ソウルで対日抗議の焼身自殺を目撃 70年談話「謝罪を続ける宿命を背負わせない」は通用するか
安倍晋三首相は14日夕(日本時間)、官邸で記者会見し、戦後70年の首相談話を発表した。文字数は3423字。「侵略」「反省」「お詫び」は1回ずつ盛り込またものの、全体としてあいまいな記述になったという印象を拭い去ることはできなかった。安倍首相は談話を発表する前に「政治的、外交的な意図によって歴史が歪められるようなことは決してあってはならない。それが私の強い信念です」と語った。
安倍談話のポイントを抜き出してみる。
「中国、東南アジア、太平洋の島々など、戦場となった地域では、戦闘のみならず、食糧難などにより、多くの無辜の民が苦しみ、犠牲となりました。戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも、忘れてはなりません」
「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです」「この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません」
「事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」
「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました」
「戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんが、それほど寛容であるためには、どれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか」
「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」
「しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります」
「私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、そうした女性たちの心に、常に寄り添う国でありたい。二十一世紀こそ、女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、世界をリードしてまいります」
村山談話のポイント
「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」
「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表明した村山談話に対し、安倍談話は中国侵略、旧日本軍慰安婦問題の表現を丸くして言及しているものの、「謝罪」と決別し「過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任」に軸足を移している。最初に西洋列強による植民地支配を持ち出すことで日本の戦争責任を相対化しているようにも見える。
村山談話が10年間で約900億円、延べ約60の事業からなる「平和友好交流計画」の出発点になったのに対し、安倍談話は情緒的で何を目的にしたものか、今ひとつはっきりしない。
あす15日の終戦記念日は韓国にとっては日本の植民地支配から独立した「光復節」だ。在韓日本大使館前では、安倍首相に対する糾弾集会が予定されているという。つぶやいたろうラボ(旧つぶやいたろうジャーナリズム塾)4期生の笹山大志くんの、ソウルからの戦後70年リポート第2弾。
ソウルで対日抗議の焼身自殺を目撃した
[ソウル=笹山大志]日本の終戦記念日は韓国にとって、日本の植民地支配から独立した記念日に当たる。国権という光を取り戻した日という意味で光復節と呼ばれている。70周年を迎える光復節を前に朴槿恵大統領は、国内の祝賀ムードづくりに励んでいる。
11日、朴大統領は閣僚会議で「光復70周年契機 国民士気の向上案」を決定し、光復節前日の14日を臨時公休日に指定した。ソウルでは13日、夜遅くまで宴を楽しむ若者たちであふれ、週末のような感じだった。
向上案は恩赦にまで及び、財界人を中心に計6527人の特赦を発表した。それだけではなく、交通違反の罰点や運転免許停止・取り消しなどの行政処分を受けた計220万人に行政処分の減免措置を取ることも決めた。
光復節とクリスマスに行われる恩赦は韓国では珍しいことではない。
だが、TBSラジオに出演した神戸大大学院の木村幹教授によれば、恩赦は朴政権下では初めてだ。その背景には「セウォル号事故や中東呼吸器症候群 MERSの影響で沈滞している韓国社会を活気づけたいとの思いがある」と指摘する。
その一方で、光復節70周年と未だに解決しない日本との歴史問題を重ねて、日本政府への抗議行動も活発化している。
12日、在韓日本大使館前で慰安婦問題の抗議集会に参加していた女子大生を取材中、彼女が私の背後に目線を移したとたん悲鳴を上げた。後ろを振り返ると男性が炎に包まれ、火だるまになっている。
80代の男性が自らの体に火を付け、焼身自殺を図ったのだ。垂れ幕や水、消火器を使ってすぐに火は消し止められたが、すでに男性は全身にひどい火傷を負い、意識を失ったまま倒れていた。今も意識不明の重体という。
14日朝、公開された遺書によれば、男性は独立運動家を父に持ち、「日本が自ら犯した過ちを反省せず、厚かましい言動を続ける行為を見て我慢できなかった」ことが動機だった。
焼身自殺の現場には衝撃と動揺が走った。「見たらいけないものを見てしまった」「もう何がなんだかわからない」と口を震わせている人もいた。20代の女子大生は「いくら、抗議とはいえ絶対、認められない行為。義士として讃えてはならない」と憤った。
毎週水曜日に行われるこの集会は1191回目を迎えた。今回は光復節70周年ということもあり、参加者は普段の10倍、約2千人が参加した。参加者の多くは大学生ら若者だが、それに加え、中・高校生もたくさん集まった。
「遊びに出かけたいけど、1人ひとりが声を上げなければ事態は動かない」と自発的に参加する中高生がいる一方で、親や学校といった大人たちが後押ししているケースも少なくない。中には学校の宿題として参加を義務付けられていた子供もいた。
旧日本軍の慰安婦問題に関しては、韓国世論は完全に一体となっている。そのため、日本のように安全保障関連法案に反対するデモに参加しても大人から嫌がらせを受ける心配はない。歌あり、ダンスありの若者中心のデモは活気がある。
参加者の女子学生は「デモに参加することで就職が不利になることはない」と言う。戦後70年の安倍談話が発表された。すでに15日午後には、在韓日本大使館前で安倍首相糾弾集会が予定されている。
(おわり)
笹山大志(ささやま・たいし)1994年生まれ。立命館大学政策科学部所属。北朝鮮問題や日韓ナショナリズムに関心がある。韓国延世大学語学堂に語学留学。日韓学生フォーラムに参加、日韓市民へのインタビューを学生ウェブメディア「Digital Free Press」で連載し、若者の視点で日韓関係を探っている。