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『孤独のグルメ』を継ぐテレ東深夜からの看板シリーズ候補。『晩酌の流儀』と女性が主人公のもう1作

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「晩酌の流儀」製作委員会

 テレビ東京の深夜ドラマ『晩酌の流儀3』が今週で最終回を迎える。と言っても“おしまい”感は薄い。2022年の第1作からシーズン2、3と毎年続き、たぶん4、5……と作られていきそうな気配がする。『孤独のグルメ』の後継的なシリーズになるのだろうか。

大晦日スペシャルに開局60周年の映画版も

 もはや説明不要だが、『孤独のグルメ』は松重豊が演じる輸入雑貨商・井之頭五郎が、商用で訪れた街で立ち寄った店で1人で食事をするストーリー。実在の店で実際に出している料理を、軽妙なモノローグをかぶせながら味わうグルメドキュメンタリードラマだ。

 原作・久住昌彦のマンガを2012年1月クールに初めてドラマ化。松重の初主演作で、訪れるのは大衆的な飲食店。全編ロケで1本200万円程度と伝えられる低予算ながら、おいしそうな料理と食べっぷりで「夜食テロ」と呼ばれ、人気をジワジワと高めていった。

 同年10月には早くもシーズン2、翌年7月にはシーズン3……とシリーズ化され、2022年の10作目まで作られている。2017年からは毎年、NHKの『紅白歌合戦』の裏で22時からの90分、「大晦日スペシャル」も放送。

 10月4日からは、テレビ東京開局60周年連続ドラマとして特別編『それぞれの孤独のグルメ』がスタート。五郎だけでなく、毎回異なる主人公が登場するという。さらに来年1月10日には、松重が監督・主演・脚本を務める『劇映画 孤独のグルメ』が公開。DVDの売り上げや海外も含めた配信も堅調で、看板番組であり収益的にも優良コンテンツとなっている。

 松重は映画の発表会見で「必要とされればどこまでも」と話していたが、現在61歳。毎回かなり食べる役を、いつまでもできるものでもないだろう。

栗山千明が肴も自ら作り最高の宅飲みを

 そんな中、深夜ドラマ枠の多いテレビ東京では、シリーズ化して第二の『孤独のグルメ』となり得る作品を模索している節がある。その候補となってそうなのが『晩酌の流儀』だ。主人公は栗山千明が演じる不動産会社の営業担当・伊澤美幸。

 仕事はできるが必ず定時に退社し、1日の終わりに最高においしい酒を飲むことに全力を注ぐ。ジムやサウナで汗を流したりもしながら、近所のスーパーや商店街で安上がりな食材を買って、酒の肴も自ら作る。それまでは何があっても、酒類は1滴も口にしない。

 自宅での調理シーンからモノローグが入り、ビールを飲みながら食事をしていく。『孤独のグルメ』の五郎が下戸なのに対し、美幸は晩酌ということで酒と料理をセットで楽しむ。そして、店でなく宅飲み。描写的にはクライマックスではモノローグが入らず、音楽に乗せて栗山の飲みっぷり、食べっぷりを見せている。

オフィシャルブックにレシピも収録

 第1作は2022年7月にスタート。同年の12月30日深夜には「年末スペシャル」も作られた。そして、2023年にシーズン2、2024年にシーズン3と、いずれも7月クールに放送。今回はディアボラ風チキン、カレーフォンデュ、サーモンしゃぶしゃぶといったメニューが登場した。

 今月17日にはオフィシャルブックを発売。栗山らのキャストインタビューや、劇中のおつまみレシピなどが収録されている。番組にはサントリーが特別協力として名を連ね、美幸が毎回、同社の「金麦」を飲んでいる。CMかと見まがうこともあるが、事業的には大きなコラボレーションなのだろう。

 テレビ東京の得意なグルメもので、SNS で「#晩酌の流儀」と自らの晩酌を投稿する視聴者も多く、新たな定番シリーズに育ちつつある。

 より以前から続くシリーズものでは、BSテレビ東京での放送だが、『ワカコ酒』がある。武田梨奈が演じる呑兵衛のOL・村崎ワカコが様々な店でひとり飲みを楽しむ。新久千映のマンガが原作で、2015年から2023年にわたりシーズン7まで制作。シーズン1~3は地上波のテレビ東京でも放送されていた。

 至福を味わったワカコが「ぷしゅー」と吐息を漏らすのが定番。もともとBSテレ東初の連続ドラマだった。女性の『酒場放浪記』的なひとり飲みは増えてはいるのだろうが、『孤独のグルメ』ほどの広がりを狙うより、実験作的な試みだったようだ。

早くもシーズン4の『ソロ活女子のススメ』

 グルメドラマではないが、シリーズ化が急ピッチだったのが『ソロ活女子のススメ』だ。江口のり子主演で2021年に第1作がスタート。以来、毎年の4月クールに放送され、今年のシーズン4まで続いている。

 フリーライターの朝井麻由美のエッセイが原案。江口が演じる出版社の契約社員・五月女恵がソロ焼肉、ソロ遊園地、ソロ気球、ソロサバゲ―など、興味の向くままに足を運ぶ。ソロ屋形船、ソロ巨大迷路など、女性ならずともハードルが高そうなソロ活も出てくるが、観ていて背中を押される物語でもある。

 ソロバーベキューでは道具が重く、着火の仕方もわからずで失敗した過去も。だが、隣にいたグループの男性に教わり、「火のつけ方も知らないで1人でバーベキューなんて、リスペクト」と言われ、「自分の生き方を認めてもらった気がして……」と涙ぐみ、再挑戦でリベンジを果たした。

大作ではないがホッとする作風は貫かれて

 シーズン4はテレビ東京と中華電信の共同制作。初回から台湾ロケの海外ソロ活が3話にわたって放送された。この深夜ドラマにかなり力が入っていることがうかがえる。グルメ、紀行、カルチャー、レジャーなど幅広いテーマを繰り出せるのも強みだ。

 『晩酌の流儀』と共にシリーズはまだまだ続きそうだが、深夜から『孤独のグルメ』ほどの看板番組になるか、注目されるところだ。テレビ東京らしく、大作ではないが1日の終わりにホッと楽しめる作風は貫かれている。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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