んでいた晴山選手を救った夫人の言葉】
浜口HCが説明するように、シーズン開幕からチームが勝てない状況が続く中、責任感の強さもあり晴山選手は相当に落ち込んでしまったという。そんな彼を救ってくれたのが夫人だったようだ。
「周りの人からそれほど考えすぎるなと言われて…。特に妻にはそういったことをよく相談していて、『元々考えすぎてしまうタイプでキャプテンなんて無理なんだから、もっと去年みたいに1人のBリーガーとしてプレーした方が自分らしいと思うし、今までのプレーを見て炎さんはキャプテンに指名してくれたんだから、何かキャプテンとして新しいことをするというよりも、今までと同じことをしてチームを引っ張っていけばいいんじゃない』と言ってもらえて、ある意味救われました。
後から炎さんにも妻の話をしたら、『本当にその通りだよ。素晴らしいヘッドコーチだよ』って言われましたね(笑)」
【晴山選手だから成し得る理想のキャプテン像とは?】
そうした苦悩を経ながら、現在の晴山選手はどんなキャプテンを目指そうとしているのだろうか。
「常に平常心というか、高いインテンシティを保ちつつ、チームを引っ張っていける…。声かけもそうですけど、プレーでも引っ張っていければ僕の(理想とする)キャプテン像に近づいていけると思っています。
常にチームを鼓舞したり、(チームとして盛り上がる時は)一番初めにベンチから立ち上がったり、コートに立ったら一番初めにルーズボールに飛び込んだりだとか、そういった姿をチームに見せることしかできないです。
僕は1on1が得意なわけではないですし、得点を挙げて引っ張っていくというタイプでもないので、スタッツにのらないような泥臭いプレーでチームを鼓舞できればなと思っています。
例えば1つのオフェンスリバウンドでチームが盛り上がれるのなら、(身体に)傷がつこうが何だろうが果敢に飛び込んだりとかで、チームの士気を上げられるようなキャプテンを目指していきたいです」
ここまで富山は3勝8敗と苦戦が続き、中地区7位に沈んでいる。だが8敗のうち5試合が6点差以内で破れるという接戦を続けており、決して他チームと大きな実力差があるわけではない。
そうした現在のチーム状況も、まるで「キャプテンの仕事はチームによって変わる」と話してくれた晴山選手の心境を反映しているかのようだ。
今後晴山選手が理想とするキャプテン像に近づけば近づくほど、富山は躍進していくことになりそうな予感がしてならない。