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羽生善治九段(52)白熱の終盤を制し王将リーグ2連勝! 糸谷哲郎八段(34)に勝利

松本博文将棋ライター

 10月7日。東京・将棋会館において第72期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ▲糸谷哲郎八段(34歳)-△羽生善治九段(52歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時51分に終局。結果は124手で羽生九段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は、羽生九段は2連勝。糸谷八段は2連敗となりました。

羽生九段、今期リーグ快走

 糸谷八段先手で、戦型は角換わり。糸谷八段は端1筋を突き越します。

糸谷「ちょっとどうだったかわからないですけど、難しい将棋かなと思って。こっちもゆったりしてると端が活きてくるかなというので、どこで仕掛けられるかなという展開だったですかね」

 羽生九段は積極的に、手早く中段に桂を跳ねていきました。

羽生「形にもよるんですけど、昨年の将棋(王将戦リーグ、広瀬章人八段戦)をちょっと土台にして、こういう手もあるのかなと思ってやっていました。たぶんいい勝負だと思うんですけど、リスクのある手ではあるので、思い切ってやってみたというところですかね」

糸谷「どこまで研究されてるのかもちょっとわからなくて。たしかこんな形かな、と思ったんですけど。小さいところは自分は全然わからずやってました」

 羽生九段は端9筋から動いていきます。

羽生「ちょっとほかの手が見えなかったんで、思い切ってやってみたんですけど。ただいろいろ反撃の筋があるんで。よくわからなかったというのが実感ですかね」

糸谷「どうだったんでしょう。難しくて。本譜でダメなら仕方ないかと思ってやっていたんですけど。ちょっとほかの手が思い浮かばなかったということはあってやっているので。ちょっと消極的でしたか」

 羽生九段は9筋で香を交換。持駒となった香を8筋に据え、糸谷陣左辺を突破していきます。羽生九段の攻めが成功したようですが、糸谷八段は玉を右辺に逃げ、粘り強い指し回しで応じ、決め手を与えません。羽生九段も自信の持てない進行だったようです。

羽生「(77手目)▲4八玉寄られて、いろいろ考えたんですけど、なんかちょっと苦しいんじゃないかと思ってやっていました。とにかく勝負手気味の手で、まぎれを求めにいってる感じですね」

 糸谷八段は機を見て反撃に転じ、熱い終盤に入りました。糸谷八段もまた、自信が持てなかったようです。

糸谷「ちょっと一手一手がなにも見えていなくて。形勢もよくわからなかったんですけども、手が見えなかったので。本譜はちょっともたれて指している感じなんですけど。どうでしたかね。本当にちょっと全然わからなかったです。わるくても全然不思議はない」「終盤全然手が見えてなくて。いや、どうなんですかね。全然わからなかったです。(90手目、王手の)△3六歩のあたり、(92手目、羽生九段が自陣に龍を引きつける)△9一龍のところはどうにか、なんかひとつぐらい筋はあってほしかったんですけど。ちょっとどうだったですかね。いや、わかんなかったんですけど」

 終盤は勝敗不明。そしてついに糸谷八段有望と見られる局面が現れました。

 108手目まで進んだ時点で、羽生九段は4時間の持ち時間を使い切って、あとは一分将棋。対して糸谷八段は残り7分。

 糸谷八段は1分考えて109手目、羽生玉の逃げ道をふさぐ桂を打ちます。結果的には、この手が敗着となったようですが、次の羽生九段の返し技が見事だったというべきなのでしょう。

糸谷「▲4五桂がだいぶよくなかったんじゃないかな、と思って。いやちょっと、その前も全然見えてないので。△3五桂▲同飛△同角の筋を軽視してましたね」

 110手目。羽生九段は自陣の桂を跳ねます。壁の奥、端1筋に用意されていた隠し部屋への道が開け、羽生玉はきわどくつかまらない形になりました。

 118手目。羽生九段は自陣に引き上げていた龍を、相手の攻め駒の金にぶつけます。これが攻防の決め手となりました。

羽生「最後までちょっと足りないんじゃないかなと思いながら、ずっと指してはいたんですけど。まあでもそうですね、△3一龍回る形になって、金気(かなけ=金銀のこと)が入って向こう、詰む形になったんで、初めてそこでそうですね、『もしかして』と思いました」

 羽生九段は受けの主力であった龍と相手の金を刺し違え、持駒に金を加えることで、糸谷玉をきれいな即詰みに討ち取りました。

羽生「序盤からなんかよくわからない・・・。終始難しかったような気がします。ちょっと細かいところは調べてみないとわからないですけど。ずっとはっきりしないような将棋だった気がしますね」「まだまだ先は長いんで、一局ずつ大切に指していけたらと思います」

 藤井聡太王将への挑戦権獲得に向けて、リーグを快走中の羽生九段。次戦は近藤誠也七段と対戦します。

 糸谷八段は王将リーグ3期を通じて、10連敗となりました。他棋戦でのコンスタントな成績を見れば、黒星が集まっている感もあります。また一方で、このリーグの厳しさを物語るものでもあるでしょう。

糸谷「いやちょっと勝ち負けじゃなくて、状態がわるすぎるので、とりあえずちょっとあの、プロの将棋を指さなきゃいけないですね」

 羽生九段と糸谷八段の通算対戦成績は、羽生13勝、糸谷11勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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