金シャチはパワースポット(!?)。“見たい・さわりたい”名古屋人の心理とは?
金鯱効果で名古屋城は昨年の88%減からV字回復
今年、名古屋城の金の鯱=金シャチが16年ぶりに地上へ降ろされました。名古屋城内で開催された「名古屋城金鯱展」は3月21日~4月3日の14日間で約16万人を集客。昨年の同時期はコロナ禍の影響を受けて入場者が前年比88%減の約2万2000人にまで落ち込んだところ、今年は金シャチの動員力もあってかほぼ例年並みに持ち直しました。
これに続いて現在、名古屋の都心部・栄地区で開催されているのが「名古屋城金シャチ特別展覧」。入場料500円で2体の金シャチを間近で見られ、さらに名古屋城での展示ではなかったふれられる体験が目玉となっています。
「週末は約4000人、平日は約2000人の方にご来場いただいています」。主催する中日新聞事業局の山田興睦さんは、コロナ禍にあっても滑り出しは順調だといいます。そして、金シャチを求めて集まる人々の心理についてこう語ります。
「一種のパワースポットのような感覚ではないでしょうか。金シャチにさわった後は皆さん生き生きとした表情で、名古屋のシンボルにふれることで元気を取り戻したい、という思いなのだと感じます。金シャチは名古屋人のアイデンティティとして根づいているとあらためて実感しています」
「16年前に地上に降りた時も見に行きました。名古屋のシンボルといえばナナちゃん人形と金シャチなので、この機会に見ておかないと!と思ってやってきました」とは海部郡の40代の女性。「近くで見ると細かい部分までしっかり作り込んであるのが分かる。口の中まで見られるのも面白かったですね」というのは知立・安城市から3世代で来場していたファミリー。「名古屋城での展覧も行きましたが、こちらはさわれるというのであらためてきました」とは豊田市の40代男性。会場で見学者に声をかけると、名古屋市民だけでなく、愛知県内の周辺市町村から訪れている人も少なくありませんでした。
金シャチに宿る時代を継承する力、縁起のよさ
今回の特別展覧限定グッズの鯱印を企画した瑞暁山弘峰寺(岐阜市)住職の田村昌大さんは、金シャチの町のシンボルとしての力をこう評します。
「名古屋城は戦のための城ではなく、皆が幸せに生きられる世を願って家康公が築いたもの。その名古屋の歴史を見つめてきた金シャチは、代々城を守ってきた城主の思いを現代につなぐ存在です。金シャチにふれることで、コロナ禍の大変な時代から守られ、正しい方向へ導いてくれるという思いを感じられるのだと思います」
「“金シャチが地上に降りる”という話題のニュース性の高さに驚きました」というのは老舗和菓子店・両口屋是清の広報、近藤美香さん。自社の店舗がある栄地区に金シャチがやって来ることを記念し、金シャチ型の干菓子を売り出したところ大きな反響があったといいます。「問い合わせが殺到し、あっという間に完売になる日が続きました」。もともと干菓子は縁起物をモチーフにしたものが多く、名古屋人にとって金シャチは縁起のよいものとしてありがたがられている証といえます。
「金シャチは全国の鯱のルーツ」! 名古屋城では「鯱展」を開催
一方、当面天守にシンボルがない状態となっている名古屋城では、新設された西の丸御蔵城宝館のプレオープン特別企画としてその名も「鯱展」が開催されています。
「天守に金シャチがいない代わりに、秘蔵の鯱を見てもらおうと企画しました」とは名古屋城調査研究センター学芸員の朝日美砂子さん。同展では名古屋城が国宝だった焼失以前に、江戸城から移管されて櫓に載っていた銅製の鯱を中心に、名古屋城にまつわる貴重な鯱(と関連史料)が展示されています。
朝日さんは鯱への思い入れたっぷりに、金シャチの歴史・文化的価値をこう語ります。
「日本中の城に見られる鯱のルーツは名古屋城の金シャチだと私は考えています。江戸城、大阪城(いわゆる徳川大阪城)は名古屋城の後に建てられ、天守に載っていた鯱はおそらく名古屋をお手本にしてつくられたと考えられる。戦後の城郭の再建ラッシュの際も、名古屋城の金シャチは正確な図面をもとに史実に忠実に復元でき、その後全国の城がこれをお手本にしたのです」
そんな由緒の正しさが名古屋人の金シャチへの親しみにつながっているのでは、と朝日さん。「名古屋の人は普段からシャチに慣れ親しんでいて、金シャチのことが好き。町のどこででも見かける、刻紋(城の石垣に武将が刻んで残した図形などの目印)みたいなものじゃないでしょうか」
長年刷り込まれてきた金シャチへの潜在的な愛着を名古屋人が自覚(?)
名古屋では、公共のマスコットキャラクターや商品のパッケージ、ポスターやパンフレットのイラストやロゴなど、町のいたるところで金シャチが活用されています。名古屋人はそれを意識しなくとも日ごろから目にし、知らず知らずのうちに愛着を刷り込まれてきました。今回、地上に降りた金シャチに対して「とりあえず見に行ってみよう」という心理が働くのは、そんな潜在的な愛着がくすぐられたからではないかと感じます。いわば、長年気づいていなかった金シャチ愛を、金シャチと間近に会える機会が降ってわいたことで、あらためて自覚させられたのではないでしょうか。
今年はいつもと違った形で名古屋のシンボル、金シャチに出会えるチャンス。その光り輝く雄姿とともに、名古屋人の金シャチ愛も感じていただきたいものです。
(写真撮影/すべて筆者)