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長友佑都・酒井宏樹の後継SBは? 板倉滉と最終ラインの軸を担うCBは?【W杯へ新戦力を探る 守備編】

元川悦子スポーツジャーナリスト
長友佑都の後継者筆頭と目されるバングーナガンデ佳史扶(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

ガラリと変わった最終ラインの顔ぶれ

 長友佑都(FC東京)、吉田麻也(シャルケ)、酒井宏樹(浦和)という日本代表の最終ラインを長年、支えてきた大ベテランを軒並み外した新生・日本代表の3月初陣シリーズ。彼らの後継者を見出せるかどうかは、2026年北中米ワールドカップ(W杯)8強入りを目指す日本にとって非常に重要な命題と言える。

 3月のウルグアイ・コロンビア戦を振り返ると、最終ラインの軸を担ったのは、2022年カタールW杯の主力・板倉滉(ボルシアMG)。2戦目にはキャプテンマークを巻いてチームを統率。誰もが認める新チームのリーダーの1人という印象を残した。

 その板倉とセンターバック(CB)コンビを組んだのが、瀬古歩夢(グラスホッパー)と伊藤洋輝(シュツットガルト)。瀬古はウルグアイ戦、伊藤はウルグアイ・コロンビア2戦に先発。欧州でコンスタントにプレーしている実績と経験を生かして物怖じしないパフォーマンスを披露した。追加招集された町田浩樹(サンジロワーズ)、藤井陽也(名古屋)は出番なしに終わったが、新たな競争がスタートしたのは確かだ。

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伊藤洋輝と瀬古歩夢が序列上位に

 CBに関しては、2018年夏の第1次森保ジャパンの発足時から主力の冨安健洋(アーセナル)がいるが、ご存じの通り、彼は近年ケガを繰り返している。2026年W杯に向けて板倉・冨安のコンビを中心にチーム作りを進めたいと考えたであろう森保監督にとっては大きな誤算だったはず。冨安に頼らない陣容を構築するためにも、瀬古と伊藤をトライしたことは収穫。2人はCB序列の上位につけたと見ていいだろう。

左SB兼任の伊藤洋輝は起用の幅が広い選手だ
左SB兼任の伊藤洋輝は起用の幅が広い選手だ写真:森田直樹/アフロスポーツ

 そこに続くのが町田。2~3月はケガで所属先の試合に出られなかったが、4月16日のセラン戦で先発復帰。23日のレギュラーシーズン終了後の上位プレーオフではさらなる躍進が期待される。

 国内に目を向けると、やはり光るのが藤井。名古屋アカデミー出身で「吉田の系譜を継ぐ男」と目される男は最近のJリーグで抜群の安定感を示していて、見通しは明るい。前回の代表をケガで棒に振った角田涼太朗(横浜)もまずまずのパフォーマンスを維持しているし、U-20日本代表世代の田中隼人(柏)なども興味深い人材。激化する競争の中、誰が抜け出すかを慎重に見極めたいところだ。

菅原由勢が一歩リードの右SB。左SBはどうなる?

 有望株が並ぶCBに比べると、SBはやや不足気味。それでも右は、ウルグアイ・コロンビア2戦でスタメン出場した菅原由勢(AZ)がインパクトを残し、ベルギーで定位置を勝ち得ている橋岡大樹(シントトロイデン)も猛然と追走中ということで、希望が持てる環境にはある。

オランダで4シーズンを過ごし、逞しさを増した菅原由勢
オランダで4シーズンを過ごし、逞しさを増した菅原由勢写真:森田直樹/アフロスポーツ

 だが、左SBはまだ未知数と言わざるを得ない。コロンビア戦で初キャップを飾ったバングーナガンデ佳史扶(FC東京)は長友から才能に太鼓判を押されるレフティだが、その後はケガで戦線離脱中。国際Aマッチ1試合に出ただけではまだ何とも言えない部分がある。

 その他の候補である中山雄太(ハダ―スフィールド)、伊藤、角田、町田はみなCB・SB兼務型だ。3月シリーズに選外となり物議を醸した旗手怜央(セルティック)もこのポジションができるマルチプレーヤーだが、できれば左SBのスペシャリストがほしいところ。攻守両面で1対1の強さがあり、走れてハードワークでき、世界の大舞台で戦える選手が思うように出現しないからこそ、過去15年間も長友が第一線を走り続けることになったのだ。

 だからこそ、次の3年間は新たな左SBの看板選手を本気で育てなければならない。森保監督とともにドーハの悲劇を経験した名左SBの都並敏史氏(浦安監督)も「SBにはポジション特性があります。例えばクロスだったらタイミングをズラして上げ切るとか、抜いてカットインしてから上げるとか、いろんなプレーを身につけないといけない。守備にしても中への絞りやカバーリングなどをスムーズにやらないとダメ」と話していたが、それを徹底的に叩き込んできたSB専門プレーヤーがぜひとも出てきてほしい。

 4月22日のサンフレッチェ広島戦で実戦復帰したバングーナガンデがこの先、どういったパフォーマンスを見せるのか次第ではあるが、思い切って彼を育てるという選択肢が一番早いかもしれない。そのあたりを森保監督はどう考えるのか。注目したい。

長友佑都(左から2人目)の存在感が大きかった分、後継者探しは大変だ
長友佑都(左から2人目)の存在感が大きかった分、後継者探しは大変だ写真:森田直樹/アフロスポーツ

GKはシュミットがけん引。パリ世代の鈴木彩艶も注目

 GKに関しては、シュミット・ダニエル(シントトロイデン)にハイレベルの経験を積ませたいという指揮官の思惑が見て取れる。本人も「カタールW杯に行ったのに、2026年W杯の試合に出られなかったら意味がない」とかつてないほどの闘志を燃やしている。目下、欧州でコンスタントに試合に出ているのはシュミットと中村航輔(ポルティモネンセ)だけ。シュミットの方が欧州プレー期間が長く、それだけ国際経験値も高い。そういう意味では彼がファーストチョイスというのには多くの人も同意するのではないか。

 ただ、その後ろには東京五輪世代の大迫敬介(広島)や谷晃生(G大阪)、パリ世代の鈴木彩艶(浦和)が控えている。特に鈴木は森保監督が「3月のU-22日本代表の試合で彩艶は何度もピンチを止めていた。うまく強い相手に対しても、技術的・フィジカル的にも非常にいいプレーをしていた」と絶賛するほど評価を上げている。今は浦和レッズで西川周作という百戦錬磨の守護神から定位置を奪えていない状況だが、それが実現すれば、代表での序列も急上昇する可能性もないとは言えない。今季Jリーグでの鈴木彩艶の動向が3年後のW杯を左右すると言っても過言ではなさそうだ。

鈴木彩艶は浦和レッズで定位置を確保するところから全てが始まる
鈴木彩艶は浦和レッズで定位置を確保するところから全てが始まる写真:なかしまだいすけ/アフロ

ボランチは田中碧の負傷で陣容が変わるのか?

 そしてもう1つのポジションであるボランチだが、田中碧(デュッセルドルフ)の長期離脱という残念なニュースが飛び込んできて、今後の人選にも影響を及ぼしそうだ。

 目下の陣容は遠藤航(シュツットガルト)、守田英正(スポルティング・リスボン)がベースで、鎌田大地(フランクフルト)も2列目との兼務ということになっているが、田中碧もグループには確実に入っていた。その彼の復帰がいつなのか、来季のプレー先がどうなるのか次第では、違った人材が入ってくるかもしれない。

 可能性のある若手筆頭と言えるのが、パリ世代でU-20日本代表でもある松木玖生(FC東京)。3月のAFC・U-20アジアカップでキャプテンマークを巻き、2ゴールをマークするなど強靭なメンタルと勝負強さを示した19歳の若武者は長友や香川真司(C大阪)も注目する逸材。デュエルの強さ、ボール奪取能力も高い。こういう選手は早くA代表に入れて環境に慣れさせたいところ。もちろん今後の海外移籍の動向にもよるが、期待値は非常に高い。

2003年生まれの松木玖生は5月開幕のU-20W杯での活躍が今後の浮上のカギになる
2003年生まれの松木玖生は5月開幕のU-20W杯での活躍が今後の浮上のカギになる写真:ムツ・カワモリ/アフロ

 もう1人、候補として押したいのが岩田智輝(セルティック)。2019年コパアメリカや2022年E-1選手権などでA代表経験がある昨季JリーグMVPだ。今年1月にスコットランドに赴き、最初はなかなか試合に出られなかったが、徐々に出番を増やし、アンカーとインサイドハーフでもプレー。選手としての幅を広げている。すでに26歳で年齢的には若くはないが、計算できる人材なのは間違いない。25歳を過ぎて急成長した伊東純也(スタッド・ランス)のようなケースもあり得るだけに、そういう新戦力に目を向けることも必要である。

 3年後の大舞台でピッチに立っている守備陣は果たして誰なのか…。それは日本のW杯成否、8強入りを左右する重要テーマだ。

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スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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