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「世の中、全てがネタフリ」桂文珍が明かす“今の芸人の遊び方”

中西正男芸能記者
芸歴50周年を迎えた桂文珍

 芸歴50周年を迎えた落語家・桂文珍さん(71)。時代を盛り込むセンスで常に爆笑を呼ぶ高座は芸人仲間からも一目置かれていますが「芸歴50周年記念 桂文珍 国立劇場20日間独演会」(東京・国立劇場大劇場、2月28日~3月8日、3月15日~3月24日)に挑みます。17本のレギュラー番組を抱える時代も経験した上で、落語へと原点回帰。50年の道のりにはあらゆる要素が詰まっていますが「世の中、全てネタフリです」と持論を展開しました。

人気はあるが実力がない

 2010年に10日間続けて独演会というのを同じ国立劇場でやったんです。ただ、その時は「もう、こういう無茶なことは二度とせんとこ…」と思ってたんですけど(笑)、2年、3年と経っていくと、ふつふつとまたやりたいなぁと思い始めまして。

 2010年に10日。それやったら、2020年やし20日というのがエエんちゃうかなと。今年は東京五輪もあるし、オリンピックはアスリートが限界に挑戦してメダルを目指しはりますけど、おしゃべりのアスリートとしても(笑)、何か表現出来たら面白いんじゃないかと。「高みを目指して頑張りたい」。エエように言うたら、ま、そういうことですな。

 50年にもなりますので、落語家としてはいよいよ正念場だと思います。そして、ここまでを振り返ると、いろいろな大変な時期もありました。

 入門してすぐの頃は、お金もないし、それはそれで大変でした。ただ、ま、この大変さは当然というか、当たり前の大変さです。そこより更に大変なのは、人気はあって実力がなかった頃。あの頃はホンマに大変でした。

 45年ほど前「ヤングおー!おー!」(MBSテレビ)に出だした頃ですな。視聴率が40%を超えてましたからね。そら、そこに毎週出てたら、人気は出ますわね。ある日突然、いきなり「ワーッ!」と言われるわけです。

 でも、自分に芸の力がないのは自分が一番知っています。グループ(ザ・パンダ)でやってるけど、自分のやりたいこととはちょっと違う。どうしたもんやろと。

 そこで、シンプルな話ですけど、少しずつの積み重ねですね。お寺を借りたり、消防署の二階を借りたりしながら、自分で勉強会をやったり、しっかりと落語をする機会を増やす。そうすると、だんだん力はついてきます。ただね、その頃になると人気が落ちてきますねん。面白いもんですわね(笑)。

 逆に、今度はこっちの自信はあるんです。でも、人気がない。それまでは、人気言うても、自分でどうこうしたもんやなく、そういう場にいたからこそ出たもんですから。自分で人気の出し方みたいなもんは考えたことがない。

 なので、また、そこで考えるんです。何とか、以前より力はつけたけど、それを皆さんにどう知ってもらうか。

 そこで考えたのが“パッケージを変えてみる”ことでした。髪の毛をとがらせてみたり、シンセサイザーを使ってみたり。きちんとした商品は売ってるはずやから、あとは“こっちを向いてもらう”。そのための努力をした記憶はありますね(笑)。

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潰れんものを大事にする

 そこから、落語家としていろいろな場に出していただけるようになりまして。そうなると、また人気が出てくるんです。番組が増えていって、東西で16本か17本ほどやらせてもらって、もうフラフラになって。

 そんな中で「サンデー毎日」さんの対談コーナーをさせてもらってまして、そこで藤山寛美さんにお会いしたんです。

 「キミ、忙しそうやな。レギュラー、何本やってんねん?」と聞かれまして「16~17本やってまして」と答えました。

 言い終わった瞬間、どこかで「すごいな!」と誉めてくださることをイメージしてた自分もいたんですけど、すぐに言われました。

 「そら、アカンわ!そんなん、早く辞め!全部なくなるで。今こそ、芸をしっかりやらな」とお続けになりました。

 「番組というのは、そういうもんやで。そこでご飯を食べようと思っても、そんなん、もたんで。早いうちに自分の芸を積み重ねていかんと。お客さまを前にして、ライブで稼げるように、笑いをとれるようにせなアカンで」

 この時の言葉がすごく残りまして。そこから「そうや、オレは元々落語で飯が食いたいと思ってたのに、いつの間にかテレビでばっかり飯を食うてた」と思うようになって、だったら、落語に重心を移していこうと。

 そこからまた、阪神淡路大震災がありまして。それで家が潰れた。いろいろ考えました。潰れんもんを大事にしようと。健康とか絆とかいろいろありますけど、まず芸やと。芸は地震では潰れん。そんな感じで50年、気づいたら今日まで来ましたね。

今の時代の遊び方

 50年で、世の中もいろいろ変わりました。とても息苦しい時代にも思えます。アレをしてはいけない、コレをしてはいけない。つまり、あまり“遊び”が許されないというか、ガチガチのハンドルで決まったレーンを走りなさいみたいな。

 昔は芸人、お笑いというのは、社会の中で認められていないセクションの人々でしたから、何をしてもいいという感じでした。でも、今はそうではない。非常に高い社会性を求められています。

 ましてや、私ども吉本興業でいうと、笑いにおけるリーディングカンパニーというものまで求められもします。

 ま、リアルな世界では勘案すべきところがありますが、我々の表現しているものはフィクションですから。そこで皆さんに楽しんでいただくのがエンターテインメント。それがショービジネスです。

 ショーの部分とビジネスの部分とをしっかり見据えながらやっていくという、そういう時代にもちろん入ってるし、今やからこその遊び方もあると思うんです。

 息苦しい時代や言われますけど、フィクションで遊べばいいんです。実際に起こっていること、リアルに存在しているもの。これは“ネタフリ”ですわ。

 ニュースなんて、全部ネタフリです。そこから遊べばエエんです。起こしている当人は気づいてらっしゃらないだけで、日々、あらゆる人がこれでもかとネタをフッてくれてはるんですよ。しかも、オチはつけずに(笑)。

 少し前になりますけど、ゴーンさんが逃げたのも、あんなん綺麗なフリですから。あそこからナンボでも遊べるんですよ。

 もちろん、ニュースでも笑ってもらうというゴールに合致するもの、合致しないものがあります。そこはしっかりと見極めないといけませんけど、無限にフリはあるんです。

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(撮影・中西正男)

■桂文珍(かつら・ぶんちん)

1948年12月10日生まれ。兵庫県出身。本名・西田勤。吉本興業所属。69年、三代目桂小文枝(後の五代目桂文枝)に入門。74年にMBSテレビ「ヤングおー!おー!」の落語家ユニット「ザ・パンダ」(月亭八方、桂きん枝、故林家小染さん)に参加、アイドル的な人気を得る。一時期は17本のレギュラー番組を抱えるが、故藤山寛美さんの助言などもあり、落語の世界へと軸足を移す。芸歴50周年を記念し「桂文珍 国立劇場20日間独演会」(東京・国立劇場大劇場、2月28日~3月8日、3月15日~3月24日)を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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