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王者バルサは今夜クラシコも。すでに来季に向け、三つの強化プラン

小宮良之スポーツライター・小説家
メッシ、グリーズマンの二人はチームメイトになるのか(写真:ロイター/アフロ)

 2017-18シーズン、FCバルセロナ(以下バルサ)は、無敗での独走優勝を達成している。

「無敵」

 まさに、そんな表現がふさわしい戦いぶりだった。その象徴が、リオネル・メッシだろう。35節終了段階で32ゴールと得点王レースも大きくリードしているが、それ以上にプレーを作り、広げるという貢献まで見せ、傑出した輝きを見せた。

 他にもバルサは、GKテア・シュテーゲン、右SBセルジ・ロベルト、右CBジェラール・ピケ、左CBサミュエル・ウンティティ、左SBジョルディ・アルバ、アンカーのセルジ・ブスケッツ、MFイバン・ラキティッチ、アンドレス・イニエスタ、FWルイス・スアレスなど、それぞれリーグベストイレブンにも値する活躍だった。他にパウリーニョ、デンベレ、コウチーニョという今シーズンの移籍組も質の高いプレーを見せている。

 つまり、チームとして盤石にも映るわけだが、王者は強化に抜かりはない。

「来シーズンの移籍の目玉として、フランス代表FWアントワーヌ・グリーズマンとの契約は基本的合意に達している」

 現地紙エル・ムンド・デポルティボはそう伝えているが、果たしてスペイン王者バルサはどのように変貌を遂げるのか?

メッシ依存からの脱却

「メッシ依存」

 それがバルサの懸案事項になっている。なにも悪いことではない。ただ、メッシが偉大すぎるのだ。

 チャンピオンズリーグ準々決勝のローマ戦、2レグは症状が典型的に悪い方向へ出ている。1レグを4-1で勝利していたことで、チーム全体で慢心していたのもあったろう。序盤からうまくいかず、メッシに頼った。しかしこの日、アルゼンチンの天才は「スイッチが切れた状態」だった。そして為す術もなく失点を許し続け、3-0で敗れたことによって、アウエーゴールで屈した。

 バルサ上層部としては、ネイマールをメッシに代わる選手と見ていた。しかしネイマールはパリ・サンジェルマンへ移籍。必然的に、有力選手探しに躍起になった。それで手にしたのがデンベレ、コウチーニョであったわけだが、現状2人はメッシにも、ネイマールにも及ばない。クラブはまた、メッシのように下部組織からの人材として、ホセ・アルナイスの台頭に期待を寄せていた。しかしアルナイスはスペイン国王杯で華やかにデビューするも、今年1月から股関節を痛め、戦線を離脱したままだ。

 そこでクラブが白羽の矢を立てたのが、アントワーヌ・グリーズマンだった。

メッシに次ぐエースはグリーズマンか?

 グリーズマンは左利きのアタッカーで、一人でも連係を使っても、防御線を突破できる。狭いスペースでも、広いスペースでも、本来の良さを出せるアタッカーで、その点、希有な能力と言える。身体的に、技術的に高いレベルにあるが、それ以上に、戦術的に優れているのだ。

「デンベレはポテンシャルは高いが、戦術的には未熟。そこをトレーニングしていところ」

 バルサ首脳陣はそう洩らしているが、グリーズマンなら適応する力も高い。そこでエル・ムンド・デポルティボ紙は、「アトレティコのシメオネ監督はデンベレのスピード、フィニッシュをドルトムント時代から高く買って、カウンターで生きる選手と考えている。もしグリーズマンが移籍する場合、トレード要員に入る可能性も」と伝えており、これは十分あり得る。グリーズマンがバルサに移籍した場合、デンベレの出場機会は限られるはずだ(一時デンベレはアーセナルへのローンが有力と言われていたが、アーセン・ヴェンゲル監督が退任し、白紙に戻った)。

センターバック、ウンティティは残留するか?

 二つ目の強化ポイントは、層が厚いとは言えないセンターバックだろう。

 フランス代表ウンティティが、2年目の今シーズンはチームにフィット。そのセンスが花開いた印象だが、周囲はやや騒がしい。ウンティティの代理人が高額オファーの手札をちらつかせ、契約更新(現在は2021年まで)の際に大幅な年俸アップを要求。万が一、交渉が決裂した場合に備え、クラブはセビージャの左利きCBクレマン・ラングレ(22才)をリストアップしている。

 もっとも、攻撃が重視されるバルサのセンターバックにふさわしい選手は少ない。過去には、ミリート、チグリンスキー、ソングなどが揃って失敗。特殊な環境なのである。今シーズンはハビエル・マスチェラーノが退団し、トーマス・ヴェルメーレンも戦力になりきらず、ジェリー・ミナも未知数(エルネスト・バルベルデ監督が構想に入れていない)。バルサは移籍違約金6000万ユーロを設定しているだけに、ウンティティを失うとは思えないが・・・。

 バルベルデ監督にとっては、頭の痛いところだろう。CBは今シーズン開幕前から物色を続けるも、交渉は難航。来季の補強は欠かせないが、まずはウンティティの確保が先決か。

イニエスタの後継者

 三つ目の課題は、英雄イニエスタの抜けた穴をどう埋めるか。退団を発表したイニエスタは、バルサの代名詞のような存在だった。下部組織ラ・マシアの旗印にもなっていただけに、代役はなかなか見つからない。

 一部では「コウチーニョをイニエスタの後釜に」という意見もあるが、タイプが違いすぎる。コウチーニョはあくまで個人技を用い、自由にゴールを仕留めるアタッカー。一方で、イニエスタは自らの存在で周りの選手を活かし、チーム全体を活性化、大きなプレーの渦を造り出す名手だった。実際、イニエスタのポジションでも試されたときのコウチーニョは、まるで噛み合っていない。

 グレミオのブラジル人MFアルトゥール・メロも後継者候補の一人と言われる。すでに買い取りの権利は持っており、入団は秒読みと言われる。しかしアルトゥールも、イニエスタと比肩すると見劣りする。

 その点、イニエスタの後継者として期待されるのは、20才MFカルラス・アラニャーだ。

ラ・マシア育ちのアラニャーに期待

 アラニャーはラ・マシアで各カテゴリーを経験し、バルサイズムを体に染みこませている。

「ミニ・スタディ(バルサBのホーム)のマラドーナ」

 そんな異名をとるなど、その技術はトップチームの選手たちと比べても何ら遜色ない。決してボールを失わず、意外性のあるパスも出せる。ラ・マシアの系譜を次ぐボールプレーヤーだ。

 なにより中盤は、バルサのプレースタイルを継承していく選手が不可欠。逆説的に言えば、アラニャーが出場時間を増やせないと、バルサイズムの未来の危機となる。バルサが特別なチームでいられるのは、ヨハン・クライフが作り上げたラ・マシアがあるからで、そこで育った人材を鍛え上げるのも、トップチームの使命だろう。

 補強の裏腹で、しっかり選手を売却するのも重要な仕事になる。貸し出し中のジェラール・デウロフェウ、ラフィーニャ、アルダ・トゥラン、それにカンプ・ノウでしばしばブーイングを浴びたアンドレ・ゴメスも売却リストのトップにいるだろう。アレイチュ・ビダルも放出の可能性が高い。パコ・アルカセルはグリーズマンが来る場合、出場機会はさらに限られ、移籍が濃厚と言われるが、ベンチが続いても文句を言わずにプレーできるFWは少ないだけに・・・。

 いずれにせよ、バルサは三つのプランを実行できるか――。そこが来季の戦略構想における焦点になる。 

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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