「中谷潤人はもうエストラーダ戦の準備もできている」 パッキャオを破った元王者が解説

5月20日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ
WBO世界スーパーフライ級王座決定戦
前WBO世界フライ級王者
中谷潤人(M.T/25歳/25戦全勝(19KO))
12回KO
元WBA世界スーパーフライ級王者
アンドリュー・モロニー(豪州/32歳/25勝(16KO)3敗1無効試合)
5月20日、ラスベガスの殿堂MGMで行われた中谷対モロニー戦後、この試合をESPNの解説者としてリングサイドで見たティモシー・ブラッドリーが筆者の質問に応えてくれた。
サウスポーの中谷が強豪を鮮烈にストップし、今年度の年間最高KO候補と反響を呼んだ一戦。現役時代はスーパーライト級、ウェルター級の2階級を制し、マニー・パッキャオ(フィリピン)と通算1勝2敗というライバル関係を築いたブラッドリーの目に中谷の戦いぶりはどう映ったのか。

中谷は特別なボクサー
中谷は誰にとっても対峙するのが非常に難しい選手だ。サイズ、パンチ力、接近戦のうまさといった長所だけでなく、非常に聡明なボクサーだからだ。
常に集中していて、メンタル面でタフ。クルーズコントロールしながら、必要に応じてギアを上げられる。モロニー戦の中谷はペースを自在に変え、ほとんど容易に勝ってしまったようにすら見えた。ワールドクラスの相手との世界タイトル戦を簡単に見せてしまうようなボクサーは、つまり特別な選手だということだ。
中谷潤人は特別なボクサー。今後、対戦相手に恵まれれば、その偉大さを世に知らしめることができると思う。中谷は“このスポーツと結婚した”タイプの選手に見える。献身的姿勢と規律があったからこそ、このレベルまで辿り着けたのだろう。
フィニッシュは見ていて恐怖感を感じるほどのノックアウトだった。どんなパンチを思い描いているかまでは定かではなかったが、彼がKOを狙っているのはわかっていた。「とどめのパンチを狙っている」とESPNの解説でも指摘していたよ。少し動きを緩めて、モロニーを誘い込んでいた。プラン通りに最後のパンチを決めて仕留めてしまったんだから、もう見事としか言いようがない。

技術面で印象的なのは、中谷は小柄なボクサー相手に身長を生かそうとするだけではなく、相手と同じ目線で戦えることだ。長身の選手は大抵、上から打ち下ろすようにパンチを出すが、中谷は意識的に身体を低くした上で、リーチとパワーを生かした強烈なパンチをより遠い距離から放ってくる。距離感も優れているから、そう戦われると小柄な相手が懐に飛び込むのはとても難しくなるんだ。
誰が教えたのかはわからないが、素晴らしい戦術だ。そうやって頭の位置を変えろというのは、私が以前から長身のボクサーたちに伝えてきたことでもある。中谷にはもうそれができているんだから、すごいことだよ。
中谷対エストラーダは必見のマッチアップ
あえて課題を挙げるとすれば、接近戦で押し負けないだけのフィジカルの強さを身につけることだ。モロニー戦でも身体で押されるシーンはあった。足を強くして、小柄な選手に抱え込まれた際に抜け出す術を身につければ役に立つだろう。
中谷は接近戦自体はすでに上手で、その距離でも様々なコンビネーションを放つことができる。アングルを変えたパンチが出せるのも魅力だ。多くの武器を備えた選手だから、あとはフィジカルくらいしか矯正ポイントは見当たらない。これから先も、彼の戦いを見るのを私も楽しみにしている。
中谷はファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)と戦いたがっている?それはとてつもないカードだ。私もぜひ見てみたい。
エストラーダはワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)同様、このスポーツのレジェンドであり、多くの強敵と激闘を経験して来た。エストラーダ、中谷の両方にとって文句のないカードだ。
中谷はもう準備ができているよ。パワー、ボクシングIQ、距離感、接近戦のうまさを備えた中谷は、カウンターパンチャーのエストラーダ にとっても厳しいマッチアップ。中谷が勝っても、私はまったく驚かないだろう。