キーワードは「共創」「リ・デザイン」 地域公共交通の存続へ国交省部会が中間とりまとめ
「地方の公共交通をどうするか?」という議論は、主に政治ではなく行政の問題として行われている。岸田政権自体は施政方針演説を見る限り、鉄道政策にあまり関心がないようで簡単に触れている程度だが、国土交通省の中ではすでに審議会で議論が始まっている。今国会で議論の対象となるだろう。
国土交通省「交通政策審議会」の地域公共交通部会では、地域公共交通の「リ・デザイン」に向けた検討が進んでいる。この部会の上位組織である交通体系分科会は、鉄道等の乗り物の種類に分かれた分科会ではなく、国の交通政策全体を見渡すための分科会となっている。
その中で、地域に公共交通を残し、どんな人でも自由に移動ができる交通体系を残していくための策を議論するのが、地域公共交通部会の主な役割である。
この部会が1月17日に開かれ、中間とりまとめが行われた。どんな内容だったのだろうか?
制度と財源の対応
「地域の公共交通を守る」という議論が出るたびに、「財源は?」と言う人が現れる。地方交通は公共的なものだから必ず守らなくてはならないと筆者は考えるものの、今はこういった考え方は少数派であり、なかなか受け入れられないのが現状だ。
中間とりまとめでは、ローカル鉄道や地域公共交通を再構築する仕組みづくりの方向性を盛り込んだ。鉄道特性が発揮できなくなっているローカル鉄道について、自治体や鉄道事業者の要請で国土交通省が組織する協議会を設置できるようにし、関係者で連携できるようにする。その協議会で再構築方針を合意し、鉄道を維持するかほかの輸送モードにするかを決め、ニーズに合った公共交通を提供できるようにする。
また鉄道・バスその他の枠組みを超え、自治体と交通事業者が一定の区域で協定を結び、交通サービス水準を定める事業を支援する。上下分離に取り組む自治体も支援する。
さらに地方公共団体が主体となって公共交通を維持し、利便性の確保を図る取り組みを支援する。
そのために、鉄道やタクシーでは地域の実情に沿った運賃設定を可能にする。公共交通が不十分な地域では、タクシーなどの確保に向けた改善策を検討するという。
その上で、他分野との連携やDX・GXの活用を推進する。
次は、肝心の財源である。
2022年度の補正予算をもとに、まずは既存の公共交通に対して追加的な支援を行う。具体的には、生産性向上に取り組む地域の交通事業者に対して運行支援する。また交通を地域の生活と一体としてとらえ、その維持や活性化へ複数の主体が連携する取り組みも支援する。その中には、関係者の合意形成のために、ローカル鉄道の意義や役割の調査や実証事業の支援も含む。2023年度予算案には、EV車両や自動運転車両の導入への支援制度創出も盛り込む。
公共交通のために、公共事業予算を活用することも検討中だ。社会資本整備総合交付金による支援で、地域公共交通ネットワーク再構築に必要なインフラ整備に対して、新たな支援メニューを創設する。地方負担に関しても財政措置を創設する。あわせて、街づくり予算の制度を拡充する。
予算面でもこれだけのことをやろうとしているのだ。
今後どうなっていくのか?
こういった措置を講じて、国は地方の公共交通をどうしようとしていくのか?
キーワードは、「共創」である。各地域のそれぞれのニーズに見合った交通サービスを確保するために、公共交通それぞれのつながりを強化する。交通結節点を充実させ、地域が主体となってサービス事業や生活インフラと公共交通を一体化する。デジタル技術を活用し、利便性向上や政策立案のためのデータ収集や環境整備を行う。また公共交通の利用で脱炭素も促進する。
この「共創」で、地域公共交通の「リ・デザイン」再構築を進め、交通機関の垣根を越え、交通以外とも手を携え、潜在需要を顕在化させる。
地域の資源を最大限に活用し、交通サービスを適材適所で実現・持続するようにする。
つまり、鉄道・バス・タクシーなどが深い協力関係を結び、地方でも便利な公共交通にし、郊外の公共施設や商業施設への交通の便も確保して、多くの人が利用しやすいようにする、というのがこの地域公共交通部会での方針である。
その中でも、ローカル鉄道は廃止しようとするのではなく、なるべく残そうとする議論が進んでいる。
地域公共交通の存続は、行政の中では検討されているのだ。
1月23日に通常国会が始まった。地域公共交通をどうするか国会で積極的に論じられることを期待したい。